第八悔

Alea iacta est!

××


「貴方が、ヒデさんが言っていたMr.Kですね」


病室の中、ひとりの少女がベッドの上で静かに微笑んでいる

傍らには1人の金髪の男性が椅子に腰をかけていた

少女は歌うように喋る


「私は、あなたの罪がどのようなものか知りません」


その微笑みはまるで聖母のように、全てを包み込むような暖かさがあった

少女は未だ中学生だというのにまるで子を持ってる母親かのように男性に語りかける


「私が知っていることはあなたが私とルシェを助けてくれたという事実だけ………それ以外知りません」


波の音が窓の奥から聞こえてくる

病室の中はまるで切り取られた空間かのように、少女の声と波の音しか聞こえない

凛としていて、されどどこか慈愛のある声……それはもう、男が聞くことの無い母親の声に似ている

あの日、たった1人の男が現れただけで、男の家庭は崩壊した

幼すぎた男には、ただただ何かを恨まなければ生きていくことがだきなかったのだ


「だから、私は貴方を悪い人だとは思えない………いえ、私は貴方を悪い人だとは思いたくありません」


だからこそ、男は罪を犯した

罪は次第に膨らんでいき、とうとう男を飲み込もうとしていた

逃れられることのない、闇

闇が男を包み込む


「貴方が、道に迷っているなら私が隣に立って一緒に道を探しましょう」


ふと、隣を見ると暖かく小さな光が男の傍らに佇んでいた

光は男を守るわけでもない、男を癒すわけでもない、ただただ男の傍に有り続ける


「貴方が何を恐れているのか、貴方が何を犯してしまったのか、貴方が何を捨ててしまったのか私は知らない」


光は語る

たとえどんな暗闇にも、道はあると

だって、貴方が今立っているところの後ろには必ず道が存在しているのだから

道は、歩かないとできない


「だから貴方が望んでいることもわかりません………だけど、」


男は多くのものを捨ててきた

それでも、男は同時に2人の少女を救った

それは気まぐれなのか、それとも罪悪感からなのかわからない

それでも、救ったという事実は、真実だった


「たとえ世界中の人が貴方を悪だと言っても、私は貴方が優しい人であったと語り続けます、絶対に」


凛とした、2つの目が男を貫く

少女の言葉を受けた瞬間、男の中に何かが広がるのを感じた

なんてことない、男が望んでいたことはただ1つであったのだ


「………偽善だな」


「そう思いますか?」


「あぁ、まったくもって馬鹿馬鹿しい話だ」


男が椅子から立ち上がる

もう、男の背後に闇はない


「………その生き方を続けると、折角助かった命を早くに亡くすぞ」


「……そうですね、そうかもしれません」


潮の匂いを伴った風が病室の中に吹き込む

瞬間、少女の蒼い髪が静かに揺れ、オレンジの瞳が優しく微笑んだ


「でも、それが私の作った道ですから」


××

亜美side

とうとうイナズマジャパンが予選を通過し、FFI本選が始まった

既にイナズマジャパンのメンバーは宿舎に着いているところだろう

私は1人本部へと行き、報告書を提出する

……こんなの、提出して何になるんだか

こんな予選のデータなどほとんど役立たないだろうに

まぁ、この仕事を無理やり作ってもらったお陰で簡単にイナズマジャパンに潜入できたのだから良いか

本部に着くとカウンターに居る女性に話しかけ、そして話を通してもらう

この段階が一々面倒なのだが、まぁこれも一応ルールらしいので仕方ない

漸く話が通り、急いでエレベーターに乗り最上階のボタンを押す

エレベーターが登っている間に、この間あった出来事を思い出してしまう

そう、あれは韓国戦の後のことだ

キャプテンである円堂守が問うてきたのだ


「お前は何を憎んでいるんだ?」


と、



「……流石は、キャプテンって所かしらね」



まさか、短期間でそんな所まで気づかれるとは

態度に出ていたのかもしれない

憎んでいる

何を?

そんなの決まっている

この、地獄の炎よりも熱く滾る憎悪の矛先は


「全部、憎くて仕方ないわよ」


××

綱海side

みんなの荷物整理が終わり、自由時間になった

今日は練習がなく、この島の環境になれることが先決だ

っていうのは建前で、ただたんに折角外国(といってもちっこい南の島だが)に来たのだから家族へのお土産を買いつつ楽しめといことだ

ちなみに俺は漸くあの空飛ぶ鉄の塊から解放されたこともあり、早速サーフィンしにきていた

やはり透き通った海が宿舎の目の前にあるのだから、これをしないわけにはいかないだろう

海に入る前に軽く準備体操をし、海の様子を見る

穏やかに揺れる海は急に荒れることはないだろうと思い、逸る気持ちを抑えサーフボードに手を伸ばした

冷たくなく、暖かい海の温度はサーフィンをするには快適の温度だった

しばらくの間は大きな波もなかったので、ただ何をするわけでもなく漂う

この漂っている間が綱海はお気に入りだった

母なる蒼い海に包まれて蒼い空を見つめる

地上で日向ぼっこしているよりも快適だったのだ

蒼―――空を見ていて綱海はふと、この前あったダークエンペラーズ戦を思い出した

最初、綱海はダークエンペラーズのことをよく思っていなかった

それもそうだろう、散々母校を破壊してきたエイリア石に頼って今まで一緒に戦ってきた仲間を攻撃する

その姿を見て綱海はこいつ等は自分たちの仲間よりもエイリア石が大事なのかとショックを受けたほどだ

だが、それも試合をしている中で徐々に変わっていった

蒼、あの蒼い髪の子供だ

最初だけ、あの子だけが違う目で自分たちを見ていた

あれは悔やんでいる目だった、他の奴らが敵意の目を向ける中、アイツだけが悔しそうにしていたのだ

もちろん、それは綱海の主観であり、実際は違っていたのかもしれない

だけど綱海はその時、あ、コイツもうすぐ泣くなと思ったのだ

長年年下の子供を相手してきた綱海からしてみれば、その目は悔しそうで、そしてあと数秒で泣く手前の子供の目に見えたのだ

だけどその子供は泣かなかった

ただひたすらに耐えて、そして最後は泣くこともできずに倒れた

その時、綱海は言いようのない後味の悪さを覚えた

自分たちはただ、エイリア石に堕ちた仲間を救うためにサッカーをしていたはずなのだ

なのに、まるで自分たちが悪役かのような感覚に陥ったのだ

そして、それは今でも続いている

今のチームは明らかに空気が悪い

その原因は綱海にはよくわからない

どれが原因なのか、誰が悪いのか


「……だーーーーっ!!あぁ、もう、くそっ!!」


モヤモヤとした晴れない感覚が胸の奥に閊え、綱海は思わず叫んでしまった

そうすると今までごちゃごちゃ考えていたのが急にバカらしく思えた

空気が悪いのなら良くすればいい

ただ、それだけのことなのだ


「よしっ、そうとわかればサーフィンでもするか!!」


脳内で自己完結し、綱海は考えることを放棄した

良くするためにはまず喋らないとな

そう思い、綱海はサーフィンに思考を傾けた



Alea iacta est!

(賽は投げられた)

(気付いたって戻れない)

(ゲームの始まりはいつだって理不尽)

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