はやくはやく(カシアリ) | ナノ



キシッキシッとボロアパートの外階段が音を立てる。ピアノの練習にいっているマリアムを迎えに行くにはまだ時間がある。こんな時を見計らったように訪ねてくるあいつのために、俺はわざわざ店で余ったものを持って帰ってやる。黄色い頭のアホヅラを思い浮かべながら、錆びかけた扉の鍵を回した。
「ん・・・あー、おかえり・・・?」
思い浮かべた顔よりも数段ひどい寝ぼけ顔で迎えられ、俺は無言のままアリババの頭の上に荷物を落下させた。
「ってぇ・・・、んだよー、そんな怒ることねえだろー?お前が帰ってくんのがおせーのが悪い。」
「ほー、そうか。じゃあこれはいらないんだな」
「うああああすんませんカシム様!!寝コケてた俺が悪いです!!」
チラリと店の紙袋を見せてやれば目の色を変えてすがりついてきた。ほんとにアホな犬だ。ちなみにコイツの好物の一つは、俺のバイト先の喫茶店のサンドイッチ。
口いっぱいにほおばるアホが喉を詰まらせる前に、マリアムと同じ甘いココアを入れてやった。
俺はもちろんブラックコーヒー。砂糖を入れてもコーヒーが飲めないなんて、とんだ子供舌だ。加えて猫舌だから手に負えない。

「んー!!やっぱお前んとこのサンドイッチもココアもうめーな!」
ミルクを足して冷ましたココアを飲み干して、満足げに笑う。
「相変わらずココアしか飲めねえなんて、ほんとガキだな。」
「お前こそよくそんな苦いの飲めるよなー」
「この良さがわからねえなんて、かわいそうだな・・・」
「う、うるせーよ!俺だってな、その気になれば・・・!」
「ほーう?」

ならば、と黒い液体を口に含みそのまま口づけ流し込む。逃げようとする頭を後ろからしっかりと押さえ床へと押し倒す。
バタバタと暴れる足も、数秒後にはおとなしくなった。コイツの性感帯は口の中にもあるようで、すこし弄ってやればすぐにふやけた表情をみせる。
「っ・・・は、」
追いかけるように舌を絡めれば、最初にこいつが飲んでいた甘ったるいココアの味が伝わってくる。よほど苦かったのか、眉間にしわを寄せぎゅっと俺の服を握ったままだ。さすがにはじめからブラックはきつかったか。

早く飲めるようになれ。
俺がマスターに習った最高にうまいコーヒーを一番に飲ませてやるから。

Hurry Hurry!! I'm waiting!