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いつも通りの昼下がり、真選組屯所内に近藤さんの焦る声が響いた。"全隊士に告ぐ!江戸××丁目にて攘夷浪士による立てこもり事件が発生した。至急現場へ向かえッ"
その命を受け幾つもの場数を共にした愛刀を腰へ急いでぶら下げる。畜生め、折角の昼休憩がおじゃんになってしまったじゃないか浪士共の馬鹿野郎が。
空いていたパトカーに乗り込めば総悟くんの仕切る一番隊士と同乗だった。


「あり?アンタ土方さんと一緒じゃなくていいんで?」
「昼休憩だったから一緒じゃないんだ」


ふぅんと返し興味があったのかなかったのか分からないが、総悟くんはアイマスクをポケットに突っ込んだ。
神山さんが運転するパトカーで現場へと向かえば既に土方さんがいた。合流して状況を確認する。立てこもっているのはつい先日総悟くんたち一番隊が壊滅させた(と思っていた)攘夷グループの生き残りらしい。


「生き残りがいたなんてなァ。現場にいたやつらは鼠一匹残らず始末したんですけどねィ」
「たまたまその日の会合に不参加だった奴ららしい。ったく、やるなら徹底的に調べてからやれよ」
「んなこと言われてもねェ……つまりこいつ等を始末すりゃいい話でしょうお安いご用でさァ」


名前と呼ばれ総悟くんの方を見ればニヤリと笑いながら「久しぶりにアンタの背中預かってやらァ」と言われた。ほうほう、私にも乗り込めと。


「昼休憩を邪魔した恨み、晴らしてやろう」
「お前の昼休憩はとっくに終わってるけどな」


ノリノリで総悟くんに返答したつもりが土方さんが会話に乱入してきた。あ、やばい、この顔は怒ってるやつだ、やばい。


「今はお説教よりも人質の解放が先かと……」
「じゃあお前何とかしろよ、サボってた分しっかり働け税金泥棒」


ほらよと渡されたホワイトボードには"人質を解放せよ"と書かれていた。こんなもので人質が解放されるのならば私たちが総出でやってきた意味がない。


「絶対今はこれじゃないと思うんですよね。普通アレじゃないですか?要望を聞き出すとか」


ヒョイっと私の手元からいなくなったホワイトボード。横を見れば総悟くんがなにやら書いていた。何処からともなく取り出した拡声器で「えー犯人に告ぐー、お前らの要望はこれで間違えねェーかー」とこれまたやる気があるんだか、ないんだか分からない喋り口調で語りかけた。


「"土方の首"っておい総悟!!んなわけねェーだろ、それお前の要望じゃねェーか!」
「こういう時は大概土方さんの首を欲してるに決まってやす。ほら、相手も頷いてらァ。ってことで土方さん、市民の為に死んでくだせェ」
「テメェはどっちの味方だ!!いいからさっさと裏から回ってこい!今山崎が人質の中に紛れ込んでるから」


お前もと言われ私も裏から回り込む係になった。大勢でゾロゾロと行けばすぐバレてしまう。だから私と総悟くんの2人が、裏から回ることになったのだ。


「珍しいねィ、野郎がアンタを一人で行かせるなんざ」


裏口から回り込んだ総悟くんが私に聞こえるか聞こえないかの曖昧な声量で言った。独り言とも取れる声量だったけど聞こえてしまったのだ、返事くらいしておこうと「そうかなぁ」と私も聞こえるか聞こえないかの声量で答えた。
音を立てないよう、足音を殺して階段を登っていく。いつ敵と遭遇しても大丈夫なよう、利き手は柄へ添えておいた。


「結構、大事にしてるみてェーだから」


総悟くんがそう言った時、横から敵が現れた。一番隊隊長である総悟くんに怪我を負わせる訳にはいかない。瞬時に対応しようとした総悟くんを突き飛ばして私が相手をすることにした。


「先に行ってて、すぐ追いつくッ」


キーンと高い音がコンクリに跳ね返り耳障りに反響する。受け止めた刀は少し血がついて黒ずんでいた。


「これはこれは副長補佐の苗字サンじゃないですか」


口元を釣り上げ汚い笑みを浮かべた男。総悟くんが刀を抜いた。


「アンタを見殺しになんてできるわけねェーでしょう」
「よく言うよ。大丈夫、これくらいっ」


間合いを取れば男の背後からまた数名出てきた。あ、なに?これ人数が増える感じ?一人かと思ったけど……これなら総悟くんがいてくれた方がいい。


「ごめん総悟くん、やっぱりい、」
「大層な自信があるようで。そんじゃここは任せやす。よろしく頼んまァ」
「待てェエエエエ」


ヒラヒラと手を振り先へと進む総悟くん。あいつ、絶対私が一緒に始末しようって言おうとしたの気づいてた。気づいててわざと置いてきやがった……!おい貴様と呼ばれ顔を正面へ戻せば、男共が刃先をこちらに向けている。マジかマジでか総悟くん。この人数を私に任せるって、どうなのそれ。


「仲間に見捨てられたか。女は足手まといだからな」


ドッと笑い出す男のども。女はって、今の私にそれは地雷なんだよこの野郎が。頭の中で土方さんが言う、女は面倒くさいと言うのだ。これは私の想像で捏造された出来事だけど、私の気持ちを知ればきっと土方さんは横目で私を見下ろして女は面倒くさいと言うだろう。


「女はって言ったやつから始末するって今決めた。それから総悟くんは私を見捨てたんじゃない、お前ら如き私で十分事足りるからこの場を任せてくれたの」


女なめてると痛い目見るからね、動かした足はコンクリートの床を蹴った。なめないでいただきたい、私がどれだけ土方さんに鍛え上げられてると思ってるんだろう。


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