*第十二輪

幻想は私に絶望を見せる

××

気だるい空気が私を支配する

体中が痛くて、動くのも億劫になってしまう

あぁ、でも早く体を洗いたい、洗わなきゃ

体に鞭を打って、足を引きずりながらドアを目指す

このドアを開けてしまえば、私は一気に現実に戻るだろう


「………」


外に出る前にもう一度部屋を見る

汗臭い臭いが篭っている部屋、ベッドの上ではまだヒーちゃんが寝ている


「……ヒーちゃん」


ヒーちゃんを起こさないよう、できるだけ小さい声で言う


「ごめんね」


ソレだけを言うと、ドアを開けて私は外へと出た

××

部屋に戻るとはるなんに見つかる前に急いでシャワー室に入った

あ、そういえば昨日はるなんの所に帰らなかった上に食べ物届けていない

きっとお腹すかせてるよね、後で何か盗って来ないと

シャワーをザーザーと流して頭からお湯を被る

水道代なんか知ったものか、どうせここの連中が金を払うのだから思う存分お湯を浴びる


………汚い、な

私ってすっごく汚い

なんて汚い女なんだ

あの時、私はただの同情で何も抵抗しなかった

ただの同情、哀れみ、そこに愛なんて言葉は一片も存在しなかった

ただただヒーちゃんが可哀相だったから、だから何も言わなかった

ヒーちゃんが私を通して誰を見ていようと構わなかった


なのに


「………気持ち悪い」


なんて汚いんだ

なんて汚い女なんだ

円堂、ごめんなさい、ごめんなさい

私はちょっとした同情から愛してもいない男と体を重ねました

ヒーちゃんの事は嫌いなんかじゃありません

むしろいい男だと思います、できた人間だと思います、優しい心を持っていると思います

私はそんないい人と、何の覚悟もなく体を繋げました

もしかしたら赤ちゃんが出来ていたかもしれません

だけど私はそんな事すら考えずただの同情で抱かれました

責められても、反論することなんてできません


「取れない、汚い、汚いのが取れない」


でも、私はヒーちゃんを愛す事は無くとも、憎む事なんて絶対にありません

だって、知ってたから、全部全部知っているから

知らなかったら、どんなに楽だったでしょう

無知こそ、幸せな物はありません


「ごめんなさい」


私は、結局みんなを守るという言葉を免罪符に何かをずっと間違い続けるでしょう

××

シャワー室から出て、はるなんが寝ているベッドにふらふら近づく

あれ?ベッドの横に大量の食べ物が置かれてある

……もしかして、ふうちゃんが届けてくれたのかな


「………はるなん」


規則正しい吐息をたてながら、綺麗な寝顔ではるなんは寝ていた

綺麗だな

このまま何も知らずに、眠っていられたら幸せなんだろうな

ギシリと、軋む音をたてながらはるなんの上に覆いかぶさる

このまま、はるなんをずっと眠らせたままだったら?

白い喉に、指をゆっくりと当てる

このまま、力を込めれば

白い指の隙間から、綺麗な肌が見え隠れする

いいな、羨ましいな

その綺麗な心が、清らかな体が

それに比べて、私は―――!!


ドサッ


何か重たい物が落ちる音が部屋に響いた

私はその音に驚いて慌ててはるなんの喉から指を離す

私、はるなんに一体何をしようとした?


「あ、あぁ、わた、わたし」


何をしようと、考えてしまった?


「ごめ、ごめんな、」


なんて恐ろしい事を考えた?

私は、どこまで汚くなろうとしているんだ?


ベッドから転がり落ちるように降りて、ドアを乱暴に開けて廊下に出る

駄目だ、駄目だ、駄目だ

あそこに居ると

廊下を走り続ける

あの部屋から一刻も早く離れたくて

私は、私は


「はるなん、ごめん、ごめんね」


廊下の突き当たりに当たり、そこで蹲る

私は、なんであんな事をしようとしたんだ?

わからない、わからない

今思えば、北海道に行った時から私はおかしくなっていった


私は、一体




リナリア

(幻想)

(幻でもなんでもいい)

(早くこの悪夢を終わらせて!!)

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