2時間が経った頃、すでにみんないい感じに出来上がっていた。私は新人ちゃんと土方さんを視界に入れたくなくて、沖田くんとずっと話していた。勧められるままにお酒を呑んだ。沖田くんは焼き鳥にマヨネーズをかけたりしなくて、そんな当たり前のことすら私は土方さんを意識していた。
「二軒目行きやす?」
楽しそうに顔を緩ませる沖田くんにみんながもういいと言う。会計を終え店を出れば新人ちゃんが呑みすぎたとしゃがみ込んでいた。
「あーあ、上司の土方さんがついててこのザマはねェーなァ」
「そんな呑んでたようには感じなかったがな。おい立てるか?」
心配そうに背中をさする土方さんに嫌な感情を抱いてしまう。いつもは女社員とろくに話もしないくせに根が優しい人だからこういう時、すぐ手を差し伸べるんだろう。
羨ましい、と思ってしまった。そんな自分が私は嫌いだ。
新社会人で、初めての飲み会。新人ちゃんは緊張もあっただろうし、気も遣っただろう。私だって新人の頃、飲み会に参加する度に変な酔い方をしていたのだからここは心配するべきなのに。
「苗字、んなに怖ェ顔すんじゃねェーや」
「あっ……」
沖田くんが振り向きざま、私の眉間を軽く叩いた。今日知ったことは、私が意外と女々しいということと沖田くんは周りをよく見ているらしい。あと結構スキンシップをとるタイプみたいだ。
「じゃー、土方さんはそいつ送り届けてくだせェ。俺ァ苗字送るんで」
「え?」
グイッと肩を抱かれて、ドキドキした。土方さんが好きで勝手に嫉妬までしたくせに、沖田くんに肩を抱かれて頬を染めている私はどうしようもない。
「……総悟。俺が気に食わねえのは構わねえがそいつは関係ねえぞ」
「なんのことですかィ?」
チッと舌打ちした土方さんが新人ちゃんを送るべくタクシーを呼んでいる。胸が痛い、苦しい。いい年こいてなに嫉妬してんだって自分でも思うけど、その優しさを一人占め出来たらいいのにと思ってしまう。
「じゃ、俺らは呑み直しやしょうか。まだ帰るには早ェーだろィ?」
行くかィ、と歩き出した沖田くんの後を追った。振り向いてしまいたくなる衝動を必死で抑え込む。今振り向いたところで、自分の醜い感情を思い知るだけだ。
少し歩いたところで沖田くんが居酒屋に入って行った。私も後に続く。
「アンタも馬鹿だねィ。野郎はもっと馬鹿だけど」
お通しとお酒、それからおつまみを適当に頼み二人で静かに飲んでいれば沖田くんが急に土方さんの話題を振ってきた。忘れたくて飲んでいるのに今はその話したくなかったなぁと思いつつ笑顔で頷いた。
「野郎とは付き合いが長いんでさァ。だから大体のことは分かるんですけどねィ。付き合ってはないんでしょう?」
でもただの上司と部下でも無さそうだ、と意地悪そうに笑う。応援はしやせんが話くらいなら聞いてやらァと言った沖田くんはどこまで知っているんだろうか。
「なにもないよ?」
「なにもなくて野郎があんなに俺を睨むとも思えねェー」
「睨む?」
「気づいてないんですかィ?バッチバチにガン飛ばしてやがったぜ、土方さん」
楽しそうに言った沖田くんにどういうこと?と聞けば軽快に無視をされてしまった。
沖田くんは楽しそうに笑いながら携帯を弄っている。
「あー、ビンゴ」
ほら、と見せられた携帯には土方さんから"今どこだ?"と連絡が来ていた。
「なに?どういうこと?」
「俺と二人っきりなのが気に食わねェーんでしょうよ」
もう少し楽しませてもらいやさァ、と沖田くんが連絡を返さずに携帯の電源を落とした。いいの?と聞けば大丈夫でさァと自信たっぷりだ。
付き合いが長いという沖田くんが大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろうと気にせずお酒を口に含めば次は私の携帯が鳴った。ディスプレイには土方さんの名前が映されている。
「ほらな」
自信たっぷりに笑った沖田くん。恐る恐る通話ボタンを押せば電話の向こうから少し息の荒い土方さんの声がした。
『総悟と一緒か?今どこだ』
「え?」
お酒でなのか土方さんの声でなのか分からないけど、頭がふわふわとしてどうして電話をくれたのか真意を考える余裕がなくなった。
『どこだって聞いてんだよ』
「あ、えっと、ここ……駅前の、」
場所を説明すれば分かったと言って土方さんは電話を一方的に切ってしまった。どうしたのだろうと思いつつ、もしかしたら心配してくれたのかななんて都合よく思ってしまう。
「にやにやしてらァ」
「ぶっ」
締まりのねェー面、と割り箸で私の鼻をつまんだ沖田くんが良かったなと言ってくれた。自分でもにやけている自覚がある。電話一本で土方さんは私を幸せにしてくれるらしい。
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