第二十輪

永遠を信じられたらどんなに幸せだったろう

××

『ねぇ、マックス…お願いがあるんだ』


『…何?』


それは半ちゃんとマックスに怒られたときの会話の断片


『きっと、円堂達はここに乗り込んでくる』


『…うん』


『そしたら、ヒーちゃん負けると思うんだ』


『うん』


『それで、研崎が私達と円堂を戦わせると思う』


『うん』


『きっとはるなんも人質に取られる』


『うん……』


それは、私が始めて、マックスと半ちゃんに頼った時の会話の断片


『だから、2人ではるなん…助けてもらえる?』


『……君が助けるんじゃないの?』


『あはは、出来たらいいんだけどね……きっと無理だと思うだろうから、お願い』


『…ハァ、わかったよ』


半ちゃんが少し呆れ気味に頷いて、マックスは未だ不満そうな顔をしている


『それと、もう1つ頼める?』


『………何?』


『………………あのね、全部が終わったら、皆で海に行こう?』


『いいけど、なんで海なのさ』


遠くから波の音が聞こえて、塩の臭いが鼻孔を擽る

あの時、果たせなかった約束……まだ皆、待っててくれてるかな?


『……だって、海なら繋がってるでしょ?どこに居たって、どこにでも繋がってる』


だから―――全部が終わったら海に行こう

そして、皆に会いに行こう

××

強烈な痛みが全身に伝わる

頭のてっぺんからつま先まで麻痺したかのように感覚がなくて、でもその割には地面の冷たい感覚だけは嫌に感じた


あれ?わたしどうなったんだっけ


一瞬、思考が飛んで真っ白になる

そうだ…皇帝ペンギン一号を打って、耐え切れなくなって倒れちゃったんだ

流石に、四発は耐えられなかったか……やっぱ鈍ってる

体を動かそうとがんばってみても全然動かない

というか、起き上がれる体力すら残ってないのかも

今はただ、背中越しに伝わる地面の冷たさが気持ちいい


「亜紀ちゃん!!」


遠くでヒーちゃんの悲鳴に近い声が聞こえてくる

あはは、ヒーちゃんに心配掛けちゃってるや

早く、起きないと……でも、起きれないんだよね


「い、いや、イヤァァァァァァァッッッ!!」


遠くから甲高い悲鳴が、

あぁ、はるなんの声だ

マックス達…ちゃんと助け出してくれたんだね……よかったぁ


「亜紀ちゃん、亜紀ちゃん」


誰かが私の名前を必死に呼ぶけど、口を開いて返す気力すらない

ただただぼーっと相手の顔を見つめてると、頬に冷たい物が落ちてきた

あれ、なんだろうこれ

雨でも降ってるのかなぁ……


あぁ、なんだか考えるのがめんどくさくなってきた

こんなんじゃ駄目だなぁ…亜美にまた怒られちゃう

いっつも『ちょっとは考えて行動しろ!!』って怒られてたもんなぁ


「かぜ、まる……」


誰かが私であって、私じゃない名前を呟く

どうしてかな、やけに視界がぼやけて見えるんだ

××

ヒロトside

亜紀ちゃんが四発目の皇帝ペンギン一号を打ったと同時に、地面へ倒れていった

その瞬間は本当にスローモーションの様に見えて、まるで夢でも見ているかのような感覚に陥った


「亜紀、ちゃん?」


背中に伝わる嫌な汗を感じながら名前を呟く

何が起きたのか、理解できなかった

だって、あの子が倒れるだなんて…きっと何かの嘘だ

理解するのが恐かった、認めるのが嫌だった

あの子がまたどこか遠くへ行ってしまうんじゃないかって思えて


「亜紀ちゃん!!」


腹の底から叫んであの子の近くへと駆け寄る

手足が地面に投げ出され、右足は痛々しいくらいに真っ青に晴れ上がっている

真っ黒に淀んだ瞳は焦点が定まっていなくて、ただ虚空を見つづけていた


「い、いや、イヤァァァァァァァッッッ!!」


甲高い悲鳴がフィールドに響く

音の発生源の方へと目を向けると、確かあの子と一緒に此処に連れてこられた少女が目に涙を溜めながらこちらをただ見続けていた

あ、あぁ、どうしよう、どうしよう

こんな時どうすればいいんだ?考えれば考えるほどわからなくなる

一体なんでこんな事になってしまったのだろう


「亜紀ちゃん、亜紀ちゃん」


何をすればいいのか全然わかんなくて、ただ彼女の名前を呼ぶ事しか出来ない

涙がぽろぽろと零れ落ちて彼女の頬を伝うけど、彼女は何の反応も示さない

どうしよう、どうしよう

このままじゃ、また彼女がどこかへ行ってしまう


お願い、お願いだから


「かぜ、まる……」


彼女を遠くへ連れて行かないで


××

一之瀬side


皆が突然の出来事に混乱している

音無は悲鳴を上げてずっと何も出来ずに立ち尽くしているし、グランもただ彼女の名前を壊れたオルゴールの様に繰り返している

隣に居るマックスと半田も目を見開いて、ただただ震えている

俺も、目の前の出来事を認めたくなくて動けずに居た


あぁ、これはあの時と同じじゃないか

あの時も俺達は何も出来ずに立ち尽くしていた

嫌でも思い出す、あの時の忌まわしい光景

あの時と重なって見えて、怖かった

また、あの子が遠くへ行ってしまう


「っ、亜紀!!」


あの時と同じ怪我、あの時と同じ瞳、あの時と同じ状況

全てがあの時と重なって見えてしまう

そんなの認めたくなくて、俺は彼女の下へと走る


「目を覚ませ、目を覚ましてくれよ!!」


皆が何も出来ずにいる中、俺は必死に彼女に呼びかける

このまま、終わらせてたまるものか

あの時と同じ終わり方なんて認めない!!


「亜紀、また約束を破る気かよ!!」


あの時、皆で約束したじゃないか

もし、優勝したら―――皆で海に行こうって!!

また皆で遊ぼうって!!


「皆で、フィディオ達と海に行くんだろう!!」


ずっと、ずっと皆待っているんだ

あの時の約束を今でも覚えているんだ


「目を覚ませよ!!風丸亜紀!!」




ホトトギス

(永遠)

(あの時が永遠に続けば)

(どんなに幸せなんだろう)

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