第十悔

Damnant quod non intellegunt

××
木暮side

木暮に親はいない

父は物心つく前からいなかったし、母には捨てられた

だから小暮に親はいない、だから一人ぼっちだった

そんな心の隙間を埋めるかのように木暮は全てを嫌った

自分の隣で笑う同期を、威張っている上級生を、教えを諭す先生を、自分をこんな風に一人ぼっちにした親を

嫌いだからこそ、一人だったからこそ木暮は悪戯に走った

悪戯をしている間は心地よいもので、それだけが木暮の心を満たしていった

だけど、そんな小暮の心にとある1人の少女がでてきた

それが音無春奈だ

自分のことをよく知りもせず、何かと説教をする煩い女だと小暮は何時ものように嫌った

そしてその少女がチームのみんなに嫌われてると知って木暮はいい気味だと思った

自分のことを叱る人間なんて要らない、最初はそう思っていた

だけど、違った

音無春奈は叱るだけじゃなかった、小暮の才能を誰よりも理解して、そして誰よりも木暮の傍に居て、逃げ出すことがなかった

いつだって、自分が悪戯すればみんな逃げていった

それでいいと思っていたのに、なのに……

気づいたときには、この少女が居てもいいかと思うようになった

だから、


「木暮君!!」


「へへっ、蛙なんかにビビってバッカみてー!!」


今日も小暮は音無に悪戯する

そうすればこの少女は何時ものように喜怒哀楽の感情を人一倍だすのだから

こんな風に悪戯すれば、何時もの暗い顔が吹き飛ぶから


「音無のやかましー!!」


「こーぐーれーくーんっ!!」


だから、俺は今日も悪戯をする

××

円堂side

FFI開会式がとうとう始まった

始めて見る世界の強豪たち

その中には一之瀬や土門も居た


とうとう、始まるんだ


逸る気持ちを抑え込み、開会の言葉を静かに聞く

目の前には実行委員と共に立っている亜美が

彼女は相変わらず冷たい目で自分達を見下していた

なぜ彼女があぁも親の仇を見るような目で見るのかはわからない

まるで、アイツの最後の時と同じ目だ

あの冷たく、暗い瞳が語りかけてくる

目を見るたびに、まるで忘れるなと言われているような気がして



『死ねばよかったのに』



そんな事、絶対にできない

××

開会式が終わり、各自それぞれの宿舎に帰って行く

たけど、俺は一之瀬に呼ばれていたことを思い出し、1人流れに逆らって行く

所々人にぶつかりそうになりながらも先を急ぐ

そして、とうとう一之瀬に指定された公園に着いた

その公園には大きな木の下に座る場所はあり、なんだか鉄塔広場を思い出す

そんなことを考えていると、反対側の入り口から一之瀬がやってきた


「おーいっ!円堂!!」


「一之瀬!!」


久しぶりに見る一之瀬は変わらず元気そうに見えた

それがひどく自分を安心させる

まるで、何も変わってなんか無いって


「どうしたんだよ、急に呼び出したりなんかして」


「聞きたいことがあってさ……円堂たちの所に記録係の人、来てる?」


記録係、そう言われて思い出すのはあの非常に目立つ亜美だ

今日だって開会式だから少しはまともな服装だったが、それでもスカートは短かった


「来てるけど……それがどうかしたのか?」


「…日本も来てるのか、ということは来てないのはオルフェウスとジ・エンパイアとコトアールだけか」


「…何かあったのか?」


一之瀬が真剣な顔をして考え込むから何かあったのかと不安になる

しかも一之瀬のさっきの言葉から察するに記録係が来てないチームもあるみたいだ

いったい、なんで………


「いや、少し…気になることがあったから……ありがと、もう帰っても大丈夫だよ」


そう言って一之瀬はいつもと変わらぬ笑顔を向ける

だけど、それでも不安になる

何も、変わってなどないのに

なのに、どうしようもなく違和感を感じてしまう


「……そっか、わかった……お互い、頑張ろうな!!」


言いようのない後味の悪さを感じながら、それに気づかないふりして一之瀬に別れを告げる

すると、後ろから聞こえるか聞こえないかのような小さな声で一之瀬が俺に何かを言ってきた


「円堂、本部から派遣された彼女には注意した方がいいよ」


いったい、なんだって言うんだ


××


???視点



「……着いたはいいですが、どうやってイタリアエリアまで行けばいいのでしょうか」



飛行場にて、一人の少女が不安そうに辺りを見渡す

その度に少女の明るい水色の髪が軽やかに舞い、光りに反射していく



「……………はぁ、どうしましょう、、現地集合なんか約束しなければ………」



酷く落ち込んだ様子で少女はキャリーケースを壁につけ、立ち尽くす

ガラスの向こう側から差し込んでくる太陽の暑さに参りながらも少女は考える

携帯はあるが、相手の電話番号がわからない

メルアドは知ってるが返信はない

地図を見て行くにも道が複雑過ぎてわからない

まさに八方塞がりだった


流れる人ごみを見ながら再びため息を吐く

せっかくマネージャーとして来たのに、最初から出鼻をくじかれるとは


ガラスの向こう側に広がる青い空は少女の気持ちとは裏腹に輝く

自分も同じ色の髪を持つというのに、なぜこうも違うのだろう

懐かしく感じる蒸し暑さに苛立ちを感じながら乾いた喉を潤すため鞄からペットボトルを取り出す、その時だった


「――――――」



「…………え?」



ざわざわと人ごみにかき消される

けれど、確かに聞こえた

速めく鼓動を抑えながら、遠くを見つめる



「………亜紀?」



今度ははっきりと聞こえた

その名を発した人物は目を見開きながら自分に近づく

そうして、自分の前に立って静かに涙を流す



「………あの、」


少年の反応に少女は困惑し、困ったように言葉を紡ぐ



「……………亜紀って、誰ですか?」



それは、まるで死刑宣告かのように、静かに―――一之瀬に告げられた








Damnant quod non intellegunt



(かれらは、かれらが理解しないものを非難する)


(死んだ者は生き返らない)


(それは当然のこと)

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