第十七話

あの空へと飛んでいけ

××

???side

カンカンカン、遠くで踏み切りの音がする

あれは何時の頃の記憶だっただろうか

あの時の俺は、何もかもがどうでもよくなっていた

なんで父さんがああなってしまったのか、子供の俺には理解できなくて、ただ自暴自棄になって、気づいたら踏み切りの前にいた

カンカンカン、踏み切りの連続でなり続ける音、照りつける太陽、奥の方に淡い蜃気楼が見える

その日はとっても暑くて、頬に流れる汗が、だんだんとシャツに染みこんでいって、喉がカラカラと乾いていた

カンカンカン、奥の方から電車がやってくる、走ってるスピードがやけに遅く見えた

だんだんと迫ってくる電車、踏切の音、降ろされた遮断機、照りつける太陽、流れる汗のにおい、見える蜃気楼

一歩、足を前に踏み出す


キィィィィィィィ―――、甲高い金属音が鳴り響く



前へ踏み出そうとして、止まってしまう

ゆっくりと後ろを振り返ると、息を切らした君が泣きそうな顔をしながら俺の左腕を必死に掴んでいた


「フィッチー、お願いだから…」


君は泣きそうな顔をしながら、俺に何かを懇願していたんだ


××


高速道路を降りたキャラバンが陽花戸中へと向かう

…大阪でのデザームとの試合は、一対一で引き分けのまま終わってしまった

正確に言えば、何も覚えていない

はは、円堂からの言葉が、こんなにも辛いものだなんて、思ってもみなかった

馬鹿だな、私…最初からわかっていたじゃん、はるなん達の味方をしている時点で、私は円堂に嫌われる運命だったのに


…それにしても、あーちゃんって…誰なんだろう

しーちゃんのやり取りの後、ちょくちょくあの言葉が頭の中に浮かぶ

痛い、頭が痛い…あーちゃんのことが誰なのか考えるたびに、頭がいたい

あともうちょっとなの、あともうちょっとで思い出せるのに、頭がそれを拒む


ねぇ、君は誰なの?


××


陽花戸中のある町は言っちゃなんだが…田舎だ

一歩市街地から出れば、もう田んぼやら畑やらがたくさんある

澄み渡った青い空に綺麗な空気

円堂大輔はここで育った

…つっても、うちには関係無い事なんだけどさ

なんか、ダメだな…ちょっと頭冷やしてこよう

陽花戸中の校舎の中へと入り、水道の蛇口をひねる

勢いよく流れる水に頭をだす

冷たい水が頬を伝い、流れ落ちていく


冷たくて気持ちいい…あ、そうだ薬飲まなきゃ

ずっと忘れてた、薬飲むの

ポケットから薬を三錠取り出し、水を口に少し含んでから一気に飲む


うぅ、苦い…

薬を飲むと、少しだけ頭の痛みが引いた気がした


ふぅ…なんだかスッキリした


うん、なんだか悩むなんてうちのキャラじゃないよね、気にしない気にしない!!

今を思いっきり楽しまないと、損だよね

そうと決まったらはるなんの所へと行こう

そして思いっきり抱きついて驚かした、それで思いっきり笑おう!!

××

アツヤside

あの日、俺とフィディオとアイツはいつもどおり一緒にサッカーをしていた

太陽が輝く夏の日、その日は運悪くフィディオの父親の機嫌が悪い日だった

一緒にサッカーをやっていた時、フィディオの父親は突然やってきて、フィディオを打った

まだ、イタリア語をそこまで覚えていなかった俺にはなんて言っていたのかよくわからなかったけど、ただ…とても酷い言葉を言っているって事はわかった

フィディオは父親の言葉を聞いた後、1人で公園を抜け出し、踏み切りのある市街地へと飛び出した

俺とアイツは急いで追いかけると、踏み切りの前に居るフィディオを見つけた

そしてアイツが急いで走って、フィディオの腕をギリギリのところで掴んで何かを言う


…あの時、アイツはなんて言ってたっけ?思い出せない

もう遠い昔の記憶の所為なのかもしれない

ただ、わかるのは…もうあの日のアイツには会えないという事だけ






蒼穹


(思い出したい思い出したくない)


(君はあの時なんて言っていた?)


(後悔ばかり募ってゆく)

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