第十二悔

Aliena nobis, nostra plus aliis placent

××

マックスside

マックスにとって風丸亜紀という人物は好きな人でもあった

彼が初めて意識した異性といってもいい

彼にとって亜紀は、いや、みんなにとって亜紀は正に理想を体現したかのような人だった

人によって彼女への見方は違う、だからこそ理想

だからみんなは彼女を前にして選択肢を迫られる

その理想を友情と見るか、愛情と見るか

大抵の人は愛情を取ってしまう

だって、完璧にも近いほど、自分の理想の人なのだから

だけどマックスは、友情を取った

別に愛情を取っても良かったのだが、彼は円堂守を見て、止めた

第三者からの視点で見れば亜紀が円堂のことを大切にしているのは丸わかりだったし、円堂が亜紀のことを好いてるのも丸わかりだった

どうやったって、間に入れるものではなかった

だから、友情を取って、恋人になれない代わりに親友になろうとした

そのことに関しては今でも後悔していないし、それで良かったのだと思っている

事実、最後の時彼女はとても幸せそうに笑っていた

馬鹿みたいに、死にかけているくせに、自分のことを嫌っている…自分が愛した少年のために

誰もその事実を認められないから、みんなしてその事実を捻じ曲げる

悲しみに濁った眼で、真実から目をそらして、自分に都合のいい終わりを見る

みんな馬鹿なんだ、だから復讐とか真実とか偽物とかに拘る

そんなものどこにもありはしないのに

だから、『僕』は今日も青い空に向かってこう、呟く



「………ばーーかっ」



また今日も、君は笑っているのかな

××

半田side


とうとう、イナズマジャパンが本選に進んで、第一試合のイギリス戦が明後日に迫ってきた

TVでは連日のようにイナズマジャパン特集をやっていてこの前までやっていたエイリア騒動なんか忘れている

あんなにも、悲しい最後を迎えても結局時間が経ってしまえば人は忘れていく

どんなに大切な人が死んでも、何時までも悲しんでいられない

テレビの向こうには円堂や豪炎寺、鬼道に染岡も居るのにどこにもアイツが居ない

もし、生きていたら今も変わらず笑って過ごせていたのだろうか

………そんなこと、できるわけないか


「半田、なーに考えてんの」


「いや、皆変わんないな、って」


「……中途半田のくせに嘘吐かないでよ」


「……なんだよ、それ」


あの日から、馬鹿みたいに俺たちは騒げなくなった

何時ものやり取りなのに、どこか気力がない

アイツが居ないだけで、俺たちはこうも変わってしまった


「……半田はさー、どう思う?キャプテンたちのこと」


「………どうって言われても、どうとも思えねぇよ」


「……嫌わないの?」


「………………」


俺は、何も答えられない

嫌う、といっても簡単にできることではない

確かに、円堂たちがやってきたことはあまり許せることではない

騙されていたとしても、それでもやはり苛めはよくないものだと思う

だからって、全ての非があるわけでもない

アイツにだって悪いとこはあったし、音無たちにもあったし、玲姫にもあった

全員が等しく、悪くないとも言える

だから、嫌うということは難しい


「そういうマックスどうなんだよ」


「僕?嫌うわけないじゃん、アイツが命を懸けてまで守りたかったもの、親友の僕が嫌ってどうするのさ」


「……いつの間に親友に昇格したんだよ」


「僕の勝手の間に、そんなもんでしょ、友達のレベルって」


「……ひねくれてんな」


「半田は中途半田だね」


「おい」


否定はしない

俺は確かに中途半端だ

マックスの様に断言もできないし、音無の様に立ち向かうこともしない

俺はただ、見ているだけ

それが間違ってることとは思わない

傍観は最も酷い罪だと言う奴もいるけど


「………みんな、強いわけじゃないんだよな」


「……当たり前じゃん、だから、みんなアイツのことを好きになったんだもん」


次の瞬間、俺は勢いよくソファからずり落ちた


「なっ、え、は?」


「なにテンプレなことしてんのさ」


「いや、だって!!好きって!!」


「?、半田だって好きでしょ、亜紀のこと」


「は、え、はあぁぁぁぁぁっっ!!」


マックスの突然の告白に俺は目を白黒させる

てか、だってって、みんなって!!


