第三夜:お持ち帰り | ナノ

あれからあのちっちゃなネクロマンサーを自宅に連れ帰った。
主要である腕を封じたまま壁際に縄を括り付け、飼い犬のようにある範囲内のみの自由を許す。よし。
ついでに武器であるやたら重い楔型の金属と赤い紐を回収しておく。

「おい、こら、俺は犬畜生じゃねぇ!」

なんか騒ぐ声がうるさいが、まあ、こっちも疲労でくたくたなんだよ。
子供って元気だなと思いながら、とりあえず移動範囲内である俺のベッドに乗せる。
朝日が眩しいが今日は寝よう。

「縄を解けこのクズが」
「はいはい、子供がそんなこと言わねーの」
「子供扱いすんじゃね、っぶ」


腕が使えないなら歯でもと、噛み付いてこようとしてきたので、その辺の枕を押し付ける。
まあ、使えそうだから拉致してきた点ではクズと呼ばれてもしかたがないか。

もがもがとひとしきり暴れていたものの、唐突にぴたりと動きが止まった。
窒息したのかと小さな塊を見ると、子供は先程の戦闘で切られた服の辺りを凝視している。
いや、正確には、傷のあったはずの素肌をじっと見つめていた。
その後すぐに子供は瞳を赤く輝かせ、じっと俺を観察する。
気が済んだのかしばらくすると、口を開いた。

「あんた、闇の覇者ヴァンパイアか?」

間。そしてまた、ぼそりと。

「餌、か?」

内容に伴わない、どこか楽しそうに感じるような響きだった。
さて、どう返すべきか。
まあ、当たらずとも遠からず、といった風だし、この様子だと都合がいいかもしれない。

「そうだな、お前みたいな小さいのはあんまり餌にはならねぇけど」

肯定すると、子どもは顔を輝かせた。
なんだ、普通逆じゃないのか?

「じゃあなんで俺を飼い繋いでんだ?」
「餌より有効に使えそうだから。あと、成長してから食うほうが今よりマシだと思ったから。」

まあ、嘘ではないな。前半は。
子どもはベッドの上で縛られたままキラキラと目を輝かせている。

「ってことは、俺は闇の覇者ヴァンパイアに認められ、血の盟約を結び、闇夜を駆ける選ばれし最凶の死霊使い(アルティメットネクロマンサー)としてお前に使役されるんだな!」

一気に口数が増えた。
しかも、ちょっと意味がわからない。

「寝首でも掻いて、使役してやろうと思ったけど、深淵の闇に染まりしその身は俺が手を出せる範疇にはない。どうりで、妙な色だと思ったんだが、成る程。俺は血の盟約を交わす事により、この身を更に闇に染め、凍てついた屍者を操作し、さらに俺が成長した暁には餌として身を捧げなければならない、と」

何やら一人で納得の方向に走っている。
……もしかして、ヴァンパイア
が当たりだった?
先ほどまでの暴れっぷりとは打って変わって、尊敬のまじった眼差しで見つめてくる。
ある意味成功、ある意味失敗したな。

「そういうことなんだな?」

どういうことなんだ。
いや、うん。間違ってはないか、間になんか挟まってるだけで。

肯定の意でそれなりに頷くと子どもはおとなしくベッドに転がった。
縛られたままだけど。
ついでに解く気もまだないけど。
でも、ちょっと従順になり過ぎて怖い。


とりあえず寝るんだったと、ベッドの隣に潜り込むと、子どもも疲れていたのかすやすやと寝息が聞こえてきた。
あんなに大量のゾンビを使役できるくせに、やっぱり子どもなんだな。
いつもはない、隣にあるちょっと暖かい体温を感じながら目を閉じた。

(他人の温もりを感じる朝)

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14.2.4

文体が違うのは初芽が書かせていただきました。
まだまだ、子どもの正体などなど、明かしていないことは沢山あるので、ゆっくりですが更新していきたいと思います。
ありがとうございました。