新学期が始まり、バイトは放課後のみになった。それでも沖田とはバイト先でも会っていたし、遊んだりもしていた。


「そう言えば私バイト始めようかなって思ってるんだよね」
「えぇ?芽依バイトするの?じゃあ私のところおいでよ!沖田もいるしさ!」
「沖田くん?あぁ、悠理の大好きな親友ね」


放課後、学校で一番仲のいい芽依がクレープを食べながらバイトを始めたいと言った。デリバリーピザ屋だけど、免許のない私は作る方だし芽依も作る方でどう?と勧めれば受けてみようかなと言う。
この後バイト先に行くから店長に話しとくよ、と言ってこの日は別れたのだった。
私としては仲のいい芽依が同じバイト先で、しかもメイク(作る方)に来ればもっとバイトが楽しみになると嬉しかった。


「お疲れ様でーす」
「お疲れ様……ってあれ?悠理ちゃんどうしたの?」


事務所に入れば店長が不思議そうに私を見る。今日は休みだ。その代わり沖田がそろそろ上がる時間である。
沖田迎えに来た、と言えば店長は「相変わらず仲がいいね」なんて笑った。


「でも店長にも話しがあったんですよ。私の友達がバイト先探してて、もしアレだったら面接してもらえないかなって」
「あー今のところ募集してないんだよなぁ……」


うーん、と首を捻った店長にそこをなんとか!と頼み込めば悠理ちゃんの紹介なら、と了承してくれた。店長ありがとー、と話していれば沖田の上がり時間になったらしく事務所にやってきた。


「甲高ェー声するって思ったらお前かよィ」
「あ、お疲れ沖田!私の友達が新しく入ってくるよ」


仲良くしてね?と言えば沖田は「可愛い子なら考えてやらァ」と言うから可愛い子だよと答えた。嘘でもお世辞でもない、芽依は可愛いのだ。



芽依もバイトに慣れてきた頃、私と沖田と芽依はしょっちゅう一緒にいた。元々沖田と私は毎日一緒にいるようなもんだったし、それは必然だった。

沖田が休みで私と芽依がバイトの日、私にとってはとても複雑で予期していなかったことが起こった。
高校生は22時までのシフトになっているから、私と芽依は同時刻に上がり時間になる。お疲れ様でした、と事務所に行ったところで私と芽依以外に誰もいなかった。


「あのさー……悠理と沖田くんって、何もないんだよね?」


着替えながら芽依が言う。何もって?と聞いた私に困ったように、芽依が笑った。


「好きだとか付き合ってるとか、そういうの」
「あぁ、その話?ないない、本当に何もない。みんな信じてくれないんだけどね」


ぶっちゃけこの手の質問は慣れっこだった。それに当の本人である私ですら、付き合ってるっけ?とたまに疑問に思うくらい沖田とは本当に仲が良かったからだ。
急にそんな質問どうしたの?とケラケラ笑った私に、芽依は言いづらそうに口を開いた。


「沖田くんのこと、好きかも」
「え……?」
「あー!恥ずかしい、すごい恥ずかしい!内緒にしてね、絶対沖田くんに言っちゃダメだよ」


そう言って顔を真っ赤にして笑った芽依に、私は「もちろんだよ」と返した。親友と親友が恋人になるとしたら、私の立ち位置はどこになるのだろう。
少しだけ、胸が痛かった、そんな秋の終わり。