次の日学校で芽依が嬉しそうに頬を染めて私に"実はね、沖田くんと付き合うことになったの"と言った。


「先週告白してたんだけど、悠理に言えなかったの。何もないって聞いてたけど、沖田くんが悠理を好きだったらって考えたら言い辛くて」


勘ぐるみたいなことしてごめんね?と眉を下げた芽依にどうしていいかわからなくなった。
"よかったね、おめでとう、応援してるよ"って言いたいのに言うべきなのに、言葉に出来なくてただ苦しかった。

本当に付き合ったんだ、と目の前が真っ暗になるようなそんな感じに耐えきれなくなって立ち上がればガタンと大きな音をさせてしまった。


「悠理?」


どうかした?具合悪い?と心配そうに私の顔を覗き込む芽依に、ごめんお腹痛いと嘘をついて逃げるように教室を飛び出した。
大好きな親友の芽依に腹を立てたことなんて一度もなかった。羨ましいと僻んだことなんて一度もなかった。
なのに今は、その顔が声が憎くて仕方ない。そんな自分の真っ黒な腹の中が一番憎い。

保健室の先生にお腹が痛いと言えば熱を計るよう促され、体温計を手にした。ただの体温計なのに、いつだかバイトに三十八度超えでもやってきた沖田を思い出してしまい哀しくなった。
私は沖田がずっと好きだった、と今更胸を痛めたところでどうしようもないのに。

これが私の友達じゃなかったら、まだ良かったのに。
もう芽依に沖田の話はできない。
芽依が嫌がることはしたくないから、もう沖田と今まで通り仲良くできない。

私から沖田を取らないで、と込み上げた想いは言葉にならず涙に代わった。ポタポタと泣き出した私を保健室の先生が「熱はないけどそんなに痛いなら早退して病院に行きなさい」と優しく言った。
痛いのはお腹じゃない。胸の奥だ。
ギュッと握りしめた拳に、爪が食い込んだ。

こんなことなら芽依をバイトに誘わなきゃ良かった。

そんな風に働く思考回路に、なんて最低なんだと吐き気がした。自分が親友の幸せを妬むような、そんなやつだったと思い知って余計に具合が悪くなった。

教室に荷物を取りに行けばもう授業は始まっていて、芽依が心配そうにこちらを見てきた。口パクで「大丈夫?」と聞かれて弱々しく頷いた。
ごめん、本当にごめんね。嫌なやつでごめん。
心の中で何度も繰り返す。
邪魔はしないから、この気持ちはもう捨てるから、だからお願いどうか、嫌いにならないでーー……

家に向かう途中で、やっぱりまた泣いた。
いつも嫌なことがあって泣きたくなった時は、どんな時も沖田に連絡をしていたけれどもうそれはできない。