05


まだ夜も明けぬ午前3時過ぎ、とある攘夷浪士グループの潜伏先へ乗り込むことになった。眠たい目を擦りながらパトカーのドアを開ければ、あろう事かそのパトカーには近藤さんと土方さんと山崎さんが乗車していた。


「……間違えました。私の乗るべくパトカーはあっちですね」
「間違えてはねェーだろ。早くエンジンかけろ」


咄嗟にドアを閉めようとすれば、土方さんが睨みを利かす。しぶしぶ運転席へ乗り込みエンジンを回した。
パトカーを走らせれば山崎さんが、後部座席に乗る二人へとなにやら説明を始めた。内容からしてこれから向かう先である、浪士たちの情報だろう。左から右へと聞き流していれば、近藤さんが「総悟たちが表階段、俺たちは裏の外階段から向かおう」と言った。


「あぁ、そうだな。終と原田たちもこっちでいいだろう」
「そうなると表からの隊が少し手薄になりはしないか?さすがの総悟率いる一番隊でもそれは酷だ」


うーんと首を傾げた近藤さんに、助手席の山崎さんが「名前ちゃんを沖田隊長側に配置するのはどうですか?」と意見した。


「しかし名前ちゃんだけじゃなぁー……。トシはどう思う?」
「原田率いる十番隊を表へ配置、この阿呆女はこっちでいいんじゃねェーの?」
「トシがそう言うなら」


「よろしくね名前ちゃん」と近藤さんに言われ頷いたものの、土方さんは私をどう見ていればその答えになるのか疑問に思った。原田さん率いる十番隊の戦力と私一人の戦力が同等とは思えない。それに確かに剣の腕は認められているけれど、私が今までいい成績を収めたことはないのだ。ちらりとバックミラー越しに土方さんの表情を盗み見れば、目が合ってしまった。「なにガンくれてんだ、テメェ」と言われ慌てて目を反らす。


「私なんかが裏側でいいのかと」
「消去法で仕方なしだろ」
「消去法?」
「お前と総悟を一緒にしてみろ。派手に暴れてまた始末書が増えるだけじゃねェーか。お前らは確かに腕は立つ。でもやり過ぎなんだよ毎度毎度」


あぁなるほど。納得した。
土方さんが言ってるのはいつだかの討ち入りで、総悟くんとビルを全壊させたことだろう。しかしあれは私と総悟くんのせいじゃない。敵が爆弾を仕掛けていたのだ、私たちのせいじゃない。
現地へ着くなり慌ただしく指示を出す近藤さんと土方さん。その後ろで私は山崎さんと最終確認を行っていた。どこの隊にも属さない私にとって、この確認はとても重要である。


「名前ちゃんは副長の側から離れないようにね、あとで痛い目見たくなかったら」
「どういう意味ですか、ソレ」
「ん?そのままの意味でしょう?」


「兎に角、副長の側から離れないでね」と言った山崎さんに頷く。指示を出し終えた二人が戻ってきて、裏口へと回った。


「おい。目の届く範囲にいろ」
「へ?」
「だから俺の目の届く範囲にいろって言ってんだよ。前線から脱するな、近藤さんの前に敵をやるな」


土方さんの近藤さんへの思いは、私なんかじゃ計り知れないほどあるのだろう。了承の意を込め力強く頷いた私に、土方さんは「俺の後ろにも立つな」と言った。



この日、真選組は誰一人死者を出すことなく事を終えることができた。負傷者は少なからずいたようだが、幸い命に関わるほどの大きな怪我は誰一人としてしなかった。だから上出来とまではいかずとも、それなりに良かったのではないだろうか。


「なに反抗的な目してんだよ」
「だって無傷で、尚且つ前線から離脱もしなかったんですよ?少しは多めに見てくれてもいいじゃないですか」
「俺の後ろに立っただろーが、甘ったれてんじゃねェーよ」


屯所へ戻るなり副長室へと呼び出された。夜は明け、もう既に朝である。各々が朝食を食べに食堂へ向かう中、私だけ副長室で正座をさせられているのだ。


「お腹空きました」
「一食くれェー食わなくても死なねェーよ」
「睡魔も襲ってきます」
「たかが一日寝ずとも死なねェーってーの」
「足も痺れて、」
「いい加減にしろ。今の状況を考えろ」


そう言って私を眼力だけで殺せそうな土方さんだけれど、今の状況とは一体なんだろうか。たまたま戦闘中、土方さんの後ろへ立ってしまっただけである。しかもそれだって別になにかヘマをやらかしたとかではない。刀を振るう上で、たまたま土方さんの後ろに立ってしまったのだ。しかも何分かの短い間だけ。


「だーかーらー。今度から気をつけますって言ってるじゃないですか」
「そういうところがダメだって言ってんだろ?なんで理解できねェーんだお前は」
「だって」


たかだか数分、背後に立っただけで朝食抜きだなんて納得いかない。敵味方が混じって刀を振るうのだ。その時その時、立ち位置なんて変わってしまう。


「戦闘中は予期せぬことも起きますって」
「そうなんねェー為に努めるべきなんだよ」
「だから次からは気をつけます」
「反省の色が見えねェーって言ってんだろ?」


いい加減にしろよお前。
そう言って呆れたように土方さんは立ち上がった。もしや一人で朝食を食べに行くとか?そんなの私だって不満が爆発してしまう。私だってお腹が空いているのだ。


「食堂なら私も連れてってください」
「違ェーよ、厠だ厠」


土方さんが出て行ったのを確認して足を崩した。前から理不尽だ理不尽だとは思っていたけれど、今回ばかりは私だって納得いかない。あれのなにがダメだというのだろう。
敵は捕縛出来たし、近藤さんの前へ敵を立たせるなんてヘマもしなかったはずだ。土方さんが何に対して、こんなに怒っているのか分からなかった。
するとひょっこり副長室へ顔を出した総悟くんがニヤニヤと私を見て「まーた怒られてらァ。アンタ今回は何したんで?」と言う。


「分からない」
「なんでィそりゃァ」
「本当に分からないんだよね。土方さんの後ろに立ったら怒られた」
「背中取ったんで?なんで生かしておいたんでさァ」
「……総悟くんが背中取って命狙ったりなんかするから土方さん怒ってるのかな」
「人のせいにするんじゃねェーや」
「そうだそうに違いない」
「おい聞けブス」
「なーんだ。そういうことならちゃんと説明しとこう」
「わざと無視してんのかコノヤロー」


煩い総悟くんを無視して、土方さんが戻ってくるのを待った。
私が土方さんの首を狙うなんて、そんなの、今のところまだないのだ。

<< >>