「これで買うもんは揃ったのか?」
「はい。高杉さんは何か必要なものありますか?」
「特にねえけど。あ、家賃を払いに行かねえと」


洗剤がもうすぐ無くなりそうだと朝食を食べながら漏らせば買いに行くかと、高杉さんが車を出してくれた。車で来ているんだから必要なものはとりあえず買えと言われトイレットペーパーやらシャンプーなど、二人共通で使うものはストック含め買い置きすることにした。

家賃を支払いにと高杉さんがやってきたのは私が契約した不動産屋だった。中へ入れば坂田さんが奥からひょこっと顔をのぞかせた。


「おー、上手くやっていけてるみてえだな」
「うっせ。家賃払いに来たんだよ」
「へいへい、毎度ー」


二ヶ月分まとめて払うらしく、財布から万札を束にして抜き渡す姿に目を見開く。普通の人はそんな金額財布に入ってないと思うんですよね。私なんてその三分の一入ってたら、いい方です。


「なまえちゃんだっけ?大丈夫?孕まさられてない?」
「余計なこと言うな」
「大事なことでしょうがっ!」
「んなこと起こるわけねえだろ」
「おいおいあの晋ちゃんが?女が同じ屋根の下にいるのに?」
「てめえの中で俺はどんだけ欲求不満なんだよ」
「欲求不満っつーか、性欲の塊っつーか」
「てめえにだけは言われたくねえ」


馬鹿が移ると言いながらも、ソファーに腰を下ろすから私も隣に腰を下ろした。
坂田さんが「茶といちご牛乳どっちがいい?」と聞いてくれる。コーヒーじゃなくていちご牛乳チョイスなのか。


「まあでも、上手くいってんなら良かったわ。なまえちゃんも大変じゃない?晋ちゃんったら結構天邪鬼で意地っ張りだろ?そのくせ寂しがりやさんなんだから」
「おい、晋ちゃんやめろ。つかお前は俺の母親か」
「はぁ?高杉みてえなガキ産んでたら孫だらけになっちまうだろーが」
「そこかよ」


そんな会話からも仲の良さが伺える。本当に仲がいいんですね、と言えば声を揃えて「腐れ縁だ」と返された。いやいや、仲がいいと思いますよ。


「つかさ、二人でどこ行ってきたの?デート?」
「買い物」
「あーショッピングデートね」
「日用品の買い物」
「はいはい、同棲してるんだもんね」


もう面倒くせえと言いたそうに高杉さんは煙草を取り出した。私なんかとデートだとか言われて気分でも害されてしまったらどうしようかと思ったけれど、その心配は必要なかったらしい。目が合えば「どうした?」と気にかけてくれた。


「腹でも減ったか?」


言われて時計を見ればもうお昼過ぎ。
いつもなら昼食をとっている時間だ。


「帰りになんか食ってくか。それとも家でなんか作る方がいいか?」
「どちらでも大丈夫です、何か食べたいものありますか?」


そんな会話をしていれば、坂田さんが驚いたようにこちらを見てくる。


「えっ、なんですか?」
「君たち本当にデートだったわけ?」
「えぇっ!?」
「つか付き合ってんの?」
「つっ、付き合っ、」


私と高杉さんが付き合うだとか、そんなの、あり得るわけがない。だって平々凡々の私と某有名会社社長の息子さんで株で生活出来てしまうほどのお方である。こうして一緒にいれるのだって、たまたま同居することができたからで普通に暮らしてたらまず出会うことすらなかっただろう。


「ただの同居人だ」


期待なんてしてないはずなのに、その言葉に少し悲しくなった。高杉さんは別に私を傷つけようだなんて思っていないんだろうし、事実を言ったまでなのだけど。


「……へえ。じゃあ俺が狙おうかな、いい子そうだし」


おっぱいもいい感じだし、と手をやわやわと動かし揉んでる真似をする坂田さんに高杉さんが馬鹿じゃねえの?と言う。
そして飯食い行くぞと立ち上がった。


「寿司食いてえ」


そう言って出て行く高杉さん。私も慌てて立ち上がり、坂田さんに頭を下げた。
高杉さんはもう車に乗り込もうとしている。


「なまえちゃん」
「はい?」


坂田さんに腕を掴まれ、呼び止められた。
ニヘラと笑う坂田さんは嬉しそうだ。


「高杉、いいやつだから。ちょっと背低いけどな」


よろしく頼むわ、と言うから頷いてみた。よろしく頼むって……私の方こそよろしく頼みたい。
車に乗り込めば遅えと言われてしまった。すみませんと謝りシートベルトを着ける。


「なに言われたんだ?」
「え?」
「さっき、なんか言われてたろ」
「あぁ。高杉さんのこといいやつだって言ってました」
「なんだそれ、気持ち悪い」
「あと少し背が低いって」
「あの天パ、いつか絶対ぶっ飛ばす」


運転している横顔を眺めれば、やはり本当に整ったお顔立ちをなされている。
坂田さんの言うよろしくっていうのは、きっと食事とか洗濯物とかだろう。
一人納得していれば「おい」と不意に呼ばれた。


「一人で銀時と会うんじゃねえぞ」
「え……?」
「犯されんぞ」


あぁなんだよかったそっちか。いやよくない。犯されるってなんだ、どんだけ坂田さんそっち方面信用されてないの。
ヤキモチ妬いてくれたのかもしれないとか思ってしまった私は急に恥ずかしくなった。
あぁもう、なんか、調子狂う。