第十三悔

Ad augusta per angusta

××

冬花side

くるくると、まるで予定調和かの様に話が進んでいく

最初から決まっていたかのように、話は進んでいく


「音無!!またお前かっ!!」


「りゅ、竜吾君!!」


まるで何度も繰り返されてきたかのように、その会話はすんなりと進んでいく

何度も繰り返し見せられる舞台ほど苦痛なものはない

ただ、違う点と言えば


「待ってよみんな!!まだ音無さんが犯人と決まったわけじゃ……」


彼女に味方が居るという点

まだはっきりとはわからないけど、基山さんは音無さんの味方みたい

他にも木暮君とか、立向君とか、綱海君とか、なんだか迷っている人もいる

そして、私も

だって、私には玲姫さんを味方にする理由なんてないから

それと同様に、春奈さんも

冷たい、なんて思われるかもしれない

だけど、そんなものでしょ?

自分から見ず知らずの他人のために危険に突っ込む人なんか、現実にいない

そんな正義のヒーローなんていない

だから、私は見てるだけ


「………ちょっと、何よこの騒ぎは」


ふわりと、目に痛い蛍光ピンクの髪が横を通りすぎる

キツイ物言いと、見下したような眼

亜美さんだった


「………あ、あのっ、ね、春奈ちゃん、が」


あの玲姫さんでさえ、彼女の前では蛇に睨まれた蛙の様に縮こまってしまう

そんな玲姫さんを憐れんでか、染岡さんが前にでて説明する


「音無のヤローが玲姫をカッターで切り付けたんだよ」


そう説明した瞬間、玲姫さんはそのことを思い出したかのように腕を抑えながら目に涙を浮かべる

確かに、状況証拠だけなら、音無さんが悪いのだろう

だけど、違う

本当に、悪い人は


「ふーん…………で?」


亜美さんはまるで興味なんか無いかのようにそう言い放つ

あまりにも突き放した物言いにみんな茫然と彼女を見つめる


「その女がその女を傷つけた………で?それがどうしたの?」


「なっ、どうしたって」


「だって、それその二人の問題でしょ?私たちが関わる理由一つも無いじゃない、わかったらとっとと練習に戻りなさいよ、最初の一戦、負けたいの?」


「か、関係無くなんかないだろ!!」


「どうして?」


「俺たちは仲間だ!!」


「で?」


「だから、この二人だけの問題じゃない!!」


「それで?どうするの?」


「それは!!」


まるで、平行線の様に会話が進む

亜美さんの目はまるでくだらないものを見るかのように鬼道君や染岡君たちを見る


「……はぁ………あのさぁ、私たちがその二人の問題に関わってどうするつもり?小学生みたく学級会でも開くの?バッカみたい、そんなことしてる暇があるなら練習しなさいよ」


