携帯をフライトモードに設定した。誰とも連絡を取りたくなかった。きっと芽依から大丈夫?と連絡が来てるに違いない。
心配をかけていると分かっていても、独りでいたかった。
カーテンも閉めきって電気もつけず携帯をコンポに繋いで音楽を流す。シャッフルにしているのに何故か失恋してる曲ばかりが流れてきて、余計に落ち込んだ。

ぼんやりと天井を眺めていれば突然インターホンが鳴る。今は私しかいないのだから、私が出るべきなのだろうけれど面倒くさくて居留守を使おうと無視をした。
それでも何度も何度もピンポーンと鳴らされ、痺れを切らしてベッドから降りた。
二階の角にある私の部屋からは玄関が見える。そっとカーテンの隙間から覗けば、パチリと目が合ってしまった。


「なんっ、で……」


気持ち悪いくらい心臓が速くなる。どうして、沖田がここにいるの?学校は?今は授業中でしょ?
居留守を使っているのがバレたなんて、もうどうだっていい。今は会いたくない。会いたくないのだ。
ベッドに潜り込めば、先ほどよりも間隔が狭くなったインターホンが鳴り響いた。ピンポンピンポンピンポンピンポン……

諦めて早く帰って欲しい。
インターホンの音から逃げるようにコンポから流れる音量を上げれば、コンコンと窓ガラスを叩く音がした。


「嘘、でしょ?」


ここは二階だ。
もちろん外に階段なんてない。
ドクンドクンと脈打つ心臓を落ち着かせるように深呼吸をしてカーテンを開ければ、沖田が「てめェ、居留守なんか使ってんじゃねェーや」と言った。
慌てて鍵を開ければ「よ、っと」と部屋に入ってきた。


「何して……馬鹿じゃないの?落ちたらどうするの?」
「落ちても死ぬ高さじゃねェーよ」
「そうじゃなくて、怪我するって……」
「俺の身体能力の高さ、ナメんじゃねェーぞコラ」


こんくらい余裕でさァ、と言った沖田は「大丈夫か?」と声のトーンを落として言った。
それが何に対してか分からない。でも泣いたのはバレてるんだろうなと、私は「何が?」と可愛くない返答をしてしまう。


「お前の親友から悠理が腹痛で早退って連絡来たんでィ。どうせ食い過ぎかウ○コの詰まり過ぎだろうけど一応見舞いでさァ」


なのに居留守なんざ使いやがって生意気だ、とデコピンをされた。そんなに痛くなかったのに、沖田が心配してくれたことと今までと変わらず見舞いだといって来てくれたことが嬉しくて泣きそうになったのをこらえるように歯を食いしばった。
思い返せば私たちはどちらかが具合悪くなった時、見舞いと称して押しかけていた。


「つかなんでィ、この選曲。えらくシンミリした曲聴いてんじゃねェーかィ」
「シャッフルにしてるだけだよ」
「見事に振られた曲ばっかじゃねェーか」


うーけーるー、と女子高校生みたいな言い方をした沖田に言ってしまいたくなった言葉を飲み込んだ。
コンポから流れている曲は彼女持ちの男を好きになってしまったというような歌詞で、私たちが中学の頃流行った懐かしいものだった。


「これ、懐かしいねィ」


ドスンとベッドに腰を下ろした沖田が自分の部屋にいるかのように「座らねェーんで?」と隣を叩く。


「芽依が、嫌がると思うよ……」


消え入るように言った言葉は流れる音楽によって掻き消されてしまった。