第十八輪

もう、終わり

××

両者の必殺技がぶつかり合う

お互いに譲れないから、擦れ違って、間違って、その末に得た答えだから

それが正しい事ではないとこの場に居る誰もが気づいているのに、正せない

正してしまえば、この均衡が崩れてしまうから


「うあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


「く、そっ!!」


譲れない物があるからこそ、人の意志の力は強い

そして今回の話では、ただ風丸亜紀の意思が強かった……ただそれだけの話

再び、亜紀の技がゴールネットを揺らし、そして前半戦が終了した


××

息が切れて、動悸が激しくてクラクラする

っ…やばい、消耗が激しい

やっぱりエイリア石の力もあるけど……久しぶりにあんなに連発したから、ちょっとキツイかも

でも、ここまでくれば後半戦もなんとかいけるはず

それまで、持てば良いんだ


「……風丸君、後半…あの必殺技を使いなさい」


「研崎様!!」


研崎の命令にマックスが反応する

あの必殺技…つまり、佐久間達が使っていた禁断の技のこと

なんで、こんな時に


「後半戦、更に点差をつけて貴方達の力を全国に思い知らせるのです」


「……わかりました」


「風丸!!」


マックスが非難の声を上げる

正直、辛いけど…やらないと

今此処で諦めたら…全部が駄目になっちゃう

私が、私がやらないと駄目なんだ


「…わかっていると思いますけど、もし命令に背くようなことがあったら」


「わかってるさ、わかってるよ」


研崎に生返事を返し、隣のベンチを盗み見る

玲姫が円堂と楽しそうに話し合っていて、体力の消耗が激しかったのせを秋っちとリッちゃんが付きっ切りで看てあげている

っ、よかった…二人は無事だったんだ、のせ…ちゃんと2人を守っていたんだ


「……風丸」


後ろからマックスが話しかけてくる

もう、戻れないと知った

戻らないと決めたから

だから、


「マックス、アレ……お願いできるか?」


「本当にやるんだね」


「うん」


後悔は生まれる前から死ぬほどしてきた

だから次こそ、後悔しないためにも


「行こう、後半戦が始まる」


精一杯、戦ってみせるよ
 

××


後半戦開始のホイッスルが鳴り響く

雷門ボールから始まった試合だが、それでもすぐに風丸がボールを奪い取り相手フィールドを独走していく


「っ、まだゴールを決めるつもりなのか!!」


消耗が激しく、本来なら既にプレイするのが不可能な状態の体

それでも彼女が動き続ける事ができるのは、エイリア石による効果

エイリア石によって彼女の痛覚はほぼ遮断された状態になっている

それ故に体は当に限界を超えていることに気づかない

だがそれは同時に、エイリア石の効果がなくなってしまえば彼女は………


再びゴール前に辿り着きシュート体勢に入る

先ほど研崎に命令された必殺技、皇帝ペンギン一号

指を口にくわえ、足を高く上げる


「皇帝ペンギン、」


「っ、あの技は!!」


ベンチから見ていた一之瀬は何の技を打つのかすぐにわかり、立ち上がる


「一号!!」


赤いペンギンが地中から出てきて彼女の足に突き刺さる

元々ペンギン爆弾の改悪版である皇帝ペンギン一号

ペンギン爆弾が力をそのままの状態で流して爆発させる必殺技なら、皇帝ペンギン一号は力を足に直接加える事によって威力が増す必殺技

だがそれは、直接足に負担が行く為未発達な筋肉や細胞をズタボロにさせてしまうのだ


「っ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


絶叫がフィールドに響く

たとえエイリア石に強化されていようが、世界トップクラスの実力を持っていようが彼女は所詮子供だし、女だ

消耗が激しい状態であの必殺技を使えば当然の様に彼女の体は傷つくし、悲鳴を上げる


「っ、はぁっ、はぁ…はぁ」


『何をしているのですか風丸君、早く立ちなさい…試合はまだ終わっていませんよ』


イヤリング越しに研崎の声が耳に響く

そう、まだ試合は終わっていない

体に鞭を打ち、無理やり立ち上がる


「負け、られない」


ここで負けるわけにはいかない

まだ、まだなんだ


「かぜ、まる」


円堂の瞳が揺れる

本当に自分が見たかったのはこの光景なのか?

幼馴染が体をズタボロにしながらサッカーをする

これが自分の望んだものなのか?


「しあ、い…つづけ、なきゃ」


そう言って再び自身のポジションに戻っていく


「っ、風丸…なんでだよぉ」


なぜ、こんな事になっているのだ

自分はただただ、幼馴染がズタボロの体を引きずりながらポジションに戻っていくのを見ることしか出来ない

自分と彼女との間に決定的な溝が開いている


「なんで、だよ」


違う、自分が見たかったのはこんなものじゃない

自分はただ、前みたいに


「こんなの…サッカーじゃねぇよっ!!」


悲痛な叫び声は、誰かが発したかった叫び声は…ただ空へと木霊していった


××

一之瀬said


「(これじゃぁ…あの時の二の舞だ!!)」


一之瀬一哉は焦っていた

ベンチから見える光景、それがどうしてもあの日と重なって見えてしまう

ボロボロになりながらサッカーをする彼女の姿

それを見つめる事しかできない自信がただただ恨めしかった

実際、ベンチから見ると試合の流れが良く見える

彼女は一回も仲間にパスを出していないし、仲間にボールを触れさせていない

それは単純に仲間との連係ができない、というのもあるかもしれないが何よりも


「(おそらく、彼女はこの試合にかかる負担を全て背負うつもりなんだ)」


それは、前例を知っている彼だからこそ知りえた事

彼女は、そういう人間だと知っているから

知っているから、自分が彼女を支えないといけなかったのに


―――俺はここで何をしているんだ?


彼女の力になりたいと、思っていたのに

これではあの時から一歩も成長していないではないか!!


「(なにか、なにかある筈なんだ!!)」


彼女は絶対にこの試合で何かを仕掛けている

それを、見つけ出さなくては

探せ、考えろ、彼女ならこの試合で何をする?


エイリア石、ジェネシス計画、吉良事変、孤児院、宇宙人騒動


今まで得たキーワードを頭の中でつなげる

彼女なら、この中から一体誰を救う?


「(ま、さか……)」


彼女は、友を見捨てない

彼女は友を切り捨てられない

友を犠牲にするくらいなら自分を犠牲にする

最悪の事態ばかりが浮かび上がってくる


「(だと、したら)」


彼女は………


そこでふと、試合の様子が何かおかしい事に気づく

試合…違う、試合事態はさっきから変わっていない

それよりも


「あれ?何か……人数が減ってない?」


隣に居た秋が気づく

そうだ、人数が足りないのだ

相手のダークエンペラーズ側に、2人足りないのだ

足りない選手は―――


「そうか、そういうことか!!」


「え?一之瀬君?」


そこで気づいてしまう

彼女の目的が、彼女が今しようとしていることが


「すみません監督!!すぐに戻ります!!」


「一之瀬君!!」


秋の制止を振り切り、階段を駆け下りていく

足りなかった選手は半田とマックス

そして―――


「音無、春奈!!」




タツナミソウ

(私の命を捧げます)

(これで終わりになってもいい)

(だから―――)

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