「クソ寒い中呼び出すんじゃねェーや」
「沖田は家から出ただけじゃんね」


芽依に早く仲直りしなよ、なんて言われて沖田の家にやってきた。沖田とは数時間前に別れたばかりだから、気まずさもなくていつも通り憎まれ口を叩けていた。


「終わったんで?」
「うん、ちゃんと話してきた」
「そりゃーよかった」
「棒読みすぎて腹立つ」
「俺は、お前に腹立ててらァ。ここんところずっと」


我儘も大概にしろィ、と鼻を摘まれる。いつもならやり返してやるけど、今回ばかりは仕方ない。わたしが悪かったよごめんね。


「沖田も馬鹿だね。私より芽依の方が全然いい女だよ」
「だろうねィ。スタイルもいい、顔もいい、性格もいい、要領もいい」
「……沖田って私のどこが好きなの?」
「あり?俺、いつお前のこと好きなんて言いやした?」
「え?」


自惚れんじゃねェーぞブス、と言われて恥ずかしくなった。そういえば言われていない。じゃあなに?勝手に私が暴走してたってこと?え、じゃあ、芽依にも沖田にも超恥ずかしいことしてるじゃん!
あっあっ、と口元を押さえながら羞恥心でなにも言えなくなっていれば沖田がゲラゲラとお腹を抱えて笑い出した。


「ちょーうける、マジでうける」
「やめて、お願いだから笑わないで」


そうだよそうだよ。沖田は親友として私を好きなだけだよ。なに言ってるんだろう私。なにブスのくせにわけのわからない勘違いして一人であたふたしてたんだろう。ここまでくると破壊的に痛い子だ。


「忘れて。今言ったこと忘れて」
「嫌でィ」
「忘れて。沖田に貸したままの500円無かったことにしてあげるから」
「その前に俺の200円返しなせェーよ」
「……300円忘れてあげるから」
「嫌だねィ。死ぬまでずっとネタにしてやらァ」
「まじいい性格してるよね!!」
「褒めんじゃねェーや」
「ちっとも褒めてないよ、勘違いすんな」


あー笑った笑った、と目に涙を浮かべる沖田に舌打ちをすれば「なんですかィ、自惚れ屋の悠理サン」とニヤニヤした顔で言われてもっと腹が立ってきた。なんだこいつ、お前だって私と会えなくて元気なかったってさっき芽依が言ってたんだからな。


「あー、もうなんでもない。明日からまた宜しくお願いし、ま、す!!」


帰ろ帰ろ。沖田と話してると馬鹿が移るかもしれない。自分のことは棚に上げるけど、コイツは馬鹿だ馬鹿。
じゃーね!と膝を返せば「待ちやがれィ」と髪を引っ張られた。


「痛ッ!!髪の毛引っ張るのはおかしいでしょ!抜けた、絶対抜けた」
「安心しなせェーよ、お前はどちらかというとゴリラ並みの毛深さですぜ。髪の毛の一本や二本抜けたところで誰も気づきやせんって」
「……むっかつく!」
「でもそんな俺が好きなんだろィ」
「……は」


それ言いに来たんだろィ、と言う沖田は何秒か前までふざけた顔してふざけたことを言っていたのに、急に真面目な顔をしている。
顔に熱が集まる。この好きは、今まで言ってきた親友としての好きって意味だろうか?それとも私が今までずっと見て見ぬ振りしてきた異性としての好きだろうか?

ドクンドクンと心臓がその存在を知らしめる。頭の中で芽依のいい加減素直になれば?という声がぐるぐるぐるぐると回る。


「言え、アンタ俺が好きでしょう」
「なに言っ、」
「言え」


逃げねェーんじゃねェーの?と私の腕をキツく握りしめる。
真っ直ぐ私の目を見る沖田は、ふざけていない。もう、逃げられない。


「ああーはいはい、好きだよ大好きだよ馬鹿」
「……ぷっ、大好きだよだってよ。大好きって、ブッ」


吹き出した沖田にみるみる私の顔は赤くなっていく。勇気を出して言ったのに吹き出すってどういうことだ。


「……離せ馬鹿沖田」
「嫌でィ」
「離して」
「んなに怖ェー顔すんじゃねェーや」


ちょっとふざけただけでしょう、と言った沖田の腹部にパンチを一発決め込んでやろうと拳を突きつければいとも簡単に抑え込まれてしまった。
そして手首を掴まれ引かれる。
ドンっと沖田の細いくせにほどよく鍛えられ筋肉がついた胸板に顔をぶつけてしまった。そして胸板同様に、剣道部で鍛え上げられた腕が私を包み込む。

ギュッと肺を潰す勢いで抱きしめる沖田に「痛い離せ変態」といえば「そんな俺が大好きなお前のが変態に決まってらァ」と言われてしまった。


「お前の好きなところ語るにゃ、時間が足りなすぎるんでィ」


朝まで付き合いやがれ、馬鹿悠理。と言われて私は「時給1000円でお願いします」と答えてやった。
甘い雰囲気なんていらない。
沖田は私が怖がっていたこともきっと全部全部分かっているんだろう。
恋人になったらイチャイチャして、今までみたくふざけあえないのも不安だった。男と女を意識しすぎて、この距離が変わるのも嫌だった。沖田とはずっとずっとこのままいたいと思ってた。

そんな私の全部を沖田は言葉にしないでも受け入れてくれた。


「俺たちは変わりやせん。ただもうこんなのは御免なんでねィ。親友から恋人になるくらいは譲歩しなせェーよ」


私は「仕方ないなー」と言いながら沖田の背中に腕を回した。