08

いつものように土方さんにパシられ近藤さんの回収へとすまいるにやって来た。今日はお妙さんの給料日前である、つまり締め日だ。張り切ってお金を下ろした近藤さんはきっと、例の如く有り金すべて絞り取られていることだろう。パトカーを店の前に停め、店内へと入ればお妙さんがブンブンと腕を振っていた。お久しぶりですと頭を下げれば笑顔でお妙さんも「久しぶりね」と言ってくれた。


「今日は早かったわね。もうそこのゴリラお金ないみたいだから早く連れ帰って貰える?」
「わあー……なんでパンツ一丁なんですかこの人」
「ドンペリ頼むのにお金が足りなかったから金目のものはすべてこちらでいただいたわ」


そう言われテーブルの上を見れば、ドンペリの空き瓶やフルーツの盛り合わせなど、夜の世界では値が張るものばかり置かれていた。そりゃ身包み剥がされますわ。
呆れながらしょぼくれている近藤さんに声をかければ「あぁ名前ちゃん。早かったね」と力なく口を開いた。


「締め日なので早めに来たんですよ。毎回毎回、どうして締め日はパンツ姿なんですかねー」
「お妙さんの力になりたくてだなあ……」


予め持ってきていた毛布を近藤さんに渡して「帰りますよー」と声をかければお妙さんが手を振ってくれた。トボトボ毛布に包まり歩く近藤さんの少し前を歩く。パトカーに乗り込めば遠い目をして近藤さんが「名前ちゃん、お妙さんにはどれだけ想っても俺の気持ちが伝わらないのかな」と珍しくネガティブなことを言い出した。


「どうしたんですか急に。近藤さんらしくないですよ」
「俺らしいってなに?」
「ゴリラでストーカーしてるって感じですかね」
「それ悪口だよね。勲、もう自信ないんだよ」


ハァと大きな溜息が聞こえた。バックミラーを見上げれば近藤さんが窓の外を見て、なにやら切なそうな顔をしている。


「俺もトシくらいイケメンだったらまた違ったんだろうな」
「土方さん?イケメン?」
「トシは何もせずともモテるからなー……。名前ちゃんも大変だなぁー……」
「私?え?」
「でも大丈夫だ。トシはああ見えて一途な所があってな」
「すみません近藤さん。途中から話についていけなくなりました」


毛布に顔を埋めて近藤さんがなにやら言っているけど、全然分からないのだ。土方さんがイケメンで私が大変?どうして?土方さんがイケメンだろうとなかろうと、土方さんが一途だろうとなかろうと私には関係ない。
すると近藤さんが「あれ?総悟派だった?」と聞いてきた。


「もしも地球が爆発するとかになって、土方さんと総悟くんどっちかしか選べないって状況になったら総悟くんですかね」
「へぇ意外。名前ちゃんはトシ派だと思ってたよ」
「地球が爆発するってならない限りは両方ナシでお願いします」
「あの二人、どこ行ってもモテるよ?」
「終兄さん一択でお願いします」
「へぇ意外!!終のどこが好き?恋話しよう!」
「物静かで優しいところですかね」
「あぁーわかるなぁ。終は優しいからな。物静かってレベルかどうかはわからんが。じゃあ次俺の番ね!!お妙さんの好きなところはー」


いつもの調子を取り戻した近藤さんに胸を撫で下ろした。
屯所に着き副長室へ戻った報告をしに行く。今日の隊務はこれで終わりだ。早くお風呂に浸かりたい。


「ただいま戻りました」
「おう、お疲れ」
「今日もパンイチでした」
「締め日だからな」
「少し凹んでましたよ、近藤さん」


土方さんは刀の手入れをしながら私の方を一度見て「たまには凹むこともあんだろ」と言った。


「兎に角、隊務は終わったので風呂入って寝ますね」
「お疲れさん」


副長室を失礼しましたと出ようとして、先ほどの近藤さんとの会話を思い出した。土方さんは地球最後の日、何をしたいだろうか。


「土方さん、質問なんですけど」
「なんだ?」
「地球が爆発するってなったら、誰と過ごしますか?」
「なんだそれ、心理テストか何かか?」
「違います。さっき近藤さんと話してたんです」
「女子みてェーな会話だな」
「私は女子ですよ」


刀の刃先をまじまじと確認しながら、土方さんは「俺は変わらずここにいる」と言った。死ぬと分かっていても真選組にいるらしい。


「何するんですか?真選組で」
「いつも通り仕事するんじゃねェーの?」
「……普通もっとなにか、したいことありません?」
「ねェーよ。俺にとってこれが一番してェーことなんだよ」
「悲しい人生ですね」
「安心しろ、お前も絶対仕事させてやんから」
「勘弁して下さいよ、私はやり残しがないように最後の日くらい楽しみますって」
「なに、やりてェーことでもあんの?」
「そう言われると浮かびませんけど」
「じゃあいいじゃねェーか」
「でもなんだろう、死ぬって分かったらとりあえずは終兄さんとデートしたいですかね」
「は?」
「冗談です」


目を見開いた土方さんにクスクス笑いながら冗談だと言えば、少し黙ってから「終みたいなのがタイプなのか。てっきり総悟のことが好きなのかと思ってた」と言われた。


「総悟くんのことも好きですけど、やっぱり女は落ち着きがあって優しいくて包容力があって時には厳しく時には優しく、一緒にいて成長できる男性が好きなんですよ」
「俺じゃねェーか」
「……おやすみなさい」
「話ノッてやったのになんだその態度」


おやすみと言った土方さんに頭を下げてから副長室を後にした。
俺じゃねェーかって……。
そんな馬鹿な。そんなことがあるもんか。私が土方さんを好きだとか?まさかまさか。ないないないない。
湯に浸かりながら「トシのこと好きなんじゃないの?」と近藤さんの声が聞こえた気がした。


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