噛む


やっと寝れると布団に入り夢の世界へ落ちたこと10分くらい、私は肩に激痛を覚え目を覚ました。

「いった、痛、えっ、痛い」

今日は疲れて歯磨き最中からすでに瞼が重く頭がぼやぼやとしていた私は10分といえどもう既にスヤスヤ夢の中だったのだ。痛かった右肩を押さえながら上体を起こせば総悟がどうしたんだと言いたげな顔でこちらを見ている。押さえるだけで痛む肩を見て何をされたのか察した。

「なんで、噛むかなあ」

「そこに肩があったから」

「意味わかんない、寝るよもう」

そこに山があるから的な感じで言われて引いた。私疲れてるんだよね、と睨みを利かせる。何故就寝中の彼女を突然噛みだしたんだろうか。総悟の考えてることはよく分からない。おやすみと背を向ければ横腹に体重をかけた総悟が「なまえ」と呼んだ。

「んー」

なに?とそちらを向こうとすれば今度は二の腕を噛まれた。痛い痛い痛い意味わかんない、え、本当に意味が分からない何考えてんの。

「ばっ、なにしてんの、痛い痛いってば」

「なにって噛んでんでさァ」

「それは知ってるよ!!!」

シレッと、なんでもないように言う総悟のおでこをぐっと押しのけた。重いし痛いし、痛い。キスされるならまだしも噛まれるなんて人生初の経験で怒るよりも驚くの方が大きかった。だからか目が冴えてきてしまう。

「何か言いたいことあるなら噛まないで話してよ、人間なんだからさ。同じ言語取り扱ってるでしょ」

「別に言いたいことなんかねえんだけどなァ」

「用もなく噛まないでしょ普通に」

「普通ねェー…」

すりっと頬を私のお腹に寄せた総悟が口を開く。また噛まれると身構え体を固くすればケラケラと笑いながら「なんでィ、ぶうぶう文句言うわりに期待してんじゃねぇか」と言われてしまった。違うよ、痛みを覚えた体が防衛的な反応を見せてるんだよ。

「噛むのは嫌だよ」

「へえー、じゃあ、なにならいいんで?」

「なにって、別に、なにもしなくていいよ。寝よう」

「もう目覚めただろィ」

「眠いよ、夜だし」

「じゃ、勝手に寝てりゃいい。俺も勝手にすんから」

はいはいおやすみおやすみ、と私の脇腹を甘噛みしながら総悟が言う。こんな状況で「分かった、じゃあ先に寝るね。おやすみ」なんて言える私じゃない事を知っているくせに。本気で噛まれた先ほどと違い、甘噛みは痛くはなかった。ただ場所が場所だからか、それとも行為そのものがか分からないがくすぐったい。とてもくすぐったかった。それに反応してびくつけば、人の嫌がることが大好きな総悟は一層喜んだらしく今度は舌でぺろりと舐め上げる。

「ね、本当に、何してんのっ」

あん、と出てしまいそうな声でを必死に抑えた私を薄すら笑顔で総悟が見上げた。

「ナニされてると思ってんでさァ。俺ァただ美味そうな肉があるから味見してるだけだろィ」

「食べれないに決まってんでしょ」

「塩コショウで味付けすりゃ、イケんかも知れねぇなァ」

今度はにやにやしながら私の贅肉を摘んでいる。これはこれは、本当に総悟の意図が読めなくなってきたぞと私は布団から体を起こした。

「発情、したわけじゃないの?」

「は?」

「いや、ほら、噛んで興奮する人もいるっていうし、総悟もその類かと思って」

「今までそんな癖出したことねえだろィ」

「うん、だよね。でもその後舐めてきたし…シたいのかと思った」

「別になまえが“声が枯れるまでメチャクチャに犯してください総悟様”って言うんならヤってやらねえこともねえけど」

残念ながらまだ俺、全く反応してねえんでさァ
そう言って胡座をかき股を見せてきた総悟のそこは本当に少しも反応していなかった。じゃあ何のために私は噛まれているんだろうか。
そんなやりとりをしていれば次は首元に歯が立てられる。キスマークでもつけるのかと思い、顔を埋める許可を出したけれど噛まれるとなれば話は別なわけで。だってそんな、首元なんて噛まれたらやってらんないに決まっている。ドSバカと付き合っているものの私は別にドMだとか、痛みに興奮するだとかそういう癖を持ち合わせていないのだ。

「だからやだって、噛むのは嫌」

「キスも噛むのもそんな変わらねェーって」

「変わるよ変わる。痛いの!噛まれたら本当に痛いの」

やだよ、と首元から総悟を引っぺがす。その際どうも髪の毛を引っ張ってしまったらしく総悟が不機嫌そうな顔で私に頭突きをした。何だって今日の総悟は私を痛めつけたいらしい。

「いったいなあ、もう本当に怒るよ」

私だってやられっぱなしじゃないんだからねと文句を垂れれば総悟が「ただのじゃれ合いじゃねえか」と口を尖らせたもんだから私は「は?」と素で言ってしまった。

「こんな痛いじゃれ合い聞いたことない」

「そりゃアンタが今までその程度の野郎としか付き合って来なかったつー証拠でさァ」

「総悟には普通なの?これ。今までされたことなかったんだけど?」

「俺だって初めてに決まってんだろィ」

そう言ってまたも私の肩にかぶりついた総悟。痛い!と大きな声が出てしまった。もう怒った、もう本当に怒ったと総悟の頭を二、三度殴り「いい加減にしてよ、怒るよ私だって!」と言えば総悟は痛えなとぶつくさ言いながら離してくれた。

「俺も知らなかったんだけどねィ、地球上で一番の愛情表現ってやつを決めるなら多分これでさァ」

そう言って今しがた噛んだばかりの部分を指でぐりぐりと押す総悟。それがまた痛くて「痛っ」と声を漏らし体をピクンと反応させながら下半身にむずむずとした感覚を覚えてしまった。

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