第十一悔

Difficile est longum subito deponere amorem

××

豪炎寺side

豪炎寺は風丸亜紀のことをあまり知らない

FFまでは一緒のチームで戦ってきたが、エイリアの時は妹を人質にとられ、ほとんど入れ替わりの様にチームに戻った

だから、彼は知らない、なぜ彼女が嫌われていたのか

どうして、チームを抜け、敵になったのか

だが、知らないのは彼だけではない

虎丸や飛鷹、土方や綱海も知らない

虎丸や飛鷹と土方にいたっては風丸亜紀という選手が居たことさえ知らない

そう、彼は何も知らない


「………風丸」


確かに、チームメイトだった

共に戦ってきた大切な仲間だった

だけど今では霞の様にその存在は曖昧で掴むことができない

目の前に居るのに、簡単にすり抜けて消えゆく

あんなにも強烈な存在で嫌でも忘れられないほど馬鹿な存在

なのに、人は簡単に嫌われて忘れられていく



『しゅーちゃん、しゅーちゃん、このメイド服どう思うよ!!』



(……少し、思い出すところを間違えた)



……と、豪炎寺は思うも、よく考えると彼は彼女の馬鹿な部分しか記憶にないことに気づく

彼の記憶の中の彼女はいつだって馬鹿な発言をし、そのたびに誰かに叩かれて、それでも懲りずに変態行為をする

そんな悪いような好いような、記憶

だけど、何時だって記憶の中の彼女は馬鹿で変態で



『しゅーちゃん、しゅーちゃん、ファイトル治療法だけはかんべn』


笑っていた

××

音無side

初恋は甘いと同時にとてつもなく苦い

それは、初めての恋に溺れるも、初恋は花が咲いても実ってはくれないから

だから、苦い


「ねぇ、ちょっとぉ……私の話聞いてるわけ?」


甘ったるく甲高い玲姫の声が部屋に響く

それはついさっきのこと

洗濯物を回収してるとき、玲姫に突然この部屋に連れ込まれたのだ


「まさか、もう私の声が聞こえないほど壊れちゃったわけじゃないでしょ?」


そう気の強そうな顔で決めつける

なんとも、威勢のいい仮面だと思った

玲姫の、彼女の顔には何一つ本当の表情なんて宿ってない


「私もさ、最初は直ぐに出ていくと思ったから放っておいたけど……まさかここまで持つなんて……ちょっとだけ褒めてあげる」


そう思うと、なんだか目の前に居る玲姫が酷く滑稽に見えた

復讐なんて、思ったわけじゃない

嘘、本当は少し思った

だけど違う



「でもね、これ以上は邪魔なの」


だって、この人は風丸さんを奪ったから

大好きな人を奪った人だから

ある意味で、亜紀の心を縛り付けることができたから


「……だから、なんですか?」



「………やだなー春奈ちゃん、ここまで言ってもわからないの?」



「えぇ……一つもわかりません」


別に、自暴自棄になったわけではない

狂ったわけでもない

ただ、なんとなく理解したと同時に諦めが強くなったのかもしれない


でも、


「一体、貴方は何がしたいんですか?こんなことをしたって……バレたら皆が敵に回るようなことをして」


「…………」


「貴方は馬鹿な人です、だって貴方には何も無いのにそれに気づかないで満足してるんですもん
うれしいですか?そんなまがい物で人形遊びして」


「うるさい」


「そうですか、私も貴方がうるさくて目障りで大嫌いです、貴方みたいな、友情も愛情も信頼も全てを否定するような人」


「っ、黙れ黙れ黙れ!!」


「黙りません!!本当のことを言われて悔しいなら言い返してみてくださいよ、この人殺し!!」


「っ、もう、いいわ!!そこまで言うならとことん苛めてあげるわ!!泣いて後悔して地面に這いつくばって過ごしなさいよ!!」


そういって玲姫はポケットから取り出したカッターナイフでご丁寧に左腕の外側の方を傷つける

そして、カッターを私の方に投げつけて


「泣いて謝ったってもう許さないんだから!!」


そう言って玲姫はギラギラとした瞳で私を睨み付け、叫ぶ


「キャァァァ!!や、やめて!!」


甲高い悲鳴が宿舎中に響く

そして遠くの方から聞こえてくる大勢の足跡

そして先叫んで血塗れの腕を抑える玲姫と、カッターナイフが足元にある私

状況証拠だけは揃ってるこの酷い苛め現場

だけど、


「私が嫌いならそう言えばいいです、だけど私は絶対に屈しない」


本当に馬鹿なのは私だ

折角助かったものを簡単に投げ捨てるのだから

だけど、立ち止まっていたって、何も変わらない

あの人が汚名を被ったままなんて、絶対に嫌だから


「私には貴方と違って本当に信頼できる仲間がいる、だから屈しない、何よりも」


大好きな人がいました

初恋で、花すら咲いてくれなかったけど

でも、それでも今でも大切な人です


「亜紀さんを貶めた貴方には絶対に負けない!!絶対に、私が貴方の嘘を暴いて真実を皆に伝える!!」


あの人は一人で闘っていた

だけど私は臆病だから一人では闘えない

だから、みんなと闘う

だって、貴方は何時も言っていたから


『友達は、助けるものだろ』


………亜紀さんは馬鹿だから、その言葉が間違ってることに気づいてません

本当は


(友達は、助け合うもの、ですよね)