「だが、音無は刃物を使って玲姫を傷つけたんだぞ!!」


「ふーん、それじゃぁ玲姫、あんたなんで傷つけられたの?」


そう言って彼女の矛先は玲姫に向かう

瞬間、玲姫は彼女の冷たい目にさらされ、体を震わせる

そしておびえたような眼で彼女を見ながら説明する


「は、春奈ちゃんが……前の、風丸君が、死んだのは私の、せい、って……だから、消えちゃえ、って」


零れ零れ落ちていく言葉は、なるほど、確かに音無さんならありえそうだった

私も詳しくは知らないけど、音無さんにとって風丸君という人は大切な人だったらしいから

だから、音無さんから考えれば復讐なのだろう

うん、筋は通ってるね


「……………で?」


だけど、亜美さんはその話を聞いても眉ひとつ動かさなかった


「え、で、って」


「何かと思えばくだらない、ますます私たちが介入するところなんて無いじゃない、二人の問題じゃん」


「なっ、だからこれは二人だけの問題では!!」


「じゃ、あんた達が介入して何が解決するの?」


冷たい目と言葉が鋭い刃物になって突き刺さる

誰も、何も言えない


「殺傷沙汰になったっていうんなら警察にでも相談しなさいよ、子供であるあんた達に何ができるっていうの?人を罰することの意味も理解していないガキ共が」


「あんた達にできることなんか何一つない、これは二人の問題、だから二人で悩んで解決でもしてなさい、私はどうなろうと知らないわ」


「それに、最初に言ったわよね?面倒事は嫌って、別にあんた達が殺傷沙汰起こそうと構わないけど、その事件の所為で処理に追われる私たちのことも考えてくんない?」


「ま、」


「出場停止になりたいなら別だけど」


パタリ、とドアを閉めて亜美さんは出ていく

まるで、全てを拒絶するかのように

誰も反論できない

だって、本当のことだもん

当人たちだけの問題に様々な人が介入するから捻じれて、絡まっていく

そうして、いつしか誰も真実がわからなくなる

誰が間違ってる、じゃなくて、誰もが間違っている

それが、答

ねぇ、


「………本当に、悪い人は誰なんだろうね」


誰も、私の問に答えてくれなかった

××

夏未side

むせ返るような熱気と照り付ける太陽が私の体温を上昇させる

カラカラと乾く喉は水分を訴えており、私は慌ててペットボトルに入った水を飲む

月日は当然の様に過ぎ去っていき、日本も夏となった

あのエイリア事件も今ではすっかり鳴りを潜め、誰もが平和に過ごしている

かくいう私も、明日とうとう退院が決まり、最後の病院での散歩を楽しんでいた

………私は、途中でリタイアをしてしまった

だから、あの子の最期がどんなものだったのかは知らない

断片的には聞けたけど、それでも皆の意見は矛盾している

それは、彼女への思いが違うから


基山ヒロト曰く、あの子は幸せそうだったと

音無春奈曰く、あの子は悲しそうだったと

円堂守曰く、あの子は恨めしそうだったと


誰の意見が正しいのかはわからない

だけど、たぶん全員が正解で間違い

だって、その意見はそれぞれの思いを表しているのだから

誰一人、彼女の本当の想いに至っていない

それは、私も含めて



「………本当、あなたは何を思っていたのかしら」


いったい、何を思えば、あの場面で彼を庇えるのだろう

自分がボロボロの状態で、動くのすら困難な状況で

どんな思いを抱けば、自分を殺せるのだろう

どんな人を愛せれば、自殺できるのだろう



「私には無理だったわ、大好きな、愛している人の為に自分を殺すなんて」



私だって、好きよ、大好きだわ

円堂君のことが大好きで、愛しているわ

彼が困っているのなら助けになりたい

彼のそばに寄り添いたい

彼と一緒に過ごせたら、それだけで幸せ

彼の笑顔を見るだけで、全て救われる

それは、あの子も同じはず

あの子と私の大きな違いは、大好きな人の為に自分を殺せるか

私には、無理だった

円堂君のために、殺すなんてできなかった


それは決して悪いことなどではない

むしろ良い方だとも言えるだろう

誰かのために殺すなど、良いことではないのだから

だから、悪いわけではないのに

どうしても、思い知らされてしまう

私と、彼女の愛の差を



「…………それで、私の話を聞いて、貴方はどうしたいの?」



そう言って、私は顔を上げる

目の前には、松葉杖をついて、少し歩きづらそうにしている貴方が居る



「…………そんなの、僕もわかんないよ」


そう言って、貴方は―――吹雪士郎は困ったように笑った

××

吹雪side

僕は―――何がしたかったのだろう

自分でも、よくわからない

ただの嫉妬であの子を傷つけて、最後には謝ることもできずに死なれてしまった

謝りたいのだろうか

あの日のことを、あの子と、キャプテンを仲違いさせる切っ掛けを作ってしまったことを

それだけ、なのだろうか

僕には、最後、彼女の顔が見えなかった

違う、見えた

全員、彼女が落ちる瞬間の顔を見ていた

だけど、僕の場合真っ黒に塗りつぶされていてどうしても思い出せない

あの時、あの子は何を思っていたのかな


「…………僕は、謝りたいのかな………」


「そんなの、私が知るわけないでしょう」



謝って、どうするんだろう

そもそも、本当に謝りたいのかな?

