冬になって、ピザ屋の繁忙期がやってきた。クリスマスは高一からずっとバイトしか予定を入れてない。日本のクリスマスは何故かピザを頼むらしい。いや、私も頼んでたけど……


「悠理ちゃんごめん、少し伸びれる?残業代つけるからあと30分残って貰える?」


店長が慌ただしくデリバリーから戻ってきた。別にいいですよーと答えながら作業を続ける。ピザ屋のバイトは三年目。この時期は時間で上がれないことなんてもう学習済みである。
沖田も忙しなく地図を見て、配達に行っては帰ってきてまた地図を見て、と忙しそうだった。
初めて繁忙期を経験する芽依は疲れ切って「足が、足が……もうピザしばらく見たくない」とぼやいていた。

芽依から沖田のことが好きかもと聞いてから一ヶ月が経ったけれど、私たちの関係は何一つ変わらなかった。
というより、学校では学期末テスト、バイトは繁忙期でそんなことを考える余裕がなかったのだ。


「あー疲れた、お疲れー」
「お疲れ様ー」


朝から忙しかったバイトが終われば、高校生組の22時上がりの私たちは事務所で屍のようにしゃがみ込んでいた。口を揃えて「ケン○ッキーでも頼めよ」と悪態をついていた。
少し休憩をしてから帰ろうか、となった時芽依がフラッと倒れそうになったのだ。


「ちょっと、芽依大丈夫?!」
「……気持ち悪い」
「えっ、ちょっ、沖田、沖田!」


帰り支度をしている沖田を呼べば、更衣室から顔を覗かせた。私はきっと真っ青な顔をしていたと思う、だって目の前で友達が気持ち悪いって言って本当にクラッと倒れそうになったのだ。


「芽依が、具合悪いみたいでっ」
「あー、初めての繁忙期で疲れちまったんだろィ。おーい大丈夫かーィ」


ハラハラしている私とは裏腹に、沖田はいつも通り間延びした口調でそう言った。全くもって動じていないらしい。そんな姿に少し頼もしいさすが私の親友だ、と思った。


「大丈夫……先に帰ってていいよ。少し休んでから帰るから」


まだ顔色の悪いまま、芽依は力なく笑ってピースサインを見せた。どこら辺が大丈夫だと言うのだろう、全然大丈夫そうじゃない。


「沖田、芽依のこと送れる?」
「別にいいですぜ。でもしたらお前……」
「私は大丈夫!ピンピンしてるから歩いて帰るよ」


芽依が勢いよく顔を上げて、私に「いいよ、大丈夫。悠理と沖田くんいつも一緒に帰ってるし」と言った。確かに沖田はいつも私をバイクに乗っけて帰ってくれるけど……


「大丈夫だって、歩いてもそんなに時間かからないしさ」


じゃああとはよろしく!と沖田に言えば「おー」と返され、私は足早に帰路に着いた。
きっと私が残っていれば芽依は気を遣う。
一人ポツリポツリと歩く道は、暗くて寒くて少しだけモヤっとした。
私の沖田ではないし、芽依は具合が悪いのだから沖田が送ってあげるのは最善だ。

ポッケから取り出したイヤホンを耳につけて、いつも通り再生ボタンを押せばプレイリストの曲がこれまたいつも通り流れ出す。
私の携帯に入ってる曲は大体沖田の好きな曲だった。
何故だか泣きたくなった。