断片

遠い昔の会話

××

ねぇねぇ、なんで君は私のことを呼んでくれるの?

?、名前を呼ぶのは当たり前だろ?

そうじゃなくて、君は私に何か求めないの?

?、お前が何言ってるのかわかんねーよ

……ねぇ、私って何?

?、お前はお前だろ

………そうじゃなくてさ、私って……君にとってどんな価値があるの?

?、価値?

……うん、たとえばさ、安心出来る存在とか、依存相手とか、使えるものとか

………うーん、わかんねぇ

………、何それ、つまり私に価値が無いって言いたいの?

そうじゃなくてさ、そんなの考えたことないからわかんないんだよ

?、どういうこと?

つまりさ、お前はお前で、俺の幼馴染で、俺の友達で、俺のサッカー仲間で、俺の大好きな人ってこと

………つまり、恋人になって欲しいの?

ばっ、ちっげーよ!!ともかく、俺はお前に何か求めてないってこと

………意味わかんない

だってさ、好きな人に俺のこと好きになれって言って両思いになるのは何か違うだろ?

……まぁ、愛は無いかもしれないけど、恋人にはなれるかもね

それ、俺はそれがヤダ、俺はお前の気持ちが知りたいんだ

…………私の、気持ち

あぁ、これは俺の一方的な感情、それに応えるのも、応えないのもお前の自由だ

……、お前って結構馬鹿だろ

なんだよ、いきなり……

だって、今ならお買い得でお前が私に告白すれば好きにできるんだぞ?

でもそこにお前の気持ちはない

そのとおり

……それって、何か意味あるのか?

さぁ?今までみんなそれで満足してきたもん

………そしてお前もそれで納得してきた

うん

……それでいいのか?

やだ

………

最初の質問に戻るけど、君はなんで私のことを呼んでくれるの?

大好きな人だから

好きなのに告白しないの?

だってそこにお前の思いがないから

私の思いがあったらなってる?

お前が拒否しないのなら

最後に、いい?

なんだ?

あのね、私本当はもっと自由に生きたい、誰かにとっての誰かじゃなくて、私を見て欲しいの
でもそれはダメ、だって私は『×××』だから、だから私は今までみんなの為に何にでもなってきた
大好きな人に捧げるはずの物だって平気で捨ててきた、でも本当は平気なんかじゃなかった、死ぬほど嫌だった
ねぇ、お願い、私どうすればいいの?私って誰?私って何?みんな私を呼んでるのに私を見てない
誰か私を見てよ、私を呼んでよ、私越しに何かを求めないで、私は私なの!!

本当に、そうか?

……、どういうこと

本当に、お前自身を求めてない奴、居るか?

だって、みんな私越しに誰かを

俺は?

……

俺のこの気持ちは、お前越しに誰かに伝えてるものなのか?

………

俺は、お前のことが大好きだよ、―――

ほんとう?

あぁ

本当に私が好き?―――のことが好き?

うん、大好きだ、愛してる

私は、

今返事しなくてもいいよ、お前の気持ちが俺といっしょになったら俺のことを求めればいい

でも、何時になるか

待つよ、何時までも待ってる

本当に?

うん

………名前

うん?

名前、教えて………次会ったとき、私の思いが貴方と一緒になったら、貴方のこと、名前で呼ぶ

俺の名前は、円堂―――


××


決して幸せな人生とは言えませんでした

私は自らの意思で彼女達を守ると誓い、嫌われ、殴られ、傷つき、嬲られて、最後は惨めに死にました

それだけではありません、私はあんなにも愛しく大切な存在を忘れていたのです

自分でも何故あんなにも大切な事を忘れてしまったのか、わかりません

ただ判る事は、私が記憶を失ったが為にたくさんの人を傷つけてしまっていた事です

私は守ると誓いながらその裏で、たくさんの人々を傷つけました


だからこれは、私の罪の物語


最後がハッピーエンドな幸せな物語になる事なんてきっと無い

それは私が望んだ事であると同時に、それが正当な罰だから

いや、そもそも私に罰があると考えるだけでもおこがましいのかもしれません

でも、それでも、これだけは言わせて欲しい


決して幸せな人生とは言えませんでした

私の人生は酷く歪で、傷ついていました

それは生まれた時から決まっていたこと

私は友を失い、仲間を失い、家族すら失いました

それでも、私は自分の人生を悲観する事はありません

私は充分な程、彼と同じ気持ちになることができました

彼だけが、私の事を呼んでくれました

彼はもう、その事を忘れているでしょうし、そもそもそんな事を考えながら私を呼んだわけではないのでしょう

それでも、私は確かにその時救われたし、その時初めて彼を愛したいと思ったのです

だから最後に


『ありがとう、貴方と同じ気持ちになれました』


―――from ××

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