仕事から帰ってきたら沖田くんが家に居た。いつの間にやら合鍵を作ったらしい。ベランダに干しておいた洗濯物は畳まれていて、キッチンにはカレーが作られてあった。
「ただ、いま」
「おけぇーり」
お試しで付き合い始めて3ヶ月、沖田くんはまだ私に飽きていないらしい。それどころか日に日に懐かれ度が高まっている気がする。今じゃ私の部屋だけれど「爪切りってどこだっけ?」とか「ティッシュのストックあったっけ?」とか私が聞くようになっていた。
「洗濯物ありがとうね」
「カレーも」
「うん、ありがとう。お腹すいた?」
ご飯にする?と聞けばこくんと頷く。ファミコンやら雑誌やら漫画やら、沖田くんの娯楽物が徐々に増えて今じゃ私がジャンプを毎週買うようになってしまった。慣れとは怖いもので、あんなに嫌がっていた交際も結構気に入ってきてしまっている。だからこそこういう、何気ない日々に怖くもなるんだけど。
ご飯を食べてシャワーを浴びようとすれば沖田くんが一緒に入りやす?と聞いてきた。
「狭いよ」
「別に構いやせんぜ」
じゃあお湯溜めてくると言った私とタオルを用意してくれる沖田くん。こんなおばさんのどこがいいんだろうと思いつつもこんな日がずっと続いたらいいなとか。気づけば沖田くんにハマっていた。二人で湯船に向かい合うように浸かって、今日はこんなことがあったとか昼飯に食べたラーメンがどうだったとか、駅前のコンビニが潰れるらしいとかいろんな話をした。まだ三ヶ月、されど三ヶ月。ほぼ毎日のように繰り返される生活を手放したくないと思ってしまう自分が怖い。どうせ男なんて若ければ若い女の子の方がいいに決まってるのに。
「急にブスッとしてどうしたんで?」
キョトンとした顔で聞いてくる沖田くんに絶対そんなこと言わないけど。余裕のある女でいたい、年の差分くらいは。
「のぼせちゃったみたい」
「じゃあ出なせぇーよ」
額にへばりつく前髪を後ろへ上げてオールバックにした沖田くんがあとでアイス買いに行きやしょうと言った。湯冷めするよと言った私に沖田くんは笑っていた。ドライヤーは沖田くんがやりたがった。私の後ろに座ってボクサーパンツ一枚で髪を乾かしてくれる。おかげで今までめんどくさがって濡れたまま寝ていた私も今じゃすっかり乾かしてからじゃないと寝れなくなった。髪の毛のコンディションもすこぶる良い。乾いた髪に指を滑らせ沖田くんはご機嫌だった。ベタに甘えたがる年下の男の子にハマったアラサーはきっと絶対傷つくに決まってる。
「アイス買いに行く?」
「んー…その前に」
一発ヤっとく?とブラジャーの隙間から指を滑らせる。こう求められるのも悪くない。一度も好きだと言ったことはないけれど最近はうっかり言ってしまいそうになる。
「ゴム、おとといので最後でしょ」
「外に出しゃー問題ねぇーんで?」
つか中に出してもいいって言ってたじゃねぇーかともうヤる気に満ちた沖田くんのそれが腰に当てられた。若いんだよなあ、こういうところが。まだ三ヶ月しか一緒にいないんだよ?もしも、もしもそうなったらどうするの?貴方まだ18歳なんだよ?そう思っているのにいつも流される。きちんとした避妊なんか最初からしていなかったようにと思うけど最近は怖くなっていた。
「できたら困るから中はダメだよ」
「俺ァできた方が好都合だけどねィ」
そんなことを簡単に言ってしまうから若いのだ。なんの覚悟も責任も感じていないくせに。シャワーを浴びたのに私たちは汗だくになって二回もしていた。沖田くんの若さにあと何年ついていけるだろうか。
「もうアイス買いに行く時間ないじゃん」
「じゃあ帰んのやめて泊まって行きやしょうか」
「だめ」
「ほらな、言うと思った」
沖田くんを泊めたことはない。一度0時過ぎまでうちにいた時近藤さんと土方さんから沖田くんの携帯に恐ろしいくらい着信があったからだ。まだ周りが心配するくらい若い、10代の子。別に何かを言われたわけじゃないけれど、それ以来23時には帰らせるのが私なりの誠意だった。
「じゃあまた来やす」
「着いたら一応連絡してね」
「いっつも寝てんじゃねぇーか」
「でも一応。起きた時に安心するから」
「なら一緒に寝りゃーいいのになァ」
ぶつくさ言う沖田くんをはいはい気をつけてねと流し玄関先でまたねのキスをする。沖田くんと一緒にいると私まで若返った気になって少し大胆になった。今までの私じゃバイバイのキスなんかしなかったよなあ、絶対。この日もいつも通り見送って眠りについた。また明日きっと沖田くんはうちにやって来るだろう。