もう、下を向いてなんかいられない


××

佐久間side

誰も彼もが今日死なないと確信しながら生きている

そもそも、そんなことすら考えずに生きてる奴らが大半だ

かくいう俺もその一人

毎日なんて変わらずに続いていくものだと信じてた

そんな信じていた毎日が崩れたのは世宇子戦の時

初めて味わった敗北が、全てを壊していった

ケガしてプレイができない自分

少しずつ遠くへと行ってしまう鬼道

それを追いかけられない自分

だんだん自分たちから離れていく鬼道

何もできずベッドの上で過ごす自分

雷門の仲間と笑いあっている鬼道

そんな現状を、壊したかったんだ

元の日々に戻りたかった

アイツの隣に居られたあの日々に

だからあんな怪しげな石に手を出して不動に着いて行った

そうすれば、またサッカーができる、鬼道と同じ世界が見れる

そう、信じて

だけど、現実は違った

鬼道の隣に立つどころか目の前に立ってしまい

鬼道の役に立つはずが自分を壊して

鬼道が戻ってくると信じてた幻想は敵対という現実を突きつけてきた


「………俺も、馬鹿だよな」


「突然どうしたんだ、佐久間?」


電話口の向こうから源田の声が聞こえてくる

いつもと変わらない青空はなぜか無償に悲しさを醸し出す

電話しながら帰る買い出しの帰り道

通り過ぎていく人々は今日も変わらない


「いや、なんか真帝国の時を思い出してたら………なんかな」


「……佐久間、アレはお前の一人の」


「わかってる、別に自分を責めてたわけじゃない」


それでも、心のどこかで自分を責めてるのもまた現実

そりゃそうだろ?あんなことしちまったんだから


「……なぁ源田、もし、あの時に戻れたらお前はどうする?」


「え?」


もしも、時間をあの時に戻せるとしたら人は何をするんだろう

昨日のテストを受けなおす

お金を使い切る前に忠告する

好きな人が死なないようにする

自分が、間違わないようにする


俺だったら、


「………よくわからないが、俺だったら」


「「戻ろうとした自分をぶん殴る」」


「………被せんなよ」


「そっちこそ」


何かを変えたくない、それが俺たちの答え

今ここにいる自分を否定するな

それは、アイツへの冒涜だ


「……どんなに苦しい過去だろうと、今ここにいる自分はそれを乗り越えて生きてるからここにいるんだろ、だったらそれを否定しちゃいけない」


「そうだな、どんなに苦しい結末でも、それでも俺たちは精一杯生きてここにいる」


そう、どんなに苦しくても過去は変えられない

それは、人はそんなこと望んでないから

苦しい過去なんてたくさんあっただろう

変えたいなんて思ってしまったこともあるだろう


でも、それを乗り越えて、乗り越えてなくても、今生きてるのが事実


重たくて、苦しくて、思い出すたびに泣きたくなって死にたくなるかもしれない

だけど、それでも生きてる、死ぬ勇気が無くて生きてるだけでも、それでも生きてる


あの日、真帝国で敵側から見たアイツは苦しそうな顔をしていた

身に覚えのない罪に苦しんで、自分から受け入れた苛めに潰されそうになっていた

それでも、逃げることはしなかった

馬鹿だから逃げれなかっただけなのかもしれないけど、でも逃げずに生きていた

最後まで、自分の信念だけは曲げなかった

どんなに汚されても、その心を折れなかった

まるで、物語の中の主人公の様に


「………敵わないな」


「そうだな」


彼女の様になんて誰もなれない

あんな風になりたいとも思わない

友達を絶対に恨まず裏切らず憎まず信じて助けるなんて

きっと、誰もできない

できなかったから、アイツはあんな風になった


もしもまた会えるなら、俺は今度こそ間違えないだろうか

今度こそ傷つけずに済むだろうか

今度は、前を向けるだろうか


「………源田、俺は『キャァァァ!!や、やめて!!』、っ!?」


宿舎の玄関に着いた途端に響き渡る甲高い悲鳴

その聞き覚えのある声に戦慄を覚える

また、何かが始まる


「悪い、急用が入った」


「お、おいっ、さk」


源田が何かを言いかけるが無視して通話を切る

そして悲鳴の聞こえた二階の方へと急いで駆ける

二階のある部屋の前にもうほとんどの奴らが集まっていて


見覚えのあるその光景に吐き気を覚える

なんで、誰も学習しないのだろう

また、アレが繰り返される



Difficile est longum subito deponere amorem


(長く続いた恋をただちに捨てることは困難である)

(繰り返される光景に)

(私はまた恋をする)

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