どうしようもないくらい仲が良かった。
私の友達は初めて沖田を会わせれば口を揃えて「彼氏?」と言った。私もふざけて「そうだよ〜」なんて笑っていた。沖田も「俺らラブラブなんでねィ」と言って笑っていた。
時間が合えば一緒にいたし、高校は別々だけどバイト先は一緒だし、地元も一緒だし……
依存に近かった。大好きで大好きで、誰のものにもなって欲しくなくて、でも恋愛の好きかと聞かれたらよくわからなかった。付き合わなくてもこんだけ一緒にいれるなら、恋愛じゃなくていいと思っていた。
付き合うよりもこの関係と距離感を失いたくなかった。



「お、悠理もお盆はバイト三昧かィ。男がいねェーとシフト考える必要もねェーもんなァ」


新しく張り出されたバイト先のシフト表を見ながら、沖田が笑った。よく言うよ、沖田もバイト三昧じゃんか。


「夏休みだっていうのに予定がバイトしかないって虚しいね」
「別にー?女なんてめんどくせーだけですぜ、いらねェー」


暑ィーとヘルメットを取って事務所の冷蔵庫からお茶を取り出し一気に流し込んだ沖田に「あがり?」と聞けば店長が沖田の代わりに「沖田くんは上がりだから悠理ちゃんも上がっていいよ」と言った。


「やった、上がれる!沖田、一緒に帰ろう」
「いや俺バイク」
「うん、知ってる。暑いから乗せてって」
「メットねェーよ、つかアンタは今日夜までじゃなかったんで?」


いいんですかィ店長ー、と沖田が言えば店長が「いつも二人はシフト貢献してくれるからデートでもしておいで」と言った。すると沖田がデリバリー用のメットを私の頭に被せる。


「え、なに?」
「メット。我慢しなせェーよ。10分もすりゃーちゃんとしたの貸してやんから」


暑いし少し走りに行くかィと言った沖田に笑顔で「うん!!」と頷いた。
私と沖田は付き合っていなくて、ただの友達とも違う。沖田は私を自分の友達と遊んでいる場所に連れて行ったり、暇さえあれば連絡をくれる。逆に私も自分の友達と遊ぶときに沖田を呼んだりもする。
バイト先であるデリバリーのピザ屋でも、付き合ってると思ってる人もいるくらいだ。きっと私たちは端からみればとんでもなく仲がいいカップルなのだと思う。
SNSに写真を載せたりもしているから、きっと多くの人がそう思っている。


「お疲れ様でしたァ」
「お疲れ様でーす」


二人で一緒に店を出ればパートのおばちゃんが「あの二人やっと付き合ったの?」と店長に聞いていた。店長は笑いながら「親友らしいですよ、いいですよね性別関係なくあんなに仲がいいのは」と答えていた。


「しっかり捕まっとけよィ」
「オッケーオッケー」


沖田の腰に腕を回し、ギュッと掴む。
バイト代を貯めて先月買ったというこのバイクの後ろは今の所女だと私しか乗っていなかった。

どんどんスピードを上げるバイクから振り落とされないよう、強く抱き着く。
私にとって沖田は親友で、沖田にとっても私は親友なのだ。代わりはいない、唯一無二の存在。だからどんな時も私たちはお互いを優先したし、大事にされていて大事にしていた。

大好きで大好きで、仕方なかった。
沖田は私にとって側にいるのが当たり前で、離れることなんて考えられなかった。
これが恋愛感情なのかも知れないと、何度か考えたことがある。
その度に恋愛に終わりはつきものだけれど、親友はずっと終わらないものだからと考えるのをやめてきた。

なんでも話し合えて居心地がよくて、だからこそ失いたくなくて……
だって友達なら許せることでも恋人になった途端許せなくなることってあるでしょう?
私はこの関係をどうしても崩したくなかった。
だからずっと気づかないふりしてたのだ。