新しいパソコンを買いに行くぞと誘われた。私なんかを連れて行ったところで電化製品になんの知識もないから意味がないと思うけど、誘われたのが嬉しくて二つ返事で支度をした。
あまり気合いを入れても気味悪がられてしまうかもといつも通りのラフな格好でリビングへ向かえば顔をしかめられた。


「え?変?」
「……いいんじゃねえの?」


そう言って高杉さんは玄関へと向かう。なんだか少し機嫌が悪そうに見える。どうしたの?と声をかけてもなんでもねえよしか返って来なかった。
そしてお目当のパソコンを買い家へと帰宅すればそのまま部屋にこもってしまった。
なにかしてしまったのだろうか。でも、別になにもなかったはずだ。あれかな、買ったパソコンの接続だとかやることがあるのかな?
そんな風に自分を無理矢理納得させた。

夕食の時間になっても高杉さんは部屋から出てきてくれなかった。忙しいのだろうと、おかずにラップをして冷蔵庫にしまう。お腹は空くだろうからリビングで待っていよう。
しかしいくら待ってもこの日高杉さんがリビングへやってくることはなかった。0時を回ったころ、さすがに眠くなってしまい私も部屋へと戻った。
もうあと二週間で、私はこの家を出て行かなければならない。なのに仕事と分かっていてもご飯も一緒に食べれないのは少し寂しく感じた。



あれから高杉さんは忙しいのか、初めの頃のように部屋から出てこなくなってしまった。ご飯を作っても冷蔵庫に溜まっていくだけになってしまう。それでももしかしたら食べたくなるかも知れないと作り続けていた。

部屋にかかったカレンダーの○印が近づく。高杉さんに会えなくなる日まであと一週間だという頃、ようやく気付いた。次に引っ越すところ決めなければ。

坂田さんの営む不動産屋へ行けば不思議そうな顔をされた。


「え?部屋探すの?」
「はい。出来れば初期費用がかからなくて家賃もあまり高くないところがいいんですけど……」
「それ高杉は知ってんのか?」


なにを言ってるんだろう。知ってるもなにもだって最初から三ヶ月の約束じゃないか。
はい、と頷けば坂田さんは頭をかきながら「あーそう?ならいいんだけど」と言っていろいろ資料を出してくれた。


「ここなんてどうよ?なまえちゃんだし初期費用0円で構わねえぜ?」


そう言って渡された物件はとてもじゃないが家賃は高いし一人で住むには広すぎる。無理ですと突っぱねれば家賃は半分でいいという。


「それすごい怪しくないですか?ルームシェアでもないのに、そんな……」
「いやこれもルームシェアだから」
「え?」
「相手は男だけど、なまえちゃんそういうの気にしないタイプでしょ?いいと思うけどなー」


あぁそういうことか、ルームシェアか。なら納得だ。また男の人か、高杉さんみたいな人かな?もっと怖い人かな?
一気にいろんなことを考えればなんだか疲れてしまった。


「じゃあそこでお願いします」
「あいよー。困ったことあったらこの銀さんに言ってくれればいいからさ」


妥協したわけじゃない。ただ高杉さん以外なら誰だろうともうどうでもよく思えてしまいそこに決めたのだった。
寂しいけど、最初から決まっていたことだから仕方ないのだと言い聞かせて。

帰宅すれば高杉さんが部屋から出てくるところだった。最近まともに顔を合わせていなかったし、会話をしたわけでもなかったからか気の利いた言葉が出てこない。
そんな私に高杉さんは「銀時のところに行ってきたのか」と言った。


「あっ、うっん。部屋を探しに……」
「聞いた」
「あ、だよね」


逃げるよう足早に高杉さんの前を通り過ぎようとすれば腕を掴まれる。そして引かれるように高杉さんの部屋へと招き入れられた。


「俺にはなんの相談もねえのか」
「え……」


壁に追い詰められたというか、ドアのすぐ側だったから後ずさったらすぐドアにぶつかってしまったというか……
逃げ場を失い、なおかつ目の前に高杉さんがいる。心臓が飛び跳ねるように脈を打った。


「だっ、て」


部屋から出てこなかったじゃないか。ご飯だって食べてくれなかったじゃないか。
私を睨む高杉さんにムカついた。相談しなかったのが悪いと言うなら、顔を合わせないで話す機会すら持ってくれなかった高杉さんはどうなんだ。


「勝手に決めんじゃねえよ」


そう言った高杉さんは少しだけ、顔を歪ませていたから私はごめんなさいとしか言えなかった。
しばらくして高杉さんが部屋を出て行ってしまい、そのまま玄関が閉まる音が聞こえた。あと一週間、あと七日しかないのにまたこうやって気まずくなってしまうのかと思えば悲しくて悔しくて涙も流れ落ちた。
夕食の支度をしようとリビングに出て、シンクに置かれた食器に目を向ければ高杉さんは朝食を取ったらしかった。朝作っておいたハムエッグを乗せたはずのお皿が置いてあった。