沖田と土方と別れて、携帯を取り出した。もちろん芽依は電話にも出てくれなかった。当たり前か、私がやってきたことは良いことではないのだから。

芽依が沖田を好きだと言った時に、ちゃんと言っておけばよかった。沖田からどう思うって聞かれた時に、素直になれば良かった。そしたらもっともっと、すんなり話が終わってたはずなのに。
つまり私は芽依を利用したのだろう。そんなつもりはなかったけれど。沖田と私の誰も邪魔しない世界の中に、他の誰かが入ることをひどく嫌っておきながら、誰かを入れることによって沖田の気持ちを無意識に図っていたのかも知れない。


「こんな嫌な自分、居なくなればいいのに」
「人の家の前で自殺宣言紛いなことしないでくれる?」


芽依に直接会いに来れば、コンビニ袋をぶら下げた芽依が背後から声をかけてきて驚いた。
腫れた目が痛々しい。きっと、私のせいで泣いたのだろう。


「芽依……」
「とりあえず部屋上がりなよ」


外寒いでしょ?と玄関を開けてくれた芽依にごめんと呟けば「なにが?」と笑顔を返されてしまった。
芽依のサバサバしていて、明るくて裏表ないところが私は好きだ。


芽依の部屋は私と違って物がごちゃごちゃしていなくて、すっきり片付けられている。本棚の上に飾られたコルクボードに私との写真がたくさん貼られていて余計に胸が締め付けられた。


「あのね、芽依に話したいことがあって……」
「私も悠理に話したいことがあったよ」
「え?」
「なに。私が話したいことあっちゃいけないの?」


トゲがあるように聞こえるけれどそんなことはない。芽依はいつだってこんな感じなのだ。少し笑った芽依に、ゆっくりと私は言葉を続けた。


「私、沖田のこと」
「うん、好きなんだよね?」
「……え」
「知ってた。二人が両思いだろうなってことも知ってた」


ごめんね?と言った芽依が悲しそうに笑うから、罪悪感が一気に私を支配した。
謝るのは私なのにどうして芽依が謝るんだろう。謝りに来たのにどうして先に謝らせてしまってるんだろう。
自分の弱くて臆病で狡いところが嫌いで嫌いで、泣いてしまいそうだ。


「私ね、沖田くんが付き合ってもいいって言った時嬉しかった。嬉しかったけど、悠理の反応見たら申し訳なくなった。それから悠理が私と沖田くんに気を遣って距離取ってからすごい悔しかった」
「悔しい?」
「だって沖田くん、分かりやすいくらい落ち込むんだもん。デートだって断るし、私聞いてみたの。悠理が好きなの?って」


おかしいよね、彼氏にそんなこと聞くの。そんなことを言いながらけらけらと笑う強さが羨ましい。強がりとかそんなんじゃない、眩しいくらい強くてかっこいい。


「沖田くんに謝られちゃったよ。悠理以上に大事な女いないって。じゃあなんで私と付き合ってるんだって話。でもすぐわかった。悠理は私を応援したかったんだよね?だから沖田くんに応援するなんて言ったんだよね」


"ごめんね、応援なんてできっこないのにね"
芽依がそんなことを言うから、私はとうとう泣いてしまった。それは芽依が私の気持ちを分かってくれたからじゃない。芽依にそんなことを言わせてしまった自分が情けなくて泣いてしまったのだ。


「ごめん、本当にごめん」
「別に悠理が悪いわけじゃないよ。私こそ結局大好きな二人を困らせただけだったよね」


ごめんね、と笑う芽依。
芽依はなにも悪くない、全然ちっとも悪くない。ブンブン、と首を振れば芽依は「そろそろ素直になったら?」と言った。


「私が好きなのは悠理といる沖田くんなんだと思う。面倒見いいなーとか優しいなーとかノリがいいなーとかさ、好きなところはたくさんあるんだけど悠理有りきなんだよ」
「沖田は、誰にだって優しいと思うよ」
「なに喧嘩売ってんの?」
「違っ、そうじゃなくて!!」
「嘘だよ分かってる、優しいよね。優しいから私に素直に言ったんだと思うよ。"付き合っても俺の優先順位は変わりやせん"だって。そのまま別れたんだ」


それでもいいって思ったけど、やっぱ無理だった。とタピオカミルクティーを飲みながら芽依は「付き合ってるのに一方通行なんて嫌だね。もっといい男見つけるわ」と親指を立てる。

私のせいで別れてたの?別れた話すら聞いてない。もう罪悪感で息が詰まりそうだ。


「芽依、あのね、私やっぱり謝りたい」
「なにを?」
「だって、嘘ついてた……」
「それって私の為の嘘でしょ?別にいいよ、傷ついてないから」
「でもそれじゃ私が納得しない」
「知らないよそんなの。私がいいって言ってるんだからいいでしょ?はい、この話は終わり!!」


沖田くんと話してきたら?と言った芽依は何故か家の外で会った時よりもすっきりした顔をしていた。


「悠理にずっとなんて話そうか悩んでた。でも思ったまま話せてよかった、すっきりした。ありがとね、わざわざ来てくれて」


私は悠理と笑っていれればもういいや、と言われて抱きついてしまった。
私の好きな人たちはみんな、いい人過ぎて困る。
ごめんねごめんねと繰り返したわたしの背中を叩いた芽依は「沖田くんやめて私にしとく?」と笑って言ってくれた。
こんなやつなのに、見捨てないで今まで通り接してくれてありがとう。