第十九話

強い強い、勝てない


××

福岡にて、円堂の『トモダチ』とサッカーの試合をする事になったんだけど、そこに現れたのは


「やぁ、円堂君」


「ヒロト!!、お前その格好…」


エイリア学園のグランだった

そして、私が度々会っていた、幽霊少年ことヒーちゃんでもあった

嘘、幽霊かと思ったら宇宙人だったのか…

いや、それよりもエイリア学園のマスターランクって…イプシロンで終わりじゃなかった?

まさか、まだチームがある?一体あといくつチームがあるのだろうか

私たちは、何時まで戦えばいいのだろうか?


……ダメだ、マイナスに考えるな、そんなの私らしくない

逆にマスターランクって事はこれ以上強いチームは無い筈だと考えなきゃ

それに私達は勝たないといけないんだ、どれだけチームがあろうと…


…キーン、金属を引っ掻いた様な耳鳴りがする


頭の奥の方から警告音がしてくる

気にしちゃダメだ、思い出しちゃダメだ

今は試合に向かって集中しなきゃ

知らない、私はグランなんて知らない、会ったこと無い、懐かしくなんて無い

私に、そんな記憶は無い!!


クラクラと視界が歪む


どこかで体験した事のある感覚

私は、以前にもこんな感覚があった

感情が高ぶる、ワクワクする、楽しいって思う感覚

そう、あれは…確か


××


試合は悲惨な状況だった

15対0、もはや逆転勝ちを狙うとか、そんなレベルじゃない

シュートもブロックもドリブルもパスも全部桁違い

あいつらの速さに着いていけない……速さに、着いていけない?

っ、ふざけるな、私は疾風なんだ、風にならないと

こんな所で宇宙人に負けるわけにいかないんだよ!!


「悪いけど、ボールもらうよ!!」


「なっ」


ウルビダって選手からボールを奪う

いつもの試合とは違い、自主練していた時と同じように速く動く事ができた

これなら、いける!!

次々と選手達を抜いていく、まるで風になったかのような私に誰も触れる事ができない

そうだよ、この感覚だよ、私が求めていたのは

そして、とうとうゴール前に辿り着いてしまった

ネロって奴は私の今までの動きを見てすぐさまシュートを取れるように構える


…悪いけど、ここで負けるわけにはいかない

こんな所で挫けるわけにはいかない

私はまだ、誰も守れていない、誰も救えていない

だからこそ、こんな所で負けるわけにはいかないんだよ!!

風を纏って、ボールを蹴るときに速さを加える

何よりも速く、疾風のように

そうだ、私はこの必殺技を知っている


「っ、ゲールブラスト!!」


「プロキオンネット!!」


風を纏ったボールが物凄い速さでゴールへと迫る

だがネルも即座に必殺技を繰り出し、止めようとする


「ぅ、ぅぅ」


「悪いけど、ここで負けるわけにはいかないんだよ!!」


更にスピードが増していき、こっちのシュートが優勢になっていく

そして、とうとうプロキオンネットを破り、ゴールにボールが突き刺さった


「っ、なっ」


「はい、った?」


ポツリと、誰かがそう呟いた

ボールが転々と、フィールドに転がっている

入った…やった、やっと一点取ることが、っ


キンッ、頭の中で金属音が響く


待ってよ、私いつこんな必殺技を覚えたの?

私いつからこんなに速くなったの?

知らない知らない、私はこんなの知らない

ヒュッ、息がうまく吸えなくなる


私は…一体誰だ?


××

相手ボールから試合が再開される

でも、私は動けなかった

知らない、知らない、こんな私知らない

私にシュート技なんてない、私はこんなに速く走れない

なんで、なんで?私ゴールを決めたの?

わからないよ…

動けないままでいる私の横をグランが横切る

でも動かない、動けない

私が動かないことを知ると、グランはシュート体制に入り、あの必殺技を打つ



「流星、ブレードッ!!」


必殺技は、ゴールから大きく横に逸れていく

え?なんで、だってそっちは


行き場を失ったボールは、そのままの威力で、ベンチに向かって…



「イ、イヤァァァァァァァァァァッッ!!」



悲鳴が、グラウンドに響いた






最強


(グラウンドに響く悲鳴)

(真っ赤な血が目の前を横切る)

(茶色の髪が、静かに揺れた)

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