高杉さんとのルームシェアも残り一ヶ月を切った。少しでも一緒に居たくてバイトを早朝シフトのみにしてみた。朝はゆっくりな高杉さんは私がバイトから帰ってきた頃のそのそと起きてくるから一緒にお昼ご飯も食べれるようになり、以前より少しほんの少しだけ距離も縮まった気がする。


「バイトやめたのか?」
「ううん、朝だけ行ってるよ」
「銀時が……」


お昼ご飯を一緒に食べていれば急に口籠る高杉さん。坂田さんがどうしたの?と聞けばなにやら歯切りが悪いらしい。
言いたくないなら、とそのままご飯を食べ始めた。


「今日来んだと」
「坂田さん?」
「それで、あいつ、」


こんなに言葉につまる高杉さんは初めてだ。何か重要な話かもしれないと手を止めればこっち見んなと言われてしまった。なんだって言うんだ。


「お前は部屋から出るな」
「え?」
「なんか音楽でも聴いてろ」
「……私がいたらマズイなら出掛けるよ?」


あぁそうか、彼女が来るのか。なるほどなるほど、ちょっと苦い。
私がいたら彼女が傷つくのだろう、かき込むようにご飯を平らげ席を立った。気にしてないフリをしなければ。


「まずくはねえよ、いたって」
「だめでしょ、いい気はしないと思う」
「あいつはそんなこと気にしねえよ。だからこないだも」


ハッとしたように口を閉ざすから、こないだと言われて浮かんだ'あれ'を思い出してしまった。同居人がいるということは言っているのだろうか。まあ気にしてたらあんなに大きな声は出せないよな。


「でも女だって分かったら嫌だと思うよ」


逃げるように食器を片付けて、出掛ける支度をした。早く出掛けないとどこかで鉢合わせしてしまうかも知れない。
行ってきますも言わず玄関を出れば、坂田さんが立っていた。


「うっお、びっくりした。どっか行くの?」


あれ、本当に坂田さんだ。ちょっとそこまで、と頭を下げエレベーターの方へ行こうとすれば残念と言われ振り返ってしまった。


「なまえちゃんも誘おうと思ったんだよね、一緒にどうよ?」
「え」


そう言ってガサガサと持ってた袋から出されたのはAVだった。しかも結構過激な。突然そんなものを見せられて戸惑ってしまう。すると玄関が開いて、高杉さんが顔を出した。


「てめえはなに人ん家の前でンなもんさらけ出してんだよ」
「なまえちゃん誘ってたんだって。どうせならみんなで映画鑑賞しようぜって」
「そんなもん鑑賞するわけねえだろうが、いい加減てめえの家で見ろよ気持ち悪いな」
「またまたー今日は高杉の好きなタイプ借りてきたからね、感謝されても気持ち悪いって言われる筋合いはねえーよ」


なまえちゃんも暇ならどうよ、と誘われ手を引かれるままにリビングへと戻ってきてしまった。隣には溜息を吐く高杉さん。そしてデッキの前で「どれから見てえ?」とはしゃぐ坂田さんだ。


「高杉さん、これは一体……」
「あいつ仕事休みの日、わざわざここでAV観てんだよ。こないだ聞こえなかったか?音量上げやがるからなるべくお前がいない時にしてたんだけどな」
「えっ……じゃあこないだのって、高杉さんが女の人としてたんじゃ、」
「てめえもいんのに、そんなことするわけねえだろ」


俺は見せる趣味なんざ持ってねえ、と呆れたように高杉さんは言った。なんだ、良かった、違ったのか。
嬉しくなってにやけてしまえば坂田さんが「なまえちゃんも結構こういうのが好き?」と再生ボタンを押した。その途端画面には裸の女の人が映し出され、こないだ聞いたような声が響く。男の人はこんなのを見て興奮するのだろうか、結構グロい気がする……
目を背ければ暖かい手が視界を覆った。


「銀時、一人で観てろよ。こいつ部屋連れてくから」
「はぁ?なに?これからおっ始めるってこと?」
「違えよ。俺はこういうの趣味じゃねえんだよ」


相変わらずノリ悪いな高杉は、と坂田さんがぼやいた。そして私は視界を抑えられたまま高杉さんに連れられリビングから脱出した。生まれて初めてAVを見た気がする。他人から見た行為って意外と間抜けなんだなと思った。
そして部屋に連れてくと言っていたから私の部屋に戻してくれるのかと思っていたけど、なんと高杉さんの部屋だから驚いた。


「えっ、ねぇ、」
「馬鹿かお前は。襲わねえよ」
「そうじゃなくて……だって、部屋に入るのは」


禁止じゃなかったですか?いやこの場合連れられてきたわけだから、いいのだろうか。


「お前一人で置いといてなんかあったらどうすんだよ」


男はみんな狼だと思え、と言ってパソコンに向かう高杉さん。もしかして、心配してくれているの?坂田さんが何かするかもって?


「坂田さんとお友達なんだよね?」
「腐れ縁だっつったろ」
「それでも心配なの?」
「あいつは頭も下半身も軽いからな」
「高杉さんも男だから狼になる?」


キィとイスが回って高杉さんはこちらを向いた。そして唇を薄っすら開けて「そんな安い男に見えんのか」と言った。
それがもう、かっこよすぎて私はフルフルと首を振ることしか出来なかった。


「とりあえず銀時が帰るまでトイレも我慢しろ」
「えぇ?それはさすがに」
「だめだ」
「うっ、はい……」


あぁもう、あと二十日ほどでこの人と会えなくなるなんて、そんなの嫌だ。