考えれば考えるほど、泥沼にはまってわからなくなる

あの子は、僕のことをどう思ってるんだろう

どうやたって、人は人の心を知ることができない

死んだ人の意志を知ることができない

それがどうしようもなく歯がゆくて


「…………なんで、皆勝手に居なくなるんだろう」


気が付いたら、もう隣には居ない

待って、待って

そう叫んでもどんどん先に進んで行って

気が付いたら、一人ぼっち


「………そんなことないわよ」


「……どこが」


「だって、あの子は何時だって後ろばかりを気にして、みんなが来るのを待っていたじゃない」



とっとと前に進んでしまえばいいのに

後ろばかり気にして

だから誰よりも遅く進んで


「あの子は、誰もおいて行こうとなんてしていなかった」


隣を、歩こうとはしてくれなかった

だけど、置いていくということは絶対にしなかった

実際は、僕の後ろをあの子はいつも歩いていたんだ

後ろから、ずっと見守って

だけどみんなはそれを勘違いして

イタチごっこの様にグルグルと回り続けていた


今なら、思い出せるかもしれない

あの子が最後、どんな顔をしていたのか

だけど、


「全部、遅いよ」


全部終わってしまった後で悔やむことほど辛いものはない

もう、やりなおせないのだ

あの頃には戻れない

ただ無邪気に笑いあって、雪遊びをしていた頃には

季節は、もう夏


「死んだら、意味ないよ」


後に残される人は皆何を思うのだろう

苦しくて仕方がない

謝りたかった、ただ一言

もう一度笑いあって、恋をしたかったのだ


沈黙が、流れる

ゆっくりと流れる雲のした、僕は俯く

目の前の彼女は大きく息を吸い、決意を秘めた瞳で前を見つめる


「それは、違うわ」


それは、先日までベッドの上で横たわり、死にかけていた彼女とは正反対なものだった

瞳は温かい光を放ち、その声色は何よりも威厳に満ちていた

それは、あの日のあの子とどこか被る所がある

そうだ、これは、生きると決意を固めた人間の顔だ



「あの人は生きています、絶対に」


断言する

それが当然であるかのように、間違いなんか無いように

一遍も疑わず

彼女はただ前を見据えて、遠い空の向こうを見ていた


「あの人は簡単に死ぬような人じゃないわ」


「………それでも、あの子は人間だよ、あんな崖から落ちたら……」


「でも、死体は見つかってないわ」


死体が無い=死んでいない

そうとでも言うかのよう彼女は言う

この世に一体いくつの人が体も見つからないで死んだことになっているのか知らないかのように


「………そんなの、無茶苦茶だ」


「そうね、そうよ、この理論は最初から破綻しているかのように無茶苦茶よ」


そうとわかっていながら、彼女は決して怯まない

何が彼女にそこまで勇気を与えているのかわからない

何が、彼女をそこまで突き動かすのかわからない


「でも、その無茶苦茶な理論の上で生きてきたのがあの人よ」


思い出すのは、昔のこと

東京から海を泳いで北海道まで行ってその上迷子

なのに馬鹿みたいに笑いながらセクハラして、遊び倒して

僕たちと遅くまで遊んで、それから漸く保護されて

そんな無茶苦茶さに憧れた

雪崩に巻き込まれて

どこに居るかもわからない雪の上から

たったの一日しか遊んでいない友達を見つけるために必死になって

周りのことなんかなりふり構わず

ただ、その時、その一瞬を必死に生きていた

友達の為に、生きていた

そんな、無茶苦茶な理論


「あの人は生きてる、私たちを置いていくはずがないわ」


瞳から、涙がこぼれる

あぁ、そうだ

あの子は何時だって、自分の為じゃなくて友達の為だけに生きてきた

そんなあの子が、まだ困っている友達が居る中、死ぬはずがない


「そして、それを私たちが信じなければ、永遠に誰もあの人を見つけることなんてできない」


誰かが信じなければ、誰かが認めなければそれは生きてるとは言えない

誰かが、信じて、認めて、愛さなければ

あの子が、友達のために必死にやってきたように

あの子の無茶苦茶な理論がこの世で通じるというのなら、彼女の無茶苦茶な理論も通じなければいけない

その為の奇跡を起こすには、信じなければいけないのだ


「たとえどんな事を言われたって私は信じるわ、あの人は生きてる、みんなを助けに来る、あのチームを救いに来る、友達のために必死になる、愛してる人のために生きるって」


涙が頬を伝い、地面へと零れ落ちる

僕はそれを拭いもせず、彼女へ視線を向ける


「………希望を掴み取りたいなら自ら立って戦え、明るい未来は一兆分の一の確立よりも更に低い確率でしかない」


「え?」


「僕が小さいころ、読んでた本にあった一節だよ………きっと、僕たちが思う奇跡も同じくらいの確立なんだろうね」


無限にある砂粒の中から、たった一つの塵を探すような途方もないこと

それでも、


「僕も、信じてみたい、あの子が生きてるって」


誰かが信じ始めて、それで漸く奇跡は起きる

だから、信じてみたい

僕たちの傲慢かもしれない

あんなにも苦しんでいたあの子にまだ生きろと信じるのは

でも、傲慢だと、非道だと罵られてもいいくらい


「僕は、あの子が大好きだから」


みんな、あの子が大好きでしかたないから




Ad augusta per angusta.


(狭き道によって高みに)

(それがどんなに低い確率でも)

(信じる事をやめたら全てが終わってしまう)

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