第十五輪

偽者の愛とi

××

とうとうイナズマキャラバンが乗り込んできた

予想はしていた事だ、イナズマキャラバンがここにやってくる事など

でも、実際に起きてしまうと辛い

叫べたらどんなに楽だったろうか

ヒーちゃんは悪くないって、あいつ等は悪くないって

世間から見たらみーちゃんもおさむんもはるやんもふうちゃんもヒーちゃんも、学校を破壊した、日本を混乱に陥れた悪者なのだろう

でもね、皆はただ認めて欲しかっただけなんだ

自分はここに居るって、自分は必要な存在なんだって


誰にも肯定されない人生ほど、虚しいものはない


だからこそ、始めよう

全てを終わらせよう

私の手で、全ての真実を告げよう

この物語の真実を、終焉を

××

フィールドに繋がる通路、そこにヒーちゃんは居た


「ヒーちゃん」


私がヒーちゃんの名前を呼ぶとヒーちゃんはすぐにこっちに駆け寄ってくる

その姿は漸く母親を見つけた迷子の子供の様にも見えた


「亜紀ちゃん!!」


飛びついて私に抱きつくヒーちゃんの頭を撫でる

サラサラとした髪が指の間から零れ落ちていく


「……円堂達と、戦うんだね」


円堂の名前を出した途端、ヒーちゃんの笑顔に影が差す

傷ついたような顔に一瞬、戸惑うがそれでも話を止めなかった


「…………亜紀ちゃん、俺が守と戦うの、嫌?」


「……どうなんだろう、でも、心情的にはヒーちゃんの味方だよ」


そういうとヒーちゃんは安心したみたいで、私に抱きついてきた

ヒーちゃんは普通の人より少しだけ体温が低い

でも、今はその冷たさが心地よかった


「……俺は、父さんの為に戦うよ」


「うん」


「『ヒロト』は、俺なんだ、だから」


「うん」


「……亜紀ちゃんは、俺の事見捨てないよね?」


ギュッと、しがみついてくる

捨てられないように、離れないように

その姿がどうしても誰かと重なる

誰でもない、でも誰かにとっての誰かに


「……ヒーちゃん、顔上げて」


私がそういうとヒーちゃんはゆっくりと顔を上げる

目はおびえていて、捨てられるんじゃないかって顔をしていた


「ヒーちゃん」


ヒーちゃんの名前をもう一度呼んで、その唇に私の唇を重ねた

優しく、親が子をあやすかの様なキスをする

たった一度の短いキス

だけど、それは初めて私からヒーちゃんにするキスで、愛情表現だった


「亜紀ちゃ、、ん」


驚いた顔をして私を見る

私は今の顔をヒーちゃんに見せたくなくて、ヒーちゃんを抱きしめて肩越しに囁く


「……私は円堂のことを愛してる」


ビクリと、ヒーちゃんの肩が跳ねる


「でもね、ヒーちゃんのこと、結構好きだよ」


そう言ってヒーちゃんの頬っぺたに軽いキスを落とす

そして私はその場から逃げるように走り出した


「っ、待って!!亜紀ちゃん!!」


私は逃げ出した

それ以上の言葉を聞きたくなかったから

聞いてしまったら戻れないから


私、ヒーちゃんの事……好きだよ

それ以上に、円堂の事を愛してるだけで


××


研崎と吉良が居る観戦室へと入る

既に雷門とジェネシスはフィールドに入っており、試合がもうすぐ始まろうとしていた


「……ヒロトに告白してきたみたいですね」


「……聞いてたのかよ、悪趣味だな」


「あんな監視カメラがあるところで堂々と告白する方が悪いと思いますがねぇ?」


……悪かったな、あそこ以外ヒーちゃんに会えそうな場所が無かったんだよ


「にしても悪女ですねぇ、貴方を好いてる人の前で堂々と他の男を愛してると言った上で好きだと言うのですから」


「だからなんだよ、本当の事だから仕方ないだろ」


……まぁ、確かに悪女だけどさ

でも、本当に円堂の事は愛してるし、ヒーちゃんのことは好きだ

それはまた記憶を失った所で変わらないだろう


「……愛は、叶わなくてもいいんだ」


恋は叶ってほしい、でも愛は叶わなくても別にいい

それが愛で、私で、そしてずっと貫いてきた信念だから


「…………それはつまり、ヒロトと結婚してもいいってことですか?」


「は?」


あまりの突飛な発言にズッコケそうになった

結婚?


「何を今さら、あんだけ激しくヒロトと体を重ねておいて結婚という言葉を考えていなかったのですか?」


「いやいやいや、当たり前だろう、俺達はまだ中学生なんだぞ」


そう、私達は中学生なのだ

いきなり結婚と言われても………あー、でもどうなんだろう

もし、ヒーちゃんが結婚を申し込んできたなら、たぶん……どうなるんだろ

円堂が既に結婚していたら受け入れちゃいそうだな


「でもまぁ、愛してる男よりも好いてる男の方と先に体を重ねてる時点でどうかと思いますが」


「わるかったな」


つったって、あれほぼ強姦だし

あれで私が抵抗していたらヒーちゃんを訴えることだってできたんだぞ

……でも、そうだとしても絶対に訴える事なんて無かったんだろうな


窓越しにホイッスルの音が鳴り響いてくる

ゴールの前に円堂は立っていて、ヒーちゃんはフィールドの真ん中に立っている


「……円堂」


一瞬、円堂と目が合ったような気がした




ナズナ

(あなたに私のすべてを捧げます)

(全てのものが終焉へと導かれていく)

(その先にあるのは―――)

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