「いいいでっ!いでででででで!!」
「うるさいわねえじっとしてなさいったら!これくらいで騒いでんじゃないわよ男のくせに!」
「んだと!?おめーも女だったらもうちょっと優しく巻けよ!」
先程より少しだけ力を緩め、ヤムライハは真っ白な包帯を褐色の肌へと巻き付けていく。
迷宮から戻ってきたかわいい弟子たちを助けるべく剣ををとったわけだが、一件が終わり合流してみればシャルルカンの背は赤く染まっており、一番意気込んでいたくせにとさんざん罵倒してやった。
「だいたい私は治癒魔法に特化してる訳じゃないんだから、回復の手助けはできてもすぐには治せないのよ。医療班に頼めばすぐ治してもらえるのになんで私のとこに来るのよ。」
一応薬学も身に付けてはいるので調合した薬に魔法をかけて、回復を早めることはできる。
そんなことをするよりも、病棟にいけば優秀な治癒魔法を使える魔導師がいくらでもいるというのに。
「だってあいつら一番最初にパンツ一枚にするじゃねえか」
「まあ…どこが悪いのか見る必要があるんだから当たり前でしょ。」
「あんな大勢の前で晒せるか!!俺はそこまで恥は捨ててねえ!!」
「なによ、裸ぐらいで大袈裟ね。パンツが残ってるんだからいいじゃない!」
そこは問題じゃねーんだよ…と顔を赤らめながらぼそぼそ呟きだす。お前は乙女か!!と言ってやりたかったが、そういえばシャルルカンの一族、エリオハプトは女性でも胸をさらして平気で過ごすといっていた。
たしか変なところに恥ずかしがっていたわよね、とヤムライハは少し前の記憶を手繰り寄せる。
包帯を巻くために彼は上半身の服をはだけさせ腰辺りに丸めている。意図的にその部位を隠すように集められた布たちをぺろんとめくり、ああそういえばと思い出しだした。
「へそだったわね、あんたの場合。」
「うわあああああっ!!な、な、なにすんだこのバカ女!!」
ずざざざざっと壁に張り付くように後ずさりし、ありったけの布を腹部に集めて抗議する。
乙女か!!
本日二度目の叫びを心中のみにとどめておけたことにヤムライハは自身を誉めた。こちらをチラチラ気にしながら服を着ていく様子はどうにもみていてイラッとする。
「しんじらんねぇ…何のためにお前のとこにきたと思ってんだよ!!」
「なによ、男なら素っ裸で踊れるくらいの度胸もちなさいよ。王様なんて葉っぱ一枚よ!?」
「あの人は別格だろ!!いろんな意味で!!」
口論をしながらも、ヤムライハは包帯や薬品の瓶を薬箱へ入れていく。
部族の特性なんだから仕方ないのはわかっている。少し大人げなかったかしらと、未だぎゃんぎゃん吠えている声を背に爪先だちをして薬箱を棚に戻した。
「おい、お前…」
「きゃ、びっくりした…いきなり後ろにたたないでよ!」
「これ、あのジジイにやられたのか」
いつの間にか壁に張り付いていた乙女はすぐ後ろに来ていて、バランスの悪いつま先立ちだったこともあり必要以上に心臓が跳ねてしまった。
これ、と掴まれたうでは高い位置で作業していたので袖が肘上までめくれていて、赤く擦ったような痕が露になっていた。
「ああ、かすっただけよ。なんてことないわ。」
「んなわけねぇだろ、膿んだり痕が残ったらどうすんだよ。」
ぴしゃりと言われ、言い返す言葉もなくうつむく。
なによ、さっきまで乙女だったくせに。
なおしたばかりの薬箱が再び開けられ、薬を染み込ませた布の上から包帯が巻かれていく。
ただかすっただけなのに、ほんとに大袈裟。
「下手ねえ、ヨレヨレじゃない。」
「だったらあとで巻きなおしてもらえばいいだろ、」
「…いいわよ、このままで。」
「…そうかよ」
さっきの乙女は私にうつったのか、少し顔に熱が集まるような気がした。
目の前の男ははなんとか綺麗に巻こうと腕とにらめっこ。
そのまま気づかないで、うつった乙女が去るまでは。
Do you like...?
(まだ気づかないふりをして)
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ヤムさんに手当てしてほしかった
だけのおはなし。
もどかしいシャルヤムがすきです
13.07.10 暁