egoist | ナノ
若シン子ジャ過去捏造
出会って間もない頃。二人で世界中を旅してます。

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ひゅう・・・
冷たい風が木戸を揺らす。カタカタと寂しく音を立て、隙間から入り込んだ外気が背筋を抜けた。

「寒いだろう、ジャーファル。こっちへ来なさい。」

人が住まなくなってしばらくであろう小屋を借りて、今日はここで一晩を過ごすことにした。雨風はしのげるものの少し隙間風が気になった。まきを燃やして暖をとりながら、自家製スープで体を温める。膝を抱えて布にくるまったジャーファルは、反応も返さず丸まったままだ。共に旅をするようになってしばらくたち、だいぶ懐いてくれたと思ったんだが、やはりまだ完全には信頼されていないらしい。

まあ、俺が作ったものを食べてくれるようになっただけよしとするか。さて、明日はどこへ向かおう。少し横になって考えを巡らせていると、自然とまぶたが落ちてきた。

「ん・・・」

首元を通り抜けた冷たい風に、ふと意識が浮上した。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。火もすでに消えてしまっている。

「・・・ジャーファル?」

真っ黒になってしまった薪の向こうがわ、ちょうど俺の向かいに座っていたジャーファルだが、先刻から一ミリも動いていないように感じる。座ったまま眠ってしまったのだろうか。それにしても様子がおかしい。

「おい、ジャーファ・・・、・・・っ!?」
・・・冷たい。それはおおよそ人の体温とは思えない冷たさで、俺の背筋まで凍るようだった。

「ジャーファル!・・・しっかりしろ!!」
「・・・さい、耳元・・・で、」

肩を掴んで揺さぶれば、うっすらと目を開けたジャーファルがうっとうしそうに口を開く。しかしその声は弱々しく、今にも消え入りそうだ。

「どうして、こんな・・・」
冷たい体を抱え、新しく足した薪に火を灯す。淡く照らされた顔は色味を失い真っ白だ。

「どこか悪いのか、しゃべれるか?」
体をさすり、温めようとするが一向に体温は上がらない。どうしてこんなことになったのか全く見当がつかない。少なくとも今日一日行動して体調が悪そうな素振りはなかった。それとも、俺が気づかなかっただけなのか・・・

「・・・、」
「ジャーファル・・・?」
クイッと袖をひかれ顔を覗くと、その頬にはわずかではあるが赤みが戻ってきた気がする。

「・・・!」
揺らめいた炎に照らされた顔は、左の頬下から首あたりまでびっしりとウロコのようなものが現れ、大きな瞳は黄色く光りその瞳孔はパックリと縦に割れていた。

「お・・・前、蛇・・・なのか?」
獣の血を半分引き継いだ俺たち半獣は、もとの動物の性質も少なからず受け継いでいる。コイツの場合は蛇・・・。変温動物の蛇は外気温に合わせて体温が変化するため、総長などの気温の低い時間帯は体の動きが鈍る。今日は冷え込みが激しいため同様に体温が下がり動けなくなってしまったのだろう。

「どうして早く言わなかったんだ・・・下手をすれば死ぬかもしれないんだぞ」
「・・・死なないよ、今までだってずっとこうして来たんだから。」
幼い顔には似つかわしくない冷えた瞳に、この子殺伐とした過去がうかがえる。寒い寒い冬の夜、この子はどんな思いで一夜を過ごしたんだろう。暗く冷たい、空気の中で一人自分を抱いて朝日を待っていたのだろう。
おれは、毛布でくるんだ小さな体を強く抱きしめた。

「これからは、寒い夜をひとりで過ごさなくてもいい。俺がそばにいる。・・・俺が温めてやるよ。」

悲惨にも、世の中の黒い部分しか見てこられなかったジャーファルに、俺が光を与えてやりたい。こんなにも白い心が何も知らずに消えていいわけがない。

「・・・へんなの、俺にそんなことしても、アンタには何の得もないだろ。」
そこそこ体温も戻ったのか、いつものようにつんとした声で呟く。
俺も曖昧な笑みを返すだけにとどめた。

腕の中の小さな天使
(救いたいのか、救われたいのか)
       ―――――これは単なる、俺のエゴ。

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まだぎこちない二人。
変温動物は夏冬辛いんです。
13.06.29