晋ちゃんと風邪(坂田とお見舞い)




「え?休み?」

「おー…なんか熱出たんだと。馬鹿でも風邪引くんだな」

私が風邪を引いてから一週間後、今度は晋助が風邪で学校を休んだ。何故私じゃなく坂田なんかに連絡をしたのか分からないけど、私は急いで帰る支度を始めた。

「は?なに、帰んの?」

「当たり前じゃん。私がこうして坂田なんかと喋ってる今この瞬間も晋助が熱にうなされてるかも知れないんだよ?!」

じゃ、と鞄を抱えて右手を軽快に上げた私の腕を坂田が勢いよく掴んだ。え、ちょっと待って坂田。行くなよ、みたいなそういうの?ごめんね坂田もモテるからイケメンに部類されるだろうけど私は晋助以外に興味ないからごめんね。心苦しいけど振るよ、瞬殺だよ。

「お前がそうやってすぐ帰るから高杉が俺に連絡してきたんだろ。授業は受けろよ」

坂田のくせに真面目なこと言いやがってこの野郎。でも晋助が苦しんでるのに私だけ授業を受けるなんて…てかできたら受けたくないなあ。今日の三限小テストあるんだよなあ。

「晋助に聞いてみる」

「聞くまでもねえよ。俺に来てっから」

ほらと見せられた画面には“あの馬鹿が早退しようもんなら全力で引き止めろ”と受信メッセージが表示されていた。もしかしてあの馬鹿って私のことだったりするの?
そうして私は小テスト(授業)を受けることになった。晋ちゃん待っててね、放課後絶対行くからねっ!!
んん〜と背筋を伸ばし、やっと長かった1日が終わったことに顔が緩んだ。やっと、やっとこれで胸を張って晋助の元へ行けると足早に教室を出たところで坂田が私の鞄を掴む。

「なにしてんの」

「高杉の見舞い行くんだろ?俺も行く」

「いやいいよ来なくて。坂田も心配してたよってちゃんと伝えるから」

「てめえで伝えっからいいわ」

「私が嫌なの!邪魔しないで!折角の甘いひと時を!!!」

勢いよく坂田の手中から鞄を引っこ抜く。すると坂田は私の頭を抑えた。

「盛りのついた雌猿を野放しにゃできねーだろ。看病する気あんのかオメェ」

高杉の熱が40度越えんぞ、と私の頭をグリグリ押さえ込んだ坂田に舌打ちをした。私をたぶらかす晋助のフェロモンを咎めて頂きたいな!
不本意ではあるけれど、本当に不本意ではあるけど坂田も晋助を心配してるようだから仕方なく二人でコンビニに寄り差し入れを買った。坂田がエロ本を買おうとしていたけれど晋助は私以外の裸体で興奮しない(と信じてる)ので阻止させてもらった。なにが白衣の天使特集だ、そんなもの私がペンギンで有名な某バラエティーショップで衣装を調達してくればいい話である。晋助の一人暮らしをしているマンションに着くまでも私と坂田はあーでもないこーでもないと晋助の話をしていた。私の永遠のライバルは坂田に違いない。
マンションに着いてインターホンを坂田が5回鳴らした。そんなに鳴らすと晋助に怒られるよと言ったけど坂田はいつも5回鳴らしているらしい。私なんか3回鳴らしただけでもうるせえって言われるのに。ガチャとドアを開けた晋助はいつもよりもだるそうでエロかった。

「…なにニヤついてんだよ」

「ちょっと顔が赤くてちょっと目が潤んでてちょっと声がかすれてて一日ベッドにいたからか背中痛いなって思ってる晋助がエロいと思って」

「銀時、そこの馬鹿連れて帰れ」

「嘘ですごめんなさいヤクルコ買ってきたから入れてください」

帰れ、と晋助の真似をして言った坂田のつま先を思いっきり踏んでやった。痛がる坂田を無視してため息を吐いた晋助に「大丈夫?具合どう?」と聞けば「お前の声って頭に響くのな」とうんざりしたような口調が返された。ちょっと待って今日の晋ちゃんいつもの3割り増しで冷たくない?

「ゼリー冷蔵庫入れとくね」

しかし私のメンタルはだいぶ屈強なのでこんなことくらいではへこたれません。坂田となにやらゲームの話をし出した晋助に冷蔵庫を開ける旨を伝えればこちらをちらっと見て頷いてくれた。なにあの首の動き、コクンって、コクンって。元々坂田とは対照的でどうでもいいことをペラペラと話す方ではないけれど今日は熱があるからかいつも以上に口数が少ないらしい。私にだけじゃなく坂田との会話も短めの言葉と首の動き、それから目で行なっていた。可愛いの一言に尽きる。はあ、晋助って見てるだけで癒される。舐めるように晋助を見ていれば視線に気づいた晋助が私を見て「ん?」と首を捻った。その仕草に鼻血が出るかと思った。私は今でも晋助に首ったけだ。(首ったけの意味合ってんのかな)

