ゼ○シィ事件と名付けたあの日から一週間が経った。今まで最長でも会わない日は3日くらいしかなくてこんなにも会わなかったのは初めてだった。ただいまと言っても帰ってこないおかえり。ご飯も一人分となると納豆ご飯で事足りた。暑さでフラフラするなあ、と思いつつも栄養を考えた食事をとりたいと思えない。たかだか一週間会えないだけでこんなにも自分がダメになるのかと驚いた。好き、だったのだろうか私は沖田くんのことが。
「あっ、すみません」
でも流石にこれじゃ仕事もままならないと栄養ドリンクを買いに行こうと薬局に向かっている途中でふらついてすれ違った人とぶつかってしまった。すみませんと頭を下げて歩き出した時、腕を掴まれる。
「アンタ、具合でも悪いんで?」
振り返らなくても分かった。声だけで分かってしまう。正式にいうと喋り方もだけど。その途端なんだかずっと器官に突っかかっていたものが落ちたような気がした。
「顔色はよくねぇーしなんかフラフラしてらァ」
そう言って初めて会った時みたく私の前に回り込みしゃがんだ沖田くんが顔を覗き込む。一週間前に見た顔なのにすごく懐かしく感じた。
「大丈夫、ちょっと夏バテ気味なだけで」
「今からそんなこと言ってっと盆には死ぬんじゃねぇーの」
「体力が落ちてるんだよ、もう若くないから」
「よく言いやさァ、3ラウンド目でもアンアン喘ぐくせに」
久しぶりに会ったのに沖田くんの口からはいつも通りの下品な言葉が吐き出される。3ラウンドなんかもう最近してないじゃないか。そんなのもう無理に決まってる。何してるのと聞けば見りゃわかんだろィ仕事中でさァと言われた。沖田くんが仕事をしてるところ初めて見る気がする。
「見回り?」
「まあねィ。したらフラフラしてるゾンビみてぇーな女がぶつかってきたんでねィ」
「ご飯食べてる?」
「俺は食ってやすぜ」
「私も食べてるよ」
「のわりにはなんか細っこくなりやしたね」
「ダイエットしてるの」
「あんま骨張ると抱き心地が悪くなりやすぜ」
ごしごしと私の目をこする沖田くんは笑っていた。とても嬉しそうな顔をしているから腹が立って爪先を踏んでやった。なんで笑ってるの。
「そりゃ笑いたくもならァ。俺ァなまえサンの泣き顔が一番の好物だからねィ」
俺がいなくて寂しかったんで?とニヤついて聞いてくるから首を横に振った。すると沖田くんは「そうですかィ。じゃ、真面目に職務に戻りやすかねィ」と立ち上がったから咄嗟に手が出た。
「なんでさァこの手」
「…私の右手」
「が、俺の服引っ張ってやすね」
ほらほら早く行かないと土方さんがあっちで待ってるんですぜ
指差す方向には土方さんがちょっと気まずげに頬を染めてたばこを吸っていた。私と目が合ってしまってパッと顔をそらされる。
「土方さんに諸々がバレた気がする」
「諸々って?」
例えば私たちが恋人ごっこをしてたこととか、例えば私が今沖田くんと会って泣いてることとか、例えば私がゼク○ィを捨てられなかったこととか全部だ。
「なんで私の家にゼ○シィなんか置いてったの」
「買ったから」
「なんでお見合いの話をもっと早くしてくれなかったの」
「聞いてこねぇーから」
「遊園地、私と行ったことないくせに」
「なまえサンが俺と出掛けたがらなかったんだろィ」
「その子抱いたの」
「ヤキモチ妬いてんで?」
「馬鹿にしないで」
「してやせん」
「私を試さないで」
「お試し期間とかいって試してきたのはそっちだろィ」
もうアンタ俺にどうして欲しいんでさァ
そんなこと私だって分からない。
「だったら最初からセフレでいれば良かったのに」
「なんでもいいけどさっきから全部俺のことが好きって言ってるようにしか聞こえやせんぜ」
好きなわけないじゃん。好きになるわけないじゃないか。10歳も年下の男の子なんか、好きになったってどうしようもないじゃん。
「好きなんて言ったことない」
「俺は何度も言いやしたけどねィ」
いつも流してまともに取り合ってくれやせんでしたねィと言われてもうどうにでもなれと思った。
「私が好きって言ったら困るの沖田くんなんだからね」
「なに言ってんでィ分かってねぇーなァ」
こっちとら介護して看取る予定で口説いてきたんですぜ、若者ナメんなと言われちゃ私の負けだ。