深夜2時すぎ。ピロン、と鳴った携帯に浮かぶメッセージは芽依からだった。
"沖田くんからなにか連絡来てる?"と暗闇に浮かんだ文字を何度か読んでからドキリとした。
今日送ってもらったのがバレたのではないか、私の沖田に対する気持ちを知られたのではないかと不安になった。
探るように来ていないことと何かあったの?という質問をすれば、すぐに返事がくる。

"今電話できる?"
出来るよ、と返せばすぐに着信を知らせる画面が表示された。


「もしもし、何かあっ……」
『嫌われたかも知れないのっ』


グスッと鼻をすする音と、篭った声にすぐ泣いているのだとわかった。ヒックヒックとしゃくり上げる芽依に胸がチクリと痛んだ。
私はこんなに泣くほど沖田が好きな親友を裏切っているのだと思い知らされた。


「芽依、深呼吸して。落ち着いて。ね?」
『ごめっ、こんな時間に……』


迷惑だよねごめんね、と言う芽依に大丈夫だよと返しながら、自分の偽善者具合に反吐が出そうになる。心の底から心配している、なのにどこかでほんの少し私のことがバレたわけじゃなかったと胸を撫で下ろしたくなった。


『沖田くん、今日バイト休みだったよね?』
「え、あ、うん……」
『朝ねっ……急に予定入ってデート無理になったって……それで、バイト?って聞いたら、返事来なくなっちゃって、それで……』


声を押し殺しているのが分かる。荒い息が辛そうで、静まり返った私の部屋に少し漏れて聞こえた。


『夕方既読がついてから、電話も通じなくて……私が予定なんて聞いたからっ、私がしつこくしたからっ』


叫ぶようにそう言った芽依に胸が締め付けられた。その時間、沖田は事務所にいた。
それを言ってはいけない気がして、言葉が出てこなくなってしまった。
どうしたらいいかな?と痛々しいくらい声を震わせた芽依に、私も絞り出すように「沖田はそんなことで嫌いになったりしないよ」と言うしか出来なかった。


『もし、沖田くんから連絡がきたら教えて欲しい』
「うん、分かったよ」
『こんな時間にごめんね……明日は悠理バイト休みだよね?』
「うん。明日は休み」
『良かった。それなら明日はゆっくり休んでね。こんな時間に起こしちゃって申し訳ないからさ』


おやすみ、と電話を切ってから久しぶりに沖田とのメッセージ画面を表示させた。
"俺、お前になんかしやした?"で終わったままのメッセージ画面に文字を打ち込んでいく。
"芽依が心配してるから連絡は返してあげなよ"
自分でも何様だよ、と突っ込みたくなるくらい送信したあとに申し訳なくなった。

芽依から沖田のことで相談を受けたのは初めてだった。好きかも知れないと聞いて、そのあと沖田から告白されたと聞いて……
付き合ったと聞いてからついこないだ初めてデートすることになったと聞いた以外、何も聞かされていなかった。

沖田からの返信はすぐには来なくて、翌日の昼前に"お前には関係ありやせん"とだけ来ていた。
沖田を先に避けたのは私で、沖田は何度も俺に言いたいことがあんなら言えと、そして俺はお前に何かしたのかと聞いてくれていたのに。
私がそれを全て無視したのだ。
無視したくせにこちらに用がある時だけこうやって連絡したら、そりゃ沖田だって怒るだろう。

"ごめん。沖田と私は親友なのに、避けたりしてごめん"
親友とわざわざ打ったのは、芽依への罪悪感からだった。
そして次に来た返信は"バイト終わりにいつもの公園で"と書かれていた。

昨日の泣いている芽依の声が脳内に響く。
ごめんね、芽依。今日会うのは芽依のことをきちんと聞くからで、やましい気持ちは何もないから。絶対気持ちは伝えないから。邪魔をしないから。と、何度も何度も繰り返し心の中で謝った。