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風邪を引いてしまったらしい。目は覚ましたものの、布団から這い出ることすら億劫だった。しかし風邪ごときで休ませてもらえるほど土方さんは甘くない。むしろ自己管理が出来てないだの、日頃の怠慢の結果だのぐちぐち言われるに決まっている。
寒い寒いとぼやきつつ副長室に行けば、私を見るなり額に手を添えられた。


「風邪か」
「朝から寒いんですよね」
「腹出して寝てんからだろ」
「出してないですよ。でも大丈夫です、稽古は見学しますけど書類ならどうにか」


文机に向かえば土方さんが今日のノルマ分を渡してくれた。わかってたけど、休んでろとは言ってくれないらしい。それからお互い無言で筆を走らせた。体が怠い寒い、横になりたい。


「遅ェ」
「へ……」


手元でたった今取り掛かってた書類が束で消えてしまった。土方さんの方を見れば私がやっていた報告書が丸っと全て手中に収まっている。


「一枚書き上げんのにどんだけ時間使うつもりだテメェは。そんなんじゃ邪魔だ、さっさと体調戻していつものペースで書き上げろ」


真っ直ぐ向けられた暴言とも取れる言葉に、少し反抗したくなった。したくなったけど、私の分の書類をやってくれている姿を見れば文句なんて言えなくなる。
優しいんだか当たりが強いんだかよく分からない人だ。


「素直に休んでろって言えばいいじゃないですか」
「お前の為じゃねえよ、俺のためだ」
「ツンデレですか」
「デレた覚えはねえ」


とりあえず煩えから寝てろと言われ、部屋に戻るのも面倒くさくて土方さんの布団を敷いてみた。チラリとこちらを見たくせに土方さんは何も言わなかった。なんだ、病人相手だと優しくなるらしい。


「私ここで寝てもいいんですか?」
「世話はしねえぞ」
「でも薬くらいは持ってきてくれるって信じてます」
「あのなぁ……」


俺はお前の親じゃねえよと言いつつ立ち上がった土方さんは、薬箱を取り出した。そして私の目の前に置いて「ガキじゃねえんだから」と風邪薬を出してくれた。


「水はセルフですか?だめだ、寒くて歩けそうもないです」
「テメェで布団まで敷いといて何言ってんだよ」
「あぁ頭も痛い、土方さんが優しく見える」
「俺はいつだって優しいだろうがふざけんな」


面倒くせえなと私を睨んで部屋を出て行った。土方さんはたまにこうして本当に面倒見が良くなる。違う、たまにじゃない。いつだって面倒見がいい。熱に侵され上手く回らない頭でそんなことを考えていれば戻ってきた土方さんへ手を伸ばしてしまった。


「はっ……?」
「いつもありがとうございます」


触れた髪の毛は見た目ほど硬くない。少し柔らかくてひんやりとしていて、指通りが良かった。目を見開いた土方さんが私の頭に手を乗せ、そのまま枕へ押し付けた。


「痛っ、えっ、病人相手に何してくれてんですか、トドメでも刺したいんですか?!」
「お前が何してくれてんだよ、頭でも沸いてんじゃねえの?!」
「お水持ってきてくれたし、薬出してくれたからお礼言っただけなのにっ」
「そんだけ騒げりゃ大丈夫だろ!ったく。あークソ、水溢れた」
「私のせいにしないでください」
「テメェのせいだろーがどう考えたって」


ほらテメェにも掛かってる拭け、と渡されたタオルを受け取る。その瞬間、少しだけ俯いた土方さんの顔が赤く見えてドキリとした。


「何見てんだよ」
「土方さん照れてるなぁって」
「照れてねえよ」
「私が髪なでたからですか?私が髪の毛触ったからですか?」
「尻の青ェーガキに触られたくらいで照れるかよ」


熱下がったら覚えてろよと言われて、望むところですよと生意気ながら答えてみた。
私は土方さんが好きだ。好きだけど、この関係がもっと好きだ。
だからきっと、私はこのまま気持ちを伝えたりしないだろう。
仕事のパートナーとして、仲間として、手のかかるクソガキとして、土方さんの近くに居られるのなら、何も文句等ない、と思いたい。


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