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近藤さんと土方さんに連れてこられたキャバクラすまいる。近藤さんの回収以外でこの店にやってくるなんて思ってもいなかった。今日はキャバクラで働くなんとかちゃんに土方さんを連れてくるよう頼まれたらしい。本当は女の私でなく、総悟くんを連れて来たかったんだろうけど残念ながら総悟くんは未成年である。そこで土方さんが私をご指名したのだ。「俺が肉食の女に食われたらどうしてくれる」と首根っこを捕まれた。


「名前ちゃんは何飲む?」
「あっじゃあ、近藤さんと同じやつを」


お妙さんに聞かれて咄嗟に答えた回答がダメだったらしい。土方さんが私の頭を気持ちいいくらいスパーンと叩いた。


「え、痛」
「お前まで飲んだら誰が帰り運転すんだよ」
「えぇ?私運転手だったんですか?」
「当たり前だろーが」
「もうそれ総悟くん連れて来ればよかったのに。未成年なんだからどうせ飲ませ無いくせに」
「真選組が未成年者をキャバクラで遊ばせてるなんて印象が余計に悪くなるだろ」
「今更イメージ気にしたって意味ないですよ」
「これ以上悪くならねえように気をつけるんだよ」


お前はお茶か水、百歩譲ってオレンジジュースなとメニューを取り上げた土方さんが言った。ちぇっと口を尖らせお妙さんに「コーラで」と言えばクスクス笑いながらコーラを頼んでくださった。


「仲がいいんですね」
「「全く」」


お妙さんの言葉に土方さんまで答えるからハモってしまった。それに近藤さんもなんとかちゃんも笑う。なんだか少し照れくさい。


「おい、酌」
「……私がですか」
「そりゃそうだろ」


空いたグラスを私に向ける土方さん。キャバクラに来てるのにどうして私にお酌をさせるのだと思いながら、グラスを受け取った。それを見ていたなんとかちゃんが「すみません、私がやりますね」と手を伸ばして下さった。


「いい、俺のは全部コイツがやる。名前火つけろ、火」


そう言って煙草を咥えた土方さん。私はキョトンとしてしまった。キャバクラに来ているのにどうして私に頼むだ。というか火くらい自分でつけろ。甘えんなよ畜生。


「お酒飲むと我儘になるタイプですか?」
「違ェーよ。他の女が寄ってこないようにお前を隣に置いてんだろ」
「どういうことですか」
「面倒くせえんだよ」


女になんざ興味ねえ。と言う。痛い、この言葉、痛い。
ほら火、と急かされ慌ててライターを持った。なんとかちゃんが困ったように笑っている。


「トシ、折角来たんだ。名前ちゃんだって楽しみたいだろう?それにほら、女の子たちが仕事取り上げられて困ってるぞ」
「そうですよ土方さん」


近藤さんとお妙さんがそう言えば、なんとかちゃんがライターを差し出した。火なら私がつけますからと。
バツの悪そうに火をつけてもらった土方さんが「悪いな」と呟いた。私には悪いなだなんて言ったことないくせに。私もキャバクラで働こうか、そうしたら土方さんに悪いなと言ってもらえるらしい。


「なにしけた面してんだよお前は」
「べっつにー」
「生意気」
「……お願いですから私のこと当たり前のように叩かないでください。脳内細胞が死滅しますよ」
「じゃあ楽しそうにしろ。近藤さんが気を遣っちまうだろ、お前ごときに」
「ごときってなんですか、ごときって」


誰のせいでつまらなくなったと思ってるんだ。わざとらしく溜息をついた私をジッと見た土方さんが「そんなに火つける役やりたかったのか」と言った。


「へ?」
「だったら最初からウダウダ言ってねえでつけりゃ良かったろ」
「いや別にそうい、」
「ほら。つけさせてやんからへそ曲げんな。ガキくせえ」


新しい煙草を取り出した土方さんが「ん」とこちらに煙草を咥えて顔を向けた。まじまじとそのお顔を拝見してれば、整いすぎた顔に腹が立つ。無自覚でこういうことするから……


「タチ悪いんですよねほんと」
「あぁ?」
「なんでもないです。はい、どうぞ」


ライターの石を回す。ジュッと煙草に火が灯ればフゥっと顔に煙を吐き出された。


「っ!ゲホッ、何してくれてんですか、くっさ、二酸化炭素!」
「ククッ、ざまあみろ」
「うざっ、うっざ。なんなんですか本当に」


笑ってる土方さんを睨んでみたけど効果はなかった。私の頭に手を乗せて「そっちの方がずっといい」と言う。そっちってどっちの方だ。


「そのうち土方さんは背後から刺されますね」
「あぁ?お前にか?総悟にか?」
「多分私でも総悟くんでもない人です」


少し悩む素振りを見せてから土方さんは「簡単に背後なんざ取らせてやらねえよ」と言った。言いたかったことは全然伝わっていないらしいが、確かに土方さんが殺される場面なんて想像出来ない。というか、多分私はこの身を差し出してでもそんな場面作らせないだろう。


「私が守ってあげましょうか?」
「お前に守られるくらいなら死んだ方がマシだわ」


ほら酒注げと言った土方さんは私の考えなんて少しも分かっていない。


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