still I don't want to lose you


“今日会える?”
そんな電話一本でかったるかった屋根の修理にやる気が出た。予定していた時間よりも早く終わらした俺に依頼主のおっちゃんが驚いて本当にちゃんとやったのかとしつこいくらい聞いてくる。うっせーな、だらしなくてテキトーで都合のいい男だってやることはちゃんとやんだよ。ぎゃーぎゃーうるせー依頼主から報酬を受け取り原チャに飛び乗る。なまえが待ってんだ、一分一秒でも早く帰りてぇー。

「あれ?仕事だったんじゃないの?」

「おう、屋根直してきた」

階段を駆け上がったから息が上がっている。そんな俺をなまえが笑ってお疲れ様と招き入れてくれた。お疲れ、俺。汗をかいてて臭ぇーかもと言えばシャワー浴びていいよと声が返される。最近のなまえは少し前の情緒不安定だったのが嘘みたいに安定している気がした。もしかして俺のおかげ?なーんて。気分が良くなって鼻歌交じりにブーツを脱いで、邪魔しまーすと小さく呟きリビングへ続く廊下を歩いた。

「はいタオル」

「おー、わりーな」

なんかこれ、同棲してるカップルみたいじゃね?なんてバスタオルを渡されただけで顔がにやけそうだ。太陽の下で朝っぱらから働いた甲斐があるってもんよ。

「あ、その前に水貰ってい?喉が渇いて渇いて…」

勝手知ったキッチンでグラスに水を注ぐ。ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら潤して「はあー生き返るー」なんて言ってみる。今の俺はとんでもなく機嫌がいい。このまま汗を流してなまえと同じシャンプーで頭洗ってこれまたなまえと同じボディーソープで体を洗ってなまえの匂いに包まれて、んでもってその後はなまえを抱く。幸せって多分こういう日のことを言うんだろうな。シンクにグラスを置くまで、俺はそんなことを思っていた。空になったグラスをシンクへ置いた時、ふと視界に入った吸い殻。煙草を吸わないなまえの家には不釣り合いなそれに一瞬息を吸うことさえ忘れちまった。

「なまえー、お前って煙草なんか吸うっけ」

どくんどくんと脈が早くなる。冷房が効いた部屋は丁度いい室温を保っているはずなのに額に汗がじわりと浮き出た。もしかしたらなんとなく、今更だが喫煙者デビューを果たしたのかも知れない。そんな淡い期待を抱いて問いかけてみたが、一瞬で粉々に打ち壊された。

「煙草?私が?」

吸わないの知ってるでしょ、と言ったなまえが「はいパンツ」と新品ではないパンツを手渡してきた。黒いトランクスだ。

「…あーそういうこと」

多分この吸い殻は黒いトランクス野郎のものだろう。「なんか言った?」と聞こえたが無視をしてシャワーを浴びるべく浴室へと向かった。節水型のシャワーヘッドが取り付けられているなまえん家のシャワーは水圧が弱い。頭の中を空にしたくて、顔面から水を浴びてみたが弱い水圧じゃ全然スッキリしなかった。ダッセーな俺、浮かれて馬鹿みてーじゃん。つか無地の黒いトランクスとかダサすぎねえ?遊び心がねーっつーか、パンツから見て多分すげーつまんねー野郎だろうな。どこの誰のかわからねーパンツに足を突っ込みながら犬のうんこでも踏んでくれと願った。

「さっぱりした?」

そんな俺の心なんざ露知らず、なまえはいつも通りだった。なまえが俺をそういう目でみてねーことなんかいやってほど知っていたはずなのに、その態度に腹が立った。嫌われたくなくて、関係を終わらせたくなくて、どんな形であろうとも繋がりが欲しくて、今まで大事に大切に手を出してきた女。都合のいい男だって自負していたはずなのに、苛立ちが隠せそうもない。

「銀時?」

「無駄話はいいからヤろうぜ」

「え?ちょっ、」

「だってその為に呼んだんだろ?」

「なに、怒ってんの」

は?

「怒ってねーよ」

「だって目が、」

「ごちゃごちゃうるせーな、セフレだろ?」

いいからヤらせろって、もうなんかだりーから。もうなんか、お前の中に入らねーと気が収まんねーから。
リビングでそのままなまえを押し倒した。ガタンと音を立てたテーブルの上で麦茶が倒れて床にぴちゃぴちゃと浸る。

「お茶、お茶溢れて、」

「あ、ゴムどこだっけ」

「ゴム?寝室だけど、」

「取り行くのめんどくせーからいっか、外に出すわ」

「え、もう挿れるの?」

前戯もなしに自身を入り口へ充てがう。なまえが不安そうな顔で俺を見上げていた。それでも嫌がらねーからホッとするような、虚しくなるような。慣らされてねーんだぞ、こんな乱暴に抱かれるっつーのになんで怒らねーんだよ。俺今までこんな抱き方したことねーだろーが。嫌だって言えよ、もっとちゃんとシてって言えよ。受け入れてくれるなよ。

「あっ、」

いつもより狭く滑りの悪いそこは、それでも俺をずぶずぶと飲み込んだ。感情のままに抱いているのにいつもより興奮したらしく何度も何度も腰を打ち付けていれば快楽に顔を歪ませたなまえの中はいつも以上に濡れていた。そして俺は呆気なくイった。太ももにぶちまけたそれを黒いトランクスで拭う。

「ざまーみろ」

俺の精液でベタベタになったパンツに悪態を吐く。それを見ていたなまえが小さく「ごめんね」と言った。

「謝ってんじゃねーよ」

ああくそったれ、もうセフレでさえいれなくなっちまった。なまえを抱きしめてみても腕を回し返されることはない。この日俺は多分初めて、泊まらないで帰った。もう簡単に呼び出してくれるなと一人街灯のない路地を歩いた。