第二十話

ごめんなさい、ごめんなさい


××

真っ赤な血が、グラウンドに静かに流れている

ゆっくりと、その先を視線で辿っていくと、茶色の髪が横たわっていて…


「っ、なつみん!!」


私は試合中だという事も忘れてなつみんの元へと駆け寄る

そんな、そんな、なつみんが、なんで

なつみんの頭から静かに血が流れ出ていて、腕は力なく投げ出されている

どうしよう、どうしよう

全然わかんなくて、ただただなつみんの傍で喚く事しかできなくて


「っ、亜紀さ、ん」


「なつみん!!」


なつみんの手が私の頬に触れる

なつみんは私に何かを、必死に伝えようとしていた

そうして少しだけ、私に微笑んで


「…ごめんなさい、リタイアだわ」


それだけを言うと、再びなつみんの腕が力なく投げ出された


なつみんの頬に雫が一粒二粒零れ落ちて、地面に伝い落ちていく

う、そ…やだ、うそうそうそ、こんなの嘘だよ


「やっ、なつみん!!なつみん目を開けて!!」


必死になつみんに声を掛ける、でもなつみんは答えてくれなくて

地面に涙がどんどん零れ落ちていく


「っ、風丸さん、もうすぐ救急車が来ますから!!だから、落ち着いて…」


「いやぁ!!やだやだやだ、なつみん!!なつみん!!」


幼子のように、ただただ泣き喚いてなつみんの名前を叫ぶ

やだやだやだ、また守れない

また傷ついちゃう

なつみんの頭から流れる血が止まらなくて

違うの、違うの、私はこんな事望んでいない

私はただ、皆と一緒に……


「っ、イヤァァァァァァァァァ!!」


叫び声だけが、グラウンドに虚しく響いた


××

なつみんが救急車で遠くに運ばれていく

その頃には少しだけ落ち着きを取り戻していた

私、何やってるんだろう

なんで、動けなかったんだろう

私がああなればよかったんだ

あの時動いていれば、防げたはずなのに

なんで肝心なときにいっつもこうなんだろう

私、結局悪者だよ

私が、なつみんに怪我させたんだ


私は、正義のヒーローでも、主人公でもない、ただの悪者だ


れいちゃんと同じ、いいやそれ以上に汚い

私の方が悪女だったんだよ


「…風丸君」


…ひとみん監督

なんでだろう、この先の言葉が予想できる


「あなたには、チームを抜けてもらいます」


あぁ、ほらやっぱり

当然だよ、私の所為でこうなったんだから


「なっ、待ってください!!監督、なんで…風丸さんが抜けなくちゃいけないんですか!!」


「……今回の試合の動きみたでしょ、やる気の無い人がここにいる意味はないわ」


やる気…そういえばなんで私ここにいるんだろう

どうして、何もできないのにいるんだろう

願っていたのは何時だって、ただ純粋に皆で笑い合える未来だったのに

どこから、履き違えてしまったのだろう


「っ、……だったら私も抜けます」


はるなんが静かにそう告げる


「はるなんっ!!」


はるなんの発言に驚いてつい怒鳴ってしまう

なっ、なんではるなんが


「…そう、だったら」


ダメだよ、だってはるなんがなんで私の所為で

私の側にいたら不幸になっちゃうよ


「あなた達にはチームを抜けてもらいます」


私はいくら謝ったら許されるだろうか


××


はるなんと一緒に荷物をまとめ、キャラバンを出る

出る間際、のせに手紙を渡された

…私、なにやってるんだろう

学校の正門を2人で抜け出したとき、後ろから誰かが追いかけてくる音が聞こえた

なんだろう、そう思って振り返るとそこには楽しそうな顔をしているれいちゃんが、私達を見下ろしていた


「あは、2人とも馬鹿だよねー、最初から私に従っておけばよかったのにさー」


私たちは何も言わずにれいちゃんを見つめる

その反応がれいちゃんにとってはおもしろかったのか、更に顔を歪ませて言う


「ま、これで後は秋ちゃんとリカちゃんだけかー、あの2人なら簡単に追い出せそうだし……いっか」


最大の障害である夏未ちゃんと塔子ちゃんを追い出せたし―――

そう言って愉快そうにケタケタと笑い続ける

障害?私たちはそんなことの為にこんな事になっているの?


「あははっ、いい気味ねぇ…私に逆らうのがいけないのよ」


逆らう事がダメだったというなら、私たちはどうすればよかったのだろう

××

学校を出て、夕暮れの海岸線で2人…郁宛ても無くさまよう

あの時のれいちゃんの笑い声が頭から離れないまま


「…はるなん、ごめんな、俺の所為で」


沈黙に耐えられなくなった私ははるなんに謝る

やっぱり、はるなんだけでものせの所に居た方が良いんじゃないかと思って


「えぇっ!!風丸さんの所為じゃありませんよ!!私が勝手に言った事ですし」


そう言ってはるなんは私を励ます


「だから安心してください、私が風丸さんと一緒に居たいと思っただけですから」


そう言って手を差し出してくれた

差し出された手は確かに暖かくて

…はるなん、可愛いなぁ


「…風丸さん?どうしたんですか?」


「いや、はるなんは可愛いなって思って」


「えぇっ!どうしたんですかいきなり!!」


なんか、はるなんてやっぱり笑顔が可愛いな

こうやって2人になってみて、わかった気がする

はるなんの笑顔がすっごく可愛いって事に


「…これから、どうしようか」


「そうですね、とりあえず稲妻町に戻る前に色々と観光しちゃいましょうか、どうせ学校も休みですし」


舌を出して無邪気に笑う

そうだな、どうせ学校も休みだし、どこか寄るのもいいかもな


「それじゃぁ、まずは京都に行くか?」


「そうですね、それじゃぁ出発しんこー!!」


手を繋いで歩き出す

夕暮れ時に……影が5つあった


「…君が風丸亜紀だな」


悲劇は、まだ始まってすらいなかった





謝罪


(いくら謝ったって許されない)

(だって私は主人公でもヒーローでもない)

(只の一般人に過ぎなかったのだから)

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