晋ちゃんとデート
あ、あれ可愛い。
ウィンドー越しにたまたま目に付いたワンピース。これからの季節にいいかも、と足を止めた私に少し先を歩いていた晋助が置いてくぞと言った。慌てて追いかける。今日はワンピースを買いに来たのではない、今日はついこないだ壊れてしまったバッグの代わりにになるものを探しに来たのだ。余計なものは買わない買わないと先ほどのワンピースを記憶から消すべく頭を左右にぶんぶんと振った。もちろん晋助はそんな私を不審そうに見ていた。
晋助との久々のデートに私は朝からテンションが高かった。待ち合わせ場所に着くなり楽しみ過ぎて早起きしたと言った私に晋助は眠そうにそりゃ良かったなと言っていた。
今はお昼を食べ終えて地元のショッピングセンターをぶらついている。休日のショッピングセンターは混んでいて、晋助は険しい顔をしていた。
「晋助って人混み嫌がるよね。でもお祭りとかは好きだよね」
「別に好きじゃねェーよ」
「でも毎年行きたがるでしょ」
「お前が浴衣着たいとか喚くからだろ」
人にぶつからないように、人とすれ違うときに少し体をよじる晋助は可愛い。潔癖ではないと思うけど、見知らぬ人と触れるのを嫌がる晋助にニヤつけば、不意に振り向かれ気持ち悪いと言われた。キモいって言われるより気持ち悪いって言われる方がなんだか本気に思えてしまうから言葉って怖いなぁ。そんなことを考えていれば晋助がここだろ?と足を止めた。
「前にバッグ買ったとこ」
「えっ、あっうん。よく覚えてたね!そうそう、ここここ!」
記憶力いいじゃーん、なんてふざけて言った私にさらっと「お前か銀時としか買い物行かねェし」と言われた。途端に恥ずかしくなる。晋助って、さらっと私が喜ぶようなこと言うんだよな〜、しかも無自覚で。
「心臓に悪いなぁ」
「はあ?いいからさっさと選んでこいよ」
「晋助は?どっか見てる?」
「適当にぶらついてる。長えし」
いつも私の買い物に付き合わせてるから、長えしと言われてごめんと言えば晋助は「別に。終わったら連絡してくれりゃいい」と今歩いて来た通路を引き返して行った。
押しの強い店員さんオススメのバッグを買って、ショップから出れば通路脇のベンチに晋助を見つけた。携帯をいじりながら座っているその姿にニヤける。本当に不思議だけどこんなイケメンがよく私なんかと付き合ってるなぁ。
「お待たせ!ごめんね、待ったでしょう」
「別に。買えたか?」
「買えたよ〜」
店員さんがすごい勢いで話しかけてくるタイプだった、と言えば晋助は「それでどうせ勧められるがままに買ったんだろ」と言った。よく分かってるね、その通りだよ。
「でも新作らしいし?なんかそのお姉さんも持ってるって言ってたし?いい買い物でした」
「知らねえ奴と同じ物を持ちがる気持ちが分からねェ」
「そう?」
立ち上がった晋助は紙袋を持っていた。さっきまで持ってなかったから多分なにか買ったんだろう。喉乾いたと言う晋助と帰りにどっか寄って行こうかなんて話しながらショッピングセンターを出た。途中で駅近くのコーヒーショップで休憩して他愛のない話をして、私を家まで送ってくれた晋助。
「今日はありがとう。付き合ってくれて助かっちゃった」
「荷物も持ってやったしな」
「コーヒーもご馳走してもらっちゃったしね」
気をつけて帰ってね、と言った私に晋助が紙袋を差し出す。ん?と首を傾げながら受け取った。
「口開けて見てたろ、それ」
次出掛ける時着てくれば?と言ってそのまま歩き出す。え?っと急いで紙袋を開ければ中には今日見惚れたワンピースが入っていた。
「まっ、えっ?!晋助?」
なにやだ、なにこれ。なにこれなにこれなにこれ!!買い物付き合わせた上にコーヒーまでご馳走になって、その上家まで送ってもらったっていうのに…。どうしてとかなんでとか、言いたいことはそりゃいろいろ出てきそうだけど、そんなことよりも。
「もうやだ!大好き!!」
その場では全然興味ない感じだったし、てか晋助が一人で女物の服を買いに行ったとか。もうそういうところ、だめ。好きが爆発しそうだ。
ギャーギャー騒ぐ私に煩ェと振り向きながら言った晋助に抱きついたのは言うまでもないです。
「ねえ、今日は帰したくないって言ったらどうする?」
「女の台詞じゃねェーな、帰れ」
「ツンデレ!!!」
「だから煩ェってーの」
今日も私たちは仲良しです。
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