芽依がバイト休みで、私と沖田のシフトが被っていた。バイト中はいつも通り、二人でアホなことをして笑っていた。
上がり時間になって、いつも通り帰ろうかとなった時、沖田が「そう言えば」と口を開いた。


「芽依チャンに告白されちまった」


沖田の口から出た言葉が、白く空に上がっていく。冬は嫌いだ、何故か心寂しくてその一言がとても鋭利なもののように見えた。


「えっ……こくは、」
「おー。俺ァイケメンだかんなァ。仕方ねェっちゃ仕方ありやせんね」


ほれメット、とヘルメットを渡されたのにそれを受け取ることも手を差し出すことも出来なかった。
水に打ち上げられた魚のように、喉が絞まるように感じた。


「なにアホ面晒してんでィ」


ペチンッと頬を軽く叩かれて、いつもならやり返すのにそれすらもできない。
鼓動が速くなる、息が上手くできない。


「おい、どうし、」
「ねえ、付き合うの?」


やっと絞り出した言葉に沖田は目を丸くした。はぁ?と言いたそうな顔だ。


「お前はどっちだと思いやす?」


沖田はニヤリと口元を上げた。
どっちって……そんなの、私が知るわけがない。痛い苦しい辛い。
でもどうして私がこんな思いをしているのだろうと不思議に思う。
素直に分からない、と答えれば沖田は「じゃあどう思いやす?」と聞いてきた。
同じような質問に、頭を悩ませる。どうって言われても……

頭の中に浮かんだ言葉に、ハッと息を飲んだ。
"付き合わないで欲しい、誰のものにもならないで"
真っ直ぐ沖田の目を見れなくなって、顔を背けた。今まで沖田から恋愛関連の話を聞いたことはなかった。だって、女は面倒くさいって、沖田いつも……


「芽依って可愛いし優しいし、沖田にお似合いだと思う!親友同士が付き合ったら私も嬉しいな。あ、でも私ともたまには遊んでね?仲間外れは寂しいしさぁ。でももう二人で遊んだりはできないのかなぁ、仕方ないよね!!応援する!!」


頭の中に浮かんだ言葉を消し去るように、えらく早口でそう言った私に沖田は「ふぅん、じゃあ付き合いやさァ」と言った。ユラユラ揺れる沖田の吐いた息をぼんやり眺める。


「何してるんでィ。早く乗りなせェーよ」


目も合わさずバイクに跨った沖田の服を軽く掴んだ。沖田は荒い運転をしない。腕を回してギュッとしがみ付かなくても大丈夫なことは知っている。

初めて沖田に吐いた嘘は、消えることなく私を苦しめていく。