婚活ラッシュにあてられてひとり身を寂しく思ったんだと思う。あんまり自分では意識していなかったけど潜在的に思っていたのだろう。じゃなきゃ説明つかない、じゃなきゃどうしたって消化できないのだ。人生初めて、法を犯してしまった。

「嘘でしょ…」

昨日は飲んだ、しこたま飲んだ。友達の妙ちゃんのお店に行って、妙ちゃんとまたご祝儀貧乏になっちゃうねなんて笑っていた。それで私たちはいつになるかねなんて話していた。でも妙ちゃんは私と違ってまだまだ若いから全然焦ってなかった。そうしたら何故かだんだんピッチが早くなって、えっと、それで…
隣で眠る男…というには若すぎる。若すぎるのだ。明らかに情事後としか思えない部屋の様子に顔面蒼白になるってこういうことかと思った。震える手でベッド脇のゴミ箱を覗く。恐る恐る手を入れて探って寝起き何度目か分からない落胆を覚えた。無い、無い、無い。ゴムがない。んん、と声が聞こえてビクついた。起きないでまだ起きないで。急いで脱ぎ散らかしたのであろう散乱している服を拾い集める。一応背を向けてブラジャーの紐に腕を通していると「おはよーございやす」と声がした。またも私はびくっとした。

「お、はよう…」

語尾が弱くなる。振り向くに振り向けない。だってこの子、だってこの子。昨日の記憶は完全に消えてくれていなかった。思い出す、妙ちゃんの店での会話を思い返して、もうどうしたらいいかわからない。

「なに背ぇ向けてんでさァ。こっち向きなせェよ」

「いや、大丈夫、ほんとこのままで大丈夫です」

「昨日は離せつっても離れなかったじゃねェか」

イヤダイヤダ聞きたくない、そんな記憶は覚えていない。声を聞いてふわふわしている記憶が鮮明になっていく。

「なまえサン」

「はい…」

「俺腹減ったんだけど」

「はい…」

「寿司食いてぇなァ」

「はい…」

震える手でブラジャーのホックをとめてパンツを履いて、まだ下着姿だけど素っ裸より全然いい。テーブルの上に置かれたバッグから財布を取り出し一万円札を抜き取った。

「ここは払っとくから、帰り際に食べて」

まっすぐ顔なんて見れるわけなくて俯く。いやね、これがね、あの黒髪のイケメンだとか顎髭がダンディーだったゴリラ顔の人だとか、愛想笑いで終始やり過ごしていた幸の薄そうな人だとかだったら別に、こんなにも心が痛むことはなかったの。酔っ払ってヤっちゃったなんてそんなのこの広い世界じゃよくある話だと思うの。そうじゃなくて、初めて会った人とヤっちゃったからどうとか言ってるんじゃなくて…
差し出した一万円札をぐしゃりと潰しながら私の手を握った男が私の足元にしゃがみ込んだ。そして俯く私の顔を覗き込んで笑う。

「ひでぇやお姉サン。俺のことは遊びだったんで?」

言葉と顔がミスマッチ。そんな笑顔でそんなヤり捨てされる女のようなセリフを吐くもんじゃない。二つの大きな目から目を反らせばぶらりとぶら下がるソレが視界に入って、やらかしてしまったことの大きさに目眩がしそうだった。

「いや、あの、そこに至るまでの経緯がまるっと抜け落ちてるっていうか、その」

とりあえずパンツ履こうか、パンツ。タオル巻くとかでもいいからしまって欲しい。もう頼むから一万円で手を打って欲しい。

「覚えてやせん?べろべろになったなまえサンが歩けねぇから送れって。近藤さんが俺に送ってやれって言ったもんで仕方なく送ろうとしたら急にえっろいキスしてきて〜、思い出せそうですかィ?」

立ち上がり耳元で「なんならもう一回シてみやす?」と言った。そして耳をぺろりと舐めやがった。やめてくれ、耳はダメだ耳は。あ、あと首筋もダメ、弱いの私そこ。肩に触れる髪の毛がくすぐったい。あっ、や、大丈夫ですと言うのが精一杯だった。これ以上過ちを重ねてたまるかって。

「それはそれは、ご迷惑をおかけしたみたいで…はい、あの…」

骨盤付近に感じる感触に言葉が詰まる。もう本当に勘弁して。10代って若いよね若い。朝起きたてからそんな、えっ?

「あーなんかシたくなっちまったなァ…寿司はあとでにしてとりあえず一発ヤっときやすか」

「あ、ちょ、ダメだって、待って本当にっ」

首筋に噛み付いた男はそのまま私をベッドへ押し倒した。ブラの紐をずらして、背に回した手で器用にホックを外す。私の上に乗っかった男が笑った。

「遊びなら淫行になりやすぜ?」

「あっ、」

悪魔のような笑顔で男は私の唇を噛んだ。私はとても冴える頭でこの後警察に捕まるところを想像していた。年下といえど男だ、力でどうにか振りほどけそうもない。どう見たって一回目は思い出せないけどこれは私が襲われているけれど確か条例じゃ成人が悪くなるんだっけ。ああもうどうとでもなれって。

「ゴム」

「はい?」

「ゴムはつけて、お願いだから」

「昨日は要らねぇって言ってやしたぜ」

「わ、たしが?」

「そんで中に出してって」

「ほ、本当に?」

「まあその方がいいと思いやすぜ」

「なにが?!」

「付き合っちゃえばいいじゃねぇーですかィ」

あ、濡れてらァと指を突っ込んでみただけで挿入した男は目の前の快楽に飲まれて頭が回っていなかったに違いない。