「……うわ、マジで?本当に中途半田だね」


「な、な、てか、お前、もしかして」


「え?うん、僕も好きだよ、普通でしょ」


「ふ、普通って」


「だってさー、普通に好きになるでしょ、顔も好い方だし、性格明るいし、いつも笑顔だし、それに性格だって好いし、しかも好きな男のために死ねる、健気で可愛いじゃん」


「おまっ、アイツのこと何時も蹴ってたりしてたくせに」


「それはあれだよ、愛情の裏返し?」


「どこの小学生だよ」


マックスからの衝撃の告白にさっきから驚かされてばかりだ

たしかにマックスの言う通りだけど

いや、でも、うん


「………変態はないだろ」


「あははー、そこら辺は否定できないな」


「てか、ありえない、うん」


「そんな否定しても無駄だと思うよ、顔真っ赤だし」



……俺は無言でクッションをマックスに投げた

悪かったな畜生

俺だって驚いてんんだよ

くっそ、まさかマックスに言われて気づくなんて


「あーもう、一生気づかない方がよかった」


「なんでさ、ちょっとは僕に感謝しなよ」


「こんなの最初から負け戦ってか、戦が始まる前に死んでるじゃん」


「んー、まぁ、そうだね」


円堂のために全部を犠牲にしたアイツ

そんなの見て、アイツが円堂のことを好いてるなんて一目瞭然だ

つまり、最初から、てかその前から実ることなんてなかったのだ


「……いや、そもそもアイツが男な時点でダメじゃね?」


「…………なんかさー、みんなもだけど、全員して残念だよね」


「は?なんでだよ」


「……………はー、馬鹿ばっかじゃん」


そうして俺は理不尽にマックスに叩かれた

解せぬ


××


エドガーside

突然ですが、私には永遠のライバルとも呼べるべき人がいる

その人は私と同じ蒼の髪を持ち、綺麗な夕焼け色の目を持っています

名前は『風丸亜紀』、一言で彼女を表すとしたら………馬鹿、です

少し、昔の話をしましょうか

彼女と私が出会ったのは晴れ渡るような空の下、練習試合の時でした

遥々イギリスからイタリアへと遠征へと行った私たちは意気揚々よ試合に挑みました

もちろん、私たちが勝てると思って……

結果は散々な物でした、一回もゴールを決められなかったのです

相手に鉄壁のテレス・ユニコーンのマーク・白い流星のフィディオ・ブリザードの吹雪…そして疾風の風丸がいたのですから

奇跡とも言えるほど、最高のメンバーがその時チームに揃っていたのです

特に風丸亜紀は最盛期とも言えるほど、素晴らしい力を発揮していました

どんなに前線に居ようともあっという間にディフェンスに戻っているその姿は当時のサッカー少年たちにはヒーローのように映っていたでしょう

……で、す、が!!私はあまり彼女のことが気に入らない

忘れもしません、あの『アイリーン事件』、あれがあったらから私は更に惨めに……

そもそもあのチームには野蛮な人が多すぎる!!

テレスもそうですがフィディオとアツヤと亜紀のコンビはとにかく災いしか私に呼びませんでした

というよりあのチームに常識人であるマーク・クルーガーがいただけでも奇跡と言えます

そうでなかったらあんなチームを私はライバルと認めなかったでしょう!!

………はっ!、少々、取り乱してしまったようですね

とにかく、一言でまとめ上げるなら風丸亜紀という人物は『馬鹿』です

といよりは、『馬鹿』でなければあんな意味不明な行動などしないでしょう

信じられますか?自分のチームの作戦を試合前に大声で叫んだり、試合中に可愛い子を見つけたら手を振っているんですよ

そのくせゴールに入りそうになるとディフェンスに戻ってるんですから………

本当、なんなんですかあの人、いったいどんな思考回路してるんですか、なんであんな人にアイリーンが………ブツブツ







以下、エドガーが独り言を大量に言い始めた為、ここで強制終了とさせてもらう



Aliena nobis, nostra plus aliis placent


(我々が他人の最上の状態を好むように、他人もまた我々の最上を好むのである)

(気づいたってもう戻れない)

(でも気づくことはできた)



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