*第十四輪

全てを思い出す時

××

波の音が遠くから聞こえてくる

カンカンと鳴り響く遮断機の音

ギラギラと照りつける太陽の暑さ

熱気に包まれたフィールド

篭った汗の臭い


全部全部知っている

私は覚えている


あの雪の冷たさを

幼馴染との別れを

傷ついた子供達を

助けた命の重たさを

一時の出会いを

外の世界での新しい出会いと再会と別れを


全部全部、忘れちゃいけない、大切な思い出


「あぁ、そうか―――だから苦しかったのか」


目の前で苦しんでいる友を助けられなかった、気づけなかった、思い出せなかった

だからこんなにも心が締め付けられたのか

もし私が覚えていたら、きっとこんな間違いを犯さなかったのか


間違っていたのは、私だ

気づいてやれなかったのも私だ


「なんで、忘れてたのかなぁ…こんな大事なこと」


涙が零れ落ちる

私だけ、幸せになっていた

全てを忘れて、皆の思いを忘れて

私だけが卑怯にも幸せになろうとしていた


「ごめんね」


もう、迷わないよ


××


記憶を思い出したところで私の日常は得に変わる事は無かった

いつもどおり起きて、実験をして、ヒーちゃんのとこに行って、寝て

ソレの繰り返し、何かが変わる事は無かった

それもそうだろう、私ごときが記憶を思い出したところで今さら変わる事なんてないし、変えることなどできなかった

1つ、言えるとしたら…ダイヤモンドダストとプロミネンスが研究所から居なくなった

……バーンもガゼルも、元気だといいなぁ

あ、そういえばのせから貰った手紙全然読んでない

後で読まないと


ヒーちゃんと体を重ねる事に抵抗はなかった

というのも、前世の記憶のお陰だろう

前世で体を重ねてる連中は結構居た

それは歪んだ依存関係

私は知っている、見てきたから

1人の寂しさを、孤独を

自分が今本当にここに存在するのか怪しくなってきて、どうしても証明が欲しくて、他人の温もりを求める

間違った事だけど、拒めないんだよなぁ………

似てるから、私とヒーちゃんは似てるから


「亜紀、亜紀ちゃん」


必死に私の名前を呼んで、自己を確立させようとする

私は一歩間違えたらヒーちゃんの様になっていた

それは間違いなく断言できる


「ヒーちゃん」


だから、私はヒーちゃんに答える

間違ってる、間違ってるけど

私もヒーちゃんと同じで望んでいるんだ

今居るこの現状から、助け出してくれる誰かを


そうしてまた、私の中に暖かい物が出された

××

???side

照り付けてくる太陽の暑さがうっとおしい

アイツの居なくなった世界はどうもモノクロに見えてしまってつまらない

それは周りの連中も一緒―――まぁ一部は依存相手が居るからいいけど

それでも、私はこの校庭にある鉄棒が憎らしい

取り壊す事などできない

そうしてしまえばアイツがコッチに戻ってくる事など一生ないかもしれないのだから

だから今は、あのうざい『天才』に任せるしかないのだ

個人的にはもの凄く腹立たしいけれど、こればかりはしょうがない


汗がシャツにしみこみ、肌に張り付いてきてうっとおしい

なんてツマラナイのだろうか、アイツの居ない世界は

今だって、こんなにも世界はモノクロだ

今日も『外』では汚い大人たちが蠢いている


「……生きてなきゃ、許さないんだから」


アイツには、生きて、そして幸せでいてもらわないと困る

だって、そうじゃないとおかしいでしょ?


「………馬鹿亜紀」


あんたの居ない世界なんて、ツマンナイわよ




ヘリクリサム

(思い出)

(ずっと待っていた人が居る)

(ずっと待っている人が居る)

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