01


土方さんから頼まれた買い物をしていれば、銀さんとばったり顔を合わせてしまった。私は土方さんと違い、銀さんが嫌いなわけじゃない。むしろ面白いし話は合うし大好きだ。


「まーだパシリなんかやってんの?名前ちゃんも物好きだね、ホント」
「まさか。好き好んでパシリに精を出してるわけじゃないですよ、死ぬか生きるかの選択でまだ死にたくないってだけです」
「あーあの無駄に束縛しそうな男が作った局中法度?」
「そうですそうです。あの人絶対彼女のこととか束縛するタイプですよ」


名前ちゃんも言うねえー、と笑った銀さんに私も笑い返した。土方さん、今頃クシャミでもしているだろうか、そうだとしたらざまあみろである。


「そう言えばよ、昨日コレで当たったんだよ。こないだ奢ってもらったしどうよ、団子でも食ってくか?」


右手をクルクルと回した銀さん。これは!!パチンカス様々ではないか!!


「食べる!食べたい!食べさせてください!」
「おーおー、2本までな」
「え。こないだパフェ奢ったのに……」
「だから今日は奢ってやるってーの。チャラにしろよ、女は懐広くなきゃモテねえーぞ」


ちぇっと口を尖らせれば「文句言うなら奢りません〜」と言うから慌ててありがとうございますとお礼を言った。チャラにしろよって、私の方が確実に今まで銀さんに奢ってる気がする。
いつも銀さんが行ってるという馴染みの団子屋の軒先でみたらし団子を頂いた。人の金で食べるものはなんだって美味しいのだから不思議だ。


「幸せそうに食うよな」
「人のお金だと美味しさが倍増するんですよね」


ゲス、と言われたけれど銀さんにだけは言われたくない。ついこないだの飲み代、割り勘だと言っといて財布に300円しか入ってなかったくせに。
二人であーだこーだ話しながら団子を頬張っていれば携帯が鳴った。でででんでででんでででででででででん、とゴジラがやってくるかのようなメロディーに銀さんが噴き出した。


「なにそれ、着信音?」
「土方さん限定ですけど」


残りの団子を一気に口に詰める。これは間違いなく遅い何してんだって電話だろう。


「銀さっ、もぐ。ご馳走様でした」
「団子詰まらせんなよ」
「詰まらせませんよ」


じゃあまた、と手を振り走って屯所へと向かう。電話には出ない。出ようが出まいがどうせ戻ればどやされるのだから。


「たっただいま戻りました」


副長室の襖を勢いよく開けて敬礼ポーズを取れば土方さんはいなかった。おかしい、いつも大体総悟くんの始末書やら総悟くんの報告書やらと向かい合ってる時間なのに。
どこ行った、と探しに行くべく振り返れば土方さんが私を見下ろしていた。


「うっわ……」
「てめえ、なんで電話に出ねえんだよ」
「急いでて気づきませんでしたっ」
「嘘こけ。口の横にタレついてんぞ」
「えっ!」


ゴシゴシと擦れば袖にみたらし団子のタレがついた。あ、やばい、ばれた。


「これはっ!!」
「説教は後だ。今、とっつぁんが来てる。お前に用があんだと」


そう言って居間へ歩き出した土方さんに続いた。


「それで俺の煙草はどうした?」
「えっ」
「はぁ?お前何しに行ってたんだよ、煙草買ってこいって言ったろーが」


用もなく勤務中にお前を野放しにするわけねえだろーが、と睨まれて青くなった。やばい、さっき団子屋で隣に置いたまま忘れてた。


「……てめえ」


足を止め低い声を出され、慌てて膝を返した。取り行かなくては!!殺される、私殺される。
走り出そうとした私の肩をもの凄い力で押さえつけられた。


「痛いですって、力加減おかしくないですか?なんですか、肩甲骨から粉砕骨折でもさせるつもりですか?」
「その前に足を折ってやりてえよ」
「なんで?!」


ゴツンと拳骨を食らってしまった。痛い。肩も痛いのに頭まで痛い。
涙目になりながら殴られたところを抑えれば「あとで見回りついでに買いに行くからいい」と言われた。もちろんさっき買った分の煙草代はくれないだろうな、置いてきちゃったし。
引きずられるように居間へと連れて行かれれば松平のおじさんがひらひらと手を振りながら「久しぶりだねぃ」と言ってくださった。


「お久しぶりです!松平様!!」


笑顔でそう言えば「名前ちゃんは今日も可愛いんだから」と言われて気分が良くなった。へへん、聞いたか総悟くん。私は可愛いそうだよ。
ニヤつきながら総悟くんの方を見れば土方さんが「気持ち悪い面晒してねえでさっさと座れ」と足蹴りをする。
扱いがおかしい。絶対におかしい。


「トシぃ、あんまり手荒に扱ってくれるんじゃねえよ。こんなむさ苦しいところで健気に働く名前ちゃんに感謝するべきだと思わねえか?」
「思わねえな」


ふぅ、と副流煙を吐き散らした土方さん。思わねえなと言われたのでわざとらしく咳き込んでみた。
……もちろん殴られた。


「で、とっつぁん。名前ちゃんに話ってなんだ?」


近藤さんが私と土方さんに困ったように笑っている。
私は腰を下ろしながらちらりと土方さんを睨んでやった。すぐ殴るのはどうかと思う!!本当にどうかと思う!!


「あぁ、そうだったそうだった。いや何、大した話でもないんだけどなぁー……」


"今度警察庁で新しく部署を増やすことになったんだよーィ。そこなら女の子もいるし、ここよりも待遇はいい。給料こそ下がるが斬り込みなんつー危険なこともねえ"
名前ちゃんさえ良ければおじさんが推薦しようと思ってる、と言われて近藤さんだけじゃなく総悟くんまで口を開けポカーンという顔をした。


「今すぐじゃなくても構わねえ。来週までに考えてくれや」


それだけだ、と私の頭をぐりぐりと撫でてから居間を出て行く松平さんを近藤さんが慌てて見送りに行った。


「アンタ、どうするんで?」


総悟くんの問いかけに引き攣った笑みを浮かべながら、土方さんの顔色を伺っていた。
こんないい話滅多にない。パシリとサヨナラバイバイできて、尚且つ公務員である。


「なにこっち見てんだよ、てめえの話だろてめえで考えろ」


そう言って立ち上がった土方さんは、煙草を忘れてきた私への説教もせずに居間を出て行ってしまった。

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