シンドリア、シャルヤム中心人魚姫パロ。
ストーリーも捏造しています
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蒼く澄んだ海の底、色とりどりの珊瑚の森に囲まれてその王宮は輝きを放っていました。
今夜は王の末娘、ヤムライハの誕生日です。王宮はいつもより賑やかで、誰もが姫にお祝いの言葉をかけました。
「おめでとう、ヤム!これであなたも一人前の人魚になれたのね!」
「ピスティ!ありがとう。やっと外の世界を見に行けると思うとうずうずしちゃって、落ち着かないの。」
人魚界の掟では、成人を迎えてはじめて地上へ出ることが許されます。
只し、人間に見つかることは決してなりません。
ヤムライハはすでに成人を迎えた姉たちから人間界の話を聞き、この日が来るのをいまかいまかと待ち焦がれていました。
地上には全く水がないのだといいます。尾を持たない人間たちは、代わりに日本の足で地を踏みしめて生活しているらしいのです。
いままで想像するしかできなかったそんな世界へ、今日ようやく行くことができると思うと、胸の高鳴りを感じずに入られませんでした。
「いいなあ、私も早くいきたいなあ!明日上の様子をたくさん聞かせてね!」
ヤムライハの親友であり、妹のようにも思えるピスティは、その腕をヤムライハの首にまわすと、珊瑚と真珠で作られたネックレスをつけてあげました。
「まあ、綺麗!」
「でしょ!?絶対ヤムに似合うと思ったんだー!」
「ありがとう、ピスティ!」
自分よりもいくぶん小さな体を抱きしめると、ピスティも嬉しそうに笑います。
王宮でのパーティーもそこそこに、ヤムライハは王のもとへと向かいました。
「おめでとう、ヤムライハ。よく立派に育ってくれた。」
「ありがとうございます、お父様。これも皆のお陰ですわ。」
「王に似ず誠実に育ってくれて良かったですよ。」
「ジャーファル…それはないだろう。」
この広い海の中、七つの海域を支配するという覇王シンドバッドもこう言われては形無しで、困ったように眉を下げました。
王の側近であるジャーファルは、時に兄のようであり時に母のようであり、ヤムライハの先の言葉はジャーファルに向けられたものでもあったのです。
「そんなことよりお父様、私も今日で成人しました。もう地上を見に行ってもよいのでしょう?」
今朝起きて布団を出る前から、さらに言えばもう一月ほど前から、ヤムライハの頭はこの事でいっぱいでした。
一刻も早く新しい世界を見たくて仕方がないのです。
「しかし姫、宴の最中に主役が抜けるなど…」
「まあいいじゃないか、挨拶も済ませたし、今は皆それぞれに楽しんでいる。冒険心が強いのは俺譲りなのだからしかたない。いってきなさい。」
王の言葉にヤムライハは海に眠る大きな真珠のように顔を輝かせると、はい!と大きく返事をして頭を下げました。
「只し、人間に姿を見られてはいけないよ。」
まあ、もし見られたときはイルカのふりでもして帰ってきなさい。
シン!!と声を大きくするジャーファルを背に、ヤムライハは心踊らせながら王宮を飛び出しました。
珊瑚の森を抜け、海草をくぐり、すれ違う魚たちに手を降りながら海面へとむかいます。
ざぱん…
地上に出てはじめて目にしたものは、銀の光でした。
海面の上にはさらに海面があるよで、真っ黒なそれに小さないくつもの銀の光が散りばめられています。
その中でもひときわ大きな丸い光は、本来ならば真っ暗なはずの夜の海を煌々と照らしていました。
あれが、月というものね。
先に地上を見に行った姉たちに聞いたことがありました。
夜は月、昼は太陽が交代で地上を照らし、光の恵みを与えているのだと。
「綺麗…」
王宮にある琥珀や真珠とも引けをとらないほどにそれは美しく、しばらく見とれていると、ふと波の動きがかわったような気がしました。辺りを見回すと何やら海の上に大きな物が浮いています。
なにかしら。見るものすべてが珍しいヤムライハは、側へと泳いでいきました。近づくにつれて聞こえてくる音楽はとても賑やかで、どうやら人間たちも宴を開いているようでした。
この日は国の王子さまが成人を迎えた特別な日で、大きな客船の中で盛大にお祝いをしている最中だったのです。
笛の音や澄んだ歌声が、夜空に吸い込まれていき、ヤムライハもたまらず音楽にその美しい歌声をのせました。
人魚の声はそれはそれは美しく、聴くもの誰もを魅了させてしまいます。船乗りたちは姿の見えない歌声を海の怪物セイレーンの仕業だと恐れていたほどでした。
しかし幸い人間たちは宴に夢中でその声に気づいたものはいないようでした。
「…?」
ふと、海の様子が変わったことに気がつきヤムライハが辺りを見回すと、それまで海を照らしていた銀の光は雲におおわれ、かわりにギラギラと牙をむく稲光が夜の空を支配していました。
嵐だわ!
船上の楽しい宴も一転、急いでマストを畳もうとするも時すでに遅く、ミシミシと音をたてて折れてしまいます。波の悪戯で右へ左へ振り回される船は、川辺をさ迷う木の葉のように力なく翻弄されていました。
「王子様!!」
その時、遂に王子は船からその身を投げ出され、真っ黒に渦巻く海の中へと消えていってしまいました。