(マス+ジャ | ナノ


バルバッド編終了後シンドリアで師匠のもとで修行してるあたり。
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昼を告げる鐘が鳴ると、宮殿内は一気に騒がしくなった。
食堂へ向かうもの、外へ食べに行くもの、弁当を広げるものと様々だ。
マスルールは一足先に食べ終わった山積みの皿を片づけているところだった。
人の数倍の量の食事をとるため、その皿の量は机を一つ埋め尽くしてしまう。昼時の込み合う時間帯に食べ始めていてはほかの注文も増えるため料理が間に合わないのだ。

人が増える前にと食堂を抜けて扉を開けると、「うわっ」という声とともにバサバサと何かが大量に落ちる音がした。扉の裏側をのぞくと、苦笑いのジャーファルと足元に転がる書物たち・・・。

「・・・スンマセン。」
「ううん、私も前を見ていなかったから…」

転がったそれらを拾い集めるが、なかなかに量がある。

「これ、全部一人でもってたんすか」
「うん・・・資料に使ってたから書庫に返しに行こうと思ったんだけど、二回に分けるには中途半端でね。ついよくばっちゃった。」

また一つと腕の中に積み上げようとする手より先に、マスルールはひょいひょいと拾い上げては自分の腕の中へとおさめていく。ついでにすでにジャーファルが拾い集めていた分もすべて取り上げた。

「書庫、でしたよね。」
「えっ、あ、いいよそんな、今から昼休みでしょう?」
「・・・別に、暇なんで。」

どうせこれからいつものあの木の下で昼寝でもしようかと思っていたところだったので何の問題もなかった。ジャーファルは少し申し訳なさそうに笑い、せめて少しはもたせてほしいというので指先まで隠れたその手に一つ、巻物を渡した。

書庫へ向かう石造りの長い廊下を歩く。中庭ではアラジンがアリババに新しく習得したのであろう自分の魔法を披露しているところだった。

「モルジアナは、どうですか?」
「・・・筋はいいです。スピードも、的確性もあがりました。でもまだなんか考え込んでるみたいで、吹っ切れてない感じ・・・っすかね。」

役に立ちたいという気持ちばかり急いて、集中できていないことが多い。今の状態で全力が出せれば以前より数段強くなっているだろうに。
・・・でも、

「でも、強くなりますよ。」
マスルールの言葉にジャーファルはにこりと微笑んだ。

普段であれば、マスルールは足を踏み入れることはまずない広大な書庫。
見上げれば首が痛くなるほどに高く並べられた本たちの、たいていの場所と内容は把握しているというのだからシンドバッドがジャーファフを本の虫、というのもわかる気がした。
指示を受けながらひとつひとつ隙間に戻していき、マスルールの役目は終わる。

「ありがとう、助かったよ」

いつもは袖に隠れている細くて白い指が伸びてきて、赤い髪の毛に埋もれる。そのまま左右に数回なでると、ジャーファルは再び微笑んだ。
身長差のせいで思わず身をかがめてしまったマスルールがぱちりと目を瞬かせると、

「あっ・・・ご、ごめん、つい・・・」

昔のくせで、と恥ずかしそうに手を引いて袖の中へとかくしてしまった。
もう身体だってマスルールのほうがずっと大きいのに、時折無意識に子ども扱いをしてしまうのだ。

「べつに・・・」
「・・・」
「嫌じゃ、ないっすから。」
「え、・・・そう?」

ジャーファルはふふっと少し笑って、服の袖で口元を隠す。
袖の下では三日月を描いた唇が嬉しそうにゆれた。


何年たっても
(変わらない心でいたい)

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シンドリアの母ジャーファルさん。
マスわんわんはジャーファルさんになでなでされたり褒められたりするのは好き。
シャルに犬扱いされると、キレる。

13.07.05  暁