「今日も可愛いなって」

「…銀時、あいつ連れて帰れよ」

「だりー。おいなまえ帰れよ」

「二人とも私の扱い酷くない?」

19時過ぎ、そういえば朝から何も食ってねえと言いだした晋助に栄養を摂取してもらう為うどんを作ることになった。私がキッチンに立ち愛しき彼氏様に腕を振って煮込みうどんを作ろうとクックパッ○を見ていたけれど坂田が手際よく生姜とネギの効いた美味しいうどんを作ってくれました。知らなかったよ、晋助は風邪を引いた時はこのうどんが好きらしい。付き合いの長さに負けました。

「何ふてくされてんだてめえは」

食後洗い物をしてる私(うどんは手伝わせてもらえなかったから)の横に水を取りに来た晋助が立つ。んーんと首を振った私をめんどくせえ女と言った。今更すぎるその言葉は聞こえないことにしますよ。

「弱ってる晋助を全力で看病したかったなあって」

「できんのかよ」

「出来ると思うよ」

「…水跳ねてんぞ」

「あとで拭くからいいの」

制服のシャツに水が跳ねてシミができていた。坂田は全然汚れてなかったのに何故私はシミを作っているんだろう。こんなことなら日頃からママンのお手伝いをしておけばよかったと悔いた。でもきっと明日には忘れて「ママァお腹空いたよぉ」とか舐めたことを言うんだと思う。

「家事は得意じゃないけどお嫁にしてくれる?」

「掃除も得意じゃねえだろ」

「裁縫も得意じゃない」

「洗濯もな」

「ゴミ捨ては得意だよ?」

「そりゃ俺がついでに捨てっからいい」

ポカーンと間抜けな顔して晋助を見上げた。見上げるってほどの身長差じゃないけれど、見上げた。なんだって、なんだって晋助この野郎。好きっ!と泡だらけの手で抱きつこうとすればその手で触んなとおでこを抑えられたけど好きがやっぱり大きくなった。好き無理、好き。

「あのー…お二人さん俺忘れてね?ここでおっぱじめられたら動画撮影しちまうけどいい?」

坂田がひょっこり顔を覗かせる。晋助が「悪趣味だな」と言い私のおでこをトンっと押した。はい、おでトン頂きました〜!私はだいぶお花畑です。
そんなこんなで晋助の家に22時前くらいまで居た。

「じゃあ帰るわ。オナニーなんかしねーでちゃんと寝ろよ」

「しねえよ、てめえと一緒にすんな」

「晋助は私以外でムラつかないもんね!」

「馬鹿、本来晋ちゃんはボッキュッボンのグラマラス体型を好むんだよAV女優で言ったら、」

「ちょっと坂田、なに坂田。私が出るとこ出てない貧相な体型だって言いたいの?なにやんの?」

「よく分かってんじゃねえか。可哀想に。揉めるところは腹だけだろ?」

「見たことあんの!!!」

玄関でギャーギャー騒ぐ私と坂田を晋助が「煩え早く帰れ」と言った。晋ちゃん、可愛い彼女が悪口言われてるよ!!!ローファーに足を突っ込みながらトントンと踵を入れていれば晋助が坂田に「頼むな」と私の頭を撫でながら言った。坂田はへーへーと怠そうに返事をしていた。こういうところ、こういうところ!!!

「お前も言うこと聞いて帰れよ」

「はーい」

「そうだぞ、俺の言うこと聞いてワンって返事しろよ」

「ちょっと黙って坂田」

明日は学校来ると言う晋助とさよならするのが心惜しくて“んー”と可愛子ぶりっ子して口を尖らせてみた。坂田がキッモと言った。私はそれをガンスルーする。じゃ帰るわと玄関を出た坂田に続いて晋助にまた明日ねと小さく手を振った。

「なまえ」

グッと引き寄せられて口元を手で覆われたかと思えばその上からキスされた。えっ?と目を見開いた私に晋助が真顔で言う。

「こないだキスしたら移ったからな、予防なんだろ?」

こないだ?と記憶を思い返せば自分が風邪引いた時のことが思い浮かんだ。

「ああっ!」

「気ィつけて帰れよ」

ぽんぽんと頭を撫でる。キスも頭ぽんぽんも真顔でシレッとする晋助に私の心臓はいつか殺される気がする。

「晋助、今日泊まっちゃダメ?」

「ダメだろ。明日平日」

「真面目か!」

「いいから帰れ、移るぞ」

銀時、と外に声を掛けて坂田に私を送るよう頼む晋助に背を押されて玄関から出た。また明日ねと言った私に晋助は「ああ」と軽く、本当に軽く手を振った。ドアが閉まるまで私が動かないから晋助はため息を吐いて玄関を閉めた。鍵が掛かる音を聞いてから歩き出す私に坂田が「愛が重めぇ」と呆れたように言う。

「晋助と別れたら私死ぬと思う」

「別れそうなのかよ」

「ううん全く」

「ゴミ捨てはついでにやってくれるんだもんな」

はいはいごっそーさんと言った坂田は私を家まで送り届け晋助に電話をして報告まで行っていた。心配性な晋助となんだかんだ優しい坂田が居て私は今日も幸せです。

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