第四悔

Certa amittimus dum incerta petimus

××

玲姫side

FFIの選手選考が終わり、とうとう練習に入った

なんだかあっという間だ

この前までやれ宇宙人だ、やれ侵略だとかあったのにそれがぜーんぶ……嘘みたい

不思議だよね、本当不思議だよ

前まで敵だった人達が仲間になるなんて、前まで自分たちを傷つけてた人を許すなんて

そんな事を、まるで何事も無かったかのように受け入れるんだから

正直、私は嫌、すっごく嫌

だってあの人達学校とか壊したんだよ?平気で人を傷つけたんだよ?

なんでそんな簡単に許せるの?なんでそんな簡単に済ませられるの?

なんでそんなに……信じられるの?


理解できないよ


それに気持ち悪い、よくわかんないけど……宇宙人がとかじゃなくて、なんていうんだろう、あの集団が、大人達が気持ち悪い

だって、自分の子供を利用したんだよ?実験したんだよ?虐めたんだよ?捨てたんだよ?

なのになんで涙1つ、謝罪1つで許されようとしているの?

怖い、恐い、あんな気持ち悪いのを受け入れる存在が



……でもまぁ、大丈夫だよね

私に何かしてきたら皆が守ってくれるし

そうそう、そういえばマネージャーは私だけだと思っていたら監督の娘さんだとか言う人が来た

予定外だけど、マネージャー業が楽になるからいっか

そういえば音無春奈も来るとか言ってたっけ

あーあ、めんどくさいなぁ

あんなに痛めつけたのに、まだわかんなのいのかな?

秋ちゃんとかリカちゃんはアメリカの方に行ってくれたのにさ

塔子お姉ちゃんだって家に引き篭もってるし

あ、そうそう、もう1人居たね


亜紀ちゃんなんて、わざわざ死んでくれたのにねぇ


ほんっと、馬鹿だよねぇ

普通あそこでキャプテン庇う?普通庇わないでしょ

自分の命投げ出すとか理解できないよ

普通あの場面は助けようとして助けられなかった、それがセオリーでしょ?

自分の命を投げ出してまで他人を救うなんてキチガイじゃん

ま、あの子の性格ならそうするだろうなぁ…とは思ったけど

……あれ?私そんな事言うほど……あの子のこと知ってたっけ?

んー、ま、いいか………どうせもう居ない人なんだし

にしてもどうしようかな、春奈ちゃんどうやって追い出そう

冬花ちゃんはいっか、監督さんの娘さんらしいし、マネージャー1人ぐらい残さないとめんどくさいしね

そう言えば今日監督が何かを発表するとか言ってたっけ?

一体なんだろう、もしかして組み合わせでも発表されたのかな?


……どーでもいっか、関係無いし


××

ヒロトside

イナズマジャパンのメンバーが集結し、初めて練習をする日

監督は突然俺達をグラウンドに集めたかと思えば、どっかに行ってしまった

ザワザワと皆が騒ぎ出す

一体何なのだろうか?練習はしないのか?監督はどこに行ったのか?

確か昨日、響さんから何か発表があるとか言ってたっけ

もしかして組み合わせが発表されたのかな、それとも何か問題でも生じたのだろうか?


「なぁヒロト……一体なんだと思う?」


隣に立っていた緑川が話しかけてきた

緑川は笑っていて、どちらかと言うとこの状況を楽しんでるように見える


「うーん、組み合わせの発表とか?それにしては監督遅いし」


「もしかして新しいマネージャーとかかな?2人だけじゃ足りないからとかって」


確かにそれも一理ある

もしかしたら音無さんかもしれない

いや、もしかしたら他の誰かかもしれない

どちらにしろ、玲姫みたいな奴じゃなきゃいいけど


緑川と小声で話し合い、周りのざわめきが大きくなってきた頃、正門の方から一台の車がやってきた

もしかして監督戻ってきたのかな?

そう思いそちらの方に目を向ける

周りの皆も好奇の目でそちらを見つめた

ガチャリ、と車のドアが開く


「………何これ、ガキばっかじゃない」


まず目に入ったのはその派手なピンクの髪、サイドテールにしたビビットカラーなそれは目にもの凄く痛い

赤い目は夕焼けとかじゃなくて、どちらかと言うと血の色を連想させて恐い

だけど、それよりもアレだったのが


「たっく、なんで私がこの仕事なのよ、ガキ嫌いなのに」


布地の少ない服だった

まるで水着に近い感じの服

申し訳程度にコートを着ているけど、ソレすら無駄に感じるほど俺達には刺激が強すぎた

実際隣に居る緑川の顔は真っ赤だ


「全員居るな」


次に降りてきたのは監督だった

いや、それよりもこの女性は誰なのだろうか?

見た目から見ると……綱海君位に見えるけど………


「監督、その人は?」


すると鬼道君が手を挙げて監督に質問した

こういう時は大抵鬼道君が質問する

どうもこれがこのチームのセオリーらしい


「それを今から説明しようとしていた所だ……

 

 彼女はFFI開催本部から派遣された記録係だ」



「記録係?」


聞きなれない言葉に疑問が過ぎる

そんなもの、サッカーの大会であっただろうか?


「今回始めてのFFI開催と言うものもあって、大会側から選手1人1人の練習記録を撮る様派遣された、他にも選手の不正な行動などを見張る役目もある」


そう言われてしまうと、なんだか納得してしまう

確かに始めての大会なのだ、運営側も事細かな記録を残したいのだろう


「そういうわけよ、一言言っておくけど私は面倒ごととか嫌いだから変な事絶対にしないでよね」


……正直言って、見た目からして彼女の方が何かしら問題ごとを起こしそうだ

隣の緑川も「お前がゆーな」って小声で言ってる

すると彼女には聞こえたのかこちらを睨んできた

……どうやら地獄耳らしい


「他に質問は無い?」


「……貴方の名前は?」


「あぁ、そういえば言ってなかったわね」


サラリとピンクの髪が揺れて太陽の光に反射する

赤い目を光らせ、彼女は不敵な笑みでこちらを見据えこう言った


「私は亜美、天道亜美、よろしく」


なんとも大層な苗字だ


××

緑川side

風丸亜紀が死んだと聞かされた時(実際は死体が見つかってないから何とも言えないけど)、俺は何だか非現実的だなと思った

理解できないとか、現実逃避とかじゃなくて、何て言えばいいんだろう

そう、この感覚は両親が死んだときと同じなんだ

両親が死んだと言われて、あれやこれやと何時の間にか葬儀になっていて、そして火葬場に行って……

ついさっきまで原形をとどめていた両親が、ご飯を食べている間に真っ白な骨になっていた

俺はそれを理解できなくて、隣に居たおばさんに『お母さんとお父さんは?』って聞いたら泣かれてしまった

それと、同じなんだ

人間って自分がその瞬間を見てないと理解出来ない生き物なんだよな

感情論だとか、思い出だとか、色々あるけど……人間が1番に信じるのは視覚情報だと思う

現に今の俺は風丸亜紀の死を非現実的だと思ってる

あの子の死体を見ていないから、あの子が死ぬ瞬間を見ていないから

姉さんとか、ヒロトとか孤児院の皆にこんな事言われたら『現実を見ろ』とか言われるんだろうなぁ……

でも俺は、あの子がそう簡単に死ぬとは思えないんだ

もちろん、これは只の俺のちっぽけな願い


「………馬鹿みたい、だな」


あの子を傷つけたのは俺達なのに

こんな事を思うなんて厚かましい

だけど、でも……うれしかったんだ

あの日、一人ぼっちの俺に話しかけてサッカーに誘ってくれた事が

あの時、宇宙人であった筈の俺達を助けてくれた事が

どうしようもなく、うれしかったんだ


「っ、ぅ………」


涙を流す資格なんかないかもしれない

あの子の母校を破壊して、あの子の友を傷つけ、そしてあの子自身を傷つけた俺には涙を流す暇なんか無い

こんな事、筋違いだってわかってる、厚かましくて、自己中心的な事だって理解してる

だけど、今だけでいいから


「ぅ、ぁ、りがと」


俺達を助けてくれて、父さんを助けてくれて、家族を助けてくれて、ヒロトを助けてくれて

自分を犠牲にして、辛かったはずなのに

それでも、俺達に笑いかけてくれて……ありがとう


「っ、ぅ………今度は、ちゃんと……頑張るから」


今度は、自分で頑張っていくよ

今まで君が守ってくれた分、頑張って生きていくよ

だから、これからも君の友達で居ていいですか?




Certa amittimus dum incerta petimus

(われわれは不確実なものを求める間、確実なものを失う)

(気づいた頃には全て遅くて)

(でも、今を変えていく事は出来る筈)


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DATE

天道 亜美 『記録係?』

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