誕生日

「ハッピバースデートゥーミー、ハッピバースデートゥーミー、ハッピバースデーディアなまえー…って虚し」

会社帰りにコンビニで買ったケーキをテーブルに置いて一人寂しく祝う誕生日。去年までは学校の友達が祝ってくれたり親が祝ってくれたりしていたのに、彼氏もいない一人暮らしの私はヒッソリとケーキを食べるしかなかった。銀時でも誘おうと思ったのに、全然帰ってこない。一人で食べるケーキがまさかこんなにも美味しく感じないなんて思わなかった。

「銀時に電話番号くらい聞いとけばよかったな」

振られた腹いせに消してしまった携帯番号に、今更ながら後悔する。あーあつまんないの、と口を尖らせながらテレビのチャンネルを変える。面白いテレビも特にやってない。お風呂も入り終えてしまったしもう寝ちゃおうか、誕生日だけど。起きてれば起きてる分虚しさに押しつぶされそうだわと思っていた矢先、銀時の帰宅を知らせる足音が聞こえた。
嬉しくて勢いよく玄関を開ければ何故か「いってぇぇえええ!」とドアが銀時にぶつかった。

「えっ?!なにして…」

「おめーこそ何してんだよ!そんな勢いよく玄関開けるやついるかっ!!」

「ええ?!えっ?!」

痛えと額を抑えしゃがんでいる銀時に大丈夫?と手を差し伸べる。あー…赤くなっちゃってる…。
前髪を持ち上げるように手で押さえる。痛い?と赤く腫れてるところを押せば「痛えに決まってんだろ、ゴリラ女」と言われた。むかついたのでもっと強く押してやった。

「いってぇぇえええっつーの!!なんなの?お前なんでそんな攻撃的なの?!」

「ゴリラ女って言うからでしょ」

「ゴリラ女だろーが。中三の時の握力男並みだっただろーが」

「そんなにないわ!」

で、人ん家の玄関先で何してたの?なんて可愛くないことを言った私に銀時が手にしていた小さな紙袋を投げた。

「え?」

「誕生日だろ、今日」

「…なんで知って、」

「何年祝ってきたと思ってんだよ」

ま、昼頃思い出して休憩の時買いに行ったから大したもんじゃねーけど。なんて言ってるが、紙袋に描かれているロゴからして安いものではないと分かった。今までも銀時からプレゼントを貰ったことは勿論ある。でもこんな高価なものはもらったことがない。これが学生と社会人の違いなのかと少しドキドキした。

「要らねーの?」

「…ううん、嬉しい。ありがとう」

鼻がつんとして、目がじわりと熱くなる。スーツをぱたぱた叩きながら立ち上がった銀時が私を見下ろしながらおめっとさん言う。そのおでこは赤く腫れていて、嬉し涙を流しながら笑った。

「銀ちゃん、たんこぶになってる」

「てめーのせいだろーが。ったくよー」

「冷やす?」

「保冷剤とかあんの?」

「ううん、ない」

「はあ?」

「氷水とタオルで冷やしてあげる」

中入ってよ、ケーキ買ったんだと言った私に、銀時は「一人でケーキ食ってたのかよ、寂しい女」と言った。寂しくなんかない。銀時が誕生日を覚えていてくれたなら、寂しいわけがない。
二つ入りだったケーキを食べながら、銀時のおでこを冷やした。ケーキを食べ終えて、貰ったプレゼントを開けることにした。銀時は俺が帰るまで開けんなと何故か照れていたが、そこは強行突破に決まっている。目の前でプレゼントを開封するのが恥ずかしいらしく、銀時は背を向けた。
紙袋を開けると中には箱が入っていた。白い箱を開ける。

「…腕時計」

茶色の革ベルトに白い円盤。大人っぽいその腕時計にまたも目頭が熱を持つ。

「なまえも一応社会人だし?大人の仲間入りっつーことで…」

「妹じゃなかったの?」

「いつまで引きずってんだよ、そんな昔のこと。忘れろって」

背を向けている銀時に、私も背を向けた。ぴたりと背をくっつけ、この場合銀時はどういう感情でそれを言っているのだろうと考える。
今はそう思ってねえよ?か。それとも昔のことズルズル引きずんなそういうところがガキ臭い!か。忘れろっていうのは…とぐるぐる考えてみて、誕生日くらい都合よく捉えてもいいんじゃないかと思った。

「ねえ銀時」

「んー?つか重ぇーんだけど。よっかかんな」

「三年前さ」

「なまえ」

"ごめんな"なんて言われたら、それ以上なにも言えるわけがなかった。