High Jump!(アリモル風味ザガン組) | ナノ





「お、モルジアナ!」

声が聞こえて振り返ると、フェンス越しの歩道に、蜂蜜色の髪が見えた。
あと一週間後で大きな陸上の大会がある。他の陸上部の方々は帰ってしまったけれど、もう少し上手くなりたくて、こうして練習している。

「こんな時間まで練習か?」
「はい、アリババさんは?」
「いや、特に、今から帰るとこだけど」

高く跳びたい一心で、練習に励むこと数週間。
ときたま、こうしてアリババさんが通りかかるのも、密かな楽しみとなっていた。
こんなささやかな雑談を交わすだけで、不思議と力が湧いてくる気がする。
今だってそう、彼が見ているというだけで、空高く跳べそうな力が湧いてくる。
跳んで、みたいわ。

「そーいやさ、モルジアナ、俺の前で跳んだことなかったよな?」
「…え?…あ、そう、ですね」
「やっぱさ、恥ずかしいから跳んでくれないの?」
「いや、そういうわけでは……」

フェンス越しの琥珀色の瞳が、夕焼けを吸い込んで輝く。

「この間さ、たまたまモルジアナが跳んだこと見たんだ。なんてゆーかさ、すげー綺麗だった。上手く表現できねーけど」

その瞳が、あまりにも柔く綻んだから。
気が付いたら、私は駆け出していた。
目指すはいつもより10cm高いバーの先。
乱れそうな呼吸を整える。
早く早くと急く脚に集中する。
あとちょっと。
もう少し。
あの人が見てるから。
私に跳ぶ力を…!!

マットに沈んで真っ先に目に映ったのは、夕焼け色の微かに震えるバー。
じわじわと身体に染み込むのは、達成感。
早く跳べたと言いたくて、噛み締めるのも程々に起き上がる。
夕陽に照らされた蜂蜜色を探す。
いた。笑った。

「すげーな、モルジアナ!」

まるで自分のことのように喜ぶ笑顔がフェンスの手前から駆けてきて、そのまま私に跳んできた。
二人してマットに沈みながら、私に抱きつく二つ目の太陽をみつめる。

「私、跳べました」
「あぁ、バッチリ見たぜ!」
「あの高さ、ずっと跳べなかったんです」
「ってことは、新記録!?お祝いしねーとな!」
「ずっと、跳べなかった理由が、さっきわかりました」

へ?
みたいな口の形したアリババさんが、こちらを見つめてくる。

「それは、貴方のーーー」

「最ッ低のハレンチ野郎なにしてんですかーッッッ!!!」

全てを伝える前に、私とアリババさんの今の状態を見た白龍さんが、校庭に乱入してきた。すごく慌てている様子で。

「くぁwせdrftgyふじこlpー、ももも、モルジアナ殿大丈夫ですか!?何もされていませんか!?」
「あ、はい、なにも……」
「屋外プレイとはなんてうらやまけしからん、こほん、破廉恥なんですか!アリババ殿!」
「え、いやだから、その」

夕日より赤い頬の白龍さんが、アリババさんを私から引き剥がそうとする。
どうして白龍さんが見ていたのかしら、なんて思うけれど、今はそれより跳べたコトが嬉しい。

「よし今日はご馳走だ!……白龍ん家で」
「モルジアナ殿だけなら歓迎します」
「ちょ、俺は!?」
「貴方部外者でしょう」
「それをゆーなら白龍もだろ!」

わいわい言い合う二人を見て、平和だな、と思う。幸せだな、と思う。
さて、そろそろ私は帰らないと、どうしようかしら。
沈みかけた溶けたような夕日を見上げて、ぼんやりと私はそう思った。







High Jump!
(貴方の応援があれば、私はどこまでだってとべそうだから)










(あ、モルさんとアリババくんと白龍お兄さん!なにしてるんだい?)
(おー、アラジンか!)
(棒高跳びの練習です。アラジンは?)
(ウーゴくんと夕ご飯のお買い物さ!)
(そうなんですか。気をつけてお帰り下さい)
(うん、アリババくんたちも気をつけてね!)



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モルさんが跳ぶお話。
無自覚ババと、無自覚モルさん。それに妬いちゃう白龍くん。
アラジンは小学生、帰りに学校の横を通ったのでしょう。ウーゴくんが保護者。毎日もりもり食べて元気です。
モルさんの保護者は実はゴルタスだったり。美味しい弁当を毎朝作ります。


13.6.8 初芽