沖田くんと付き合って(お試しだけど)一年が経とうとしたある日テーブルの上にゼクシ○が置いてあった。突っ込むのも面倒臭かったので華麗にスルーをしていると次もその次も発売日になるとテーブルの上にゼ○シィが置かれるようになった。もう3冊目だ。これはスルーすればするほどゼクシ○が増えていってしまうと気づき、3冊目でやっと私は沖田くんに突っ込んでみることにした。

「これなに?」

「○クシィ。知りやせん?」

シレッと言われても反応に困る。知ってるよよく知ってる、結婚を考えてる時に買うものだよね?どうして買ってきたのと聞くのはまた違う気がして口ごもってしまった。すると沖田くんはファミコンのコントローラーを置いてこちらへ顔を向けた。

「俺こないだ見合いしやした」

「え?」

「とっつぁんの知り合いの娘と」

あっ、そう、なんだー…
飼い犬に手を噛まれるって、こういう時に使うんだっけ?あれ、違うっけ。あ、そういえば麦茶作るの忘れてたなとかナプキン買っとこうと思って今日買うの忘れちゃってたな、とか。どうでもいいことが頭の中を過ぎる。沖田くんは珍しく真剣な顔をしていて私はどこに目を向ければいいか分からない。

「どう思いやした」

「え?」

「見合いしたって聞いて」

胡座をかいている沖田くんと正座をしている私。なんだかお腹が痛くなってきた気がする。

「別に、どうも思ってないよ」

まだ若いのにお見合いとかするんだなって、驚いただけだよ。
ヘラっと笑った。そうか、真選組って一応幕府と関係あるんだもんね。しょっちゅうサボってうちでゲームしてるけど一応、私よりちゃんとした職に就いてるんだもんね。そりゃ、お見合いとかの話もあるわな。視界の隅に入った○クシィにカッと体の中が熱くなる。私へじゃなかった、その子との為に買っただけだった。ホッとするはずなのに勘違いしたことが恥ずかしくて感情が上手く処理できない。すると沖田くんは聞いてもないのに相手の女の子のことを話し始めた。

「俺の二個下で、なんか目ん玉がガラスみてぇーなヤツでしたぜ」

それは若くて目がくりっとしてるってことであってるのかな。

「肩が薄っぺらくて手首なんか掴んだら折れちまいそーでねィ」

華奢で守ってあげたくなるような子ってことかな。私の手首はそんなことないから跡が付くくらい押さえるんだね。それでも私はへらへらと笑顔を繕っていた。沖田くんはジッと私の目を見て話を続ける。

「月二回飯とか食うってなりやしてねィ、あ、こないだはあちらさんの希望で遊園地に行ったんでさァ」

私はデートらしいこと、したことなかったな。
もうなんか、聞きたくなかった。沖田くんの視線から逃げたくて沖田くんを視界に入れたくなくて…立ち上がってキッチンへと向かう。

「今日素麺の予定だけどどうする?」

鍋に水を入れながら背中越しに問いかければ沖田くんの「いや、今日は帰りやさァ」が聞こえた。

「そっか、分かった。気をつけて」

いつもなら玄関まで見送りに出てまたねなんてキスをしている。でも今日はガス台の前に立ってそちらを見ないでまたねと言った。沖田くんがこちらを見ている気はしたけれど。バタンと閉まったドアにホッとした。無人となったリビングを見て片付けられていないファミコンに眉が下がる。テーブルの上に3冊積み重ねられたゼクシ○をゴミ箱に入れかけてから廃品回収に出さなきゃと妙に冷静な判断ができた。部屋の至る所にある沖田くんの私物に喉が詰まる。大きく息を吸って肺をいっぱいいっぱいに広げて、吐き出した。それでも全然気分は上がらなくて、気づいたら鍋から水が吹きこぼれていた。拭かなきゃとタオルを取りに行って私の畳み方じゃない畳まれ方をしたタオルを手に床が水浸しになってしまうとかどうでもよくなった。なんだかもう、いろいろと面倒